キリスト教vs.イスラム教(2)インタビュー
2010.12.23
2011年2月号記事
§2 インタビュー
戦争でテロを根絶しようとする米国、欧米コンプレックスの強いイスラム
静岡県立大学国際関係学部准教授
宮田 律
(みやた・おさむ)
1955年、山梨県生まれ。慶應義塾大学大学院文学研究科史学専攻修了。カリフォルニア大学ロサンゼルス校大学院修士課程修了。専門はイスラム政治史、国際政治。著書は『現代イスラムの潮流』(集英社新書)、『イスラムに負けた米国』(朝日新書)ほか多数。
――9・11以降の9年間で、欧米とイスラム世界の関係は?
あまりよくなっていないと思います。たとえばパキスタンでは、9・11が起こる前の2000年はテロの発生件数が年間14件でした。それが現在ではコンスタントに年間600件を越えています。
ヨーロッパにおいても、アメリカの対テロ戦争に協力したスペインやロンドンなどの国々でイスラム過激派によるテロが起きている。アメリカでは9・11以降は、取り締まりの強化のせいで大きなテロは起こっていませんが、日本でも新幹線の車両に警官が乗り込んできて荷物チェックをするなど、アメリカの対テロ戦争以降、非常に窮屈な世界になっていますね。
――イスラム過激派によるテロは、なぜ、やまないのでしょう。
イスラム世界のことをアラビア語で「ダール・アル・イスラム」と言います。これは元々は「平和の家」という意味です。その家に異教徒が乗り込んできて平和を乱し、戦争という形で婦女子など弱者を犠牲にすることに、イスラム教徒は宗教感情から強い反発を覚えるわけです。そういう反発がテロにつながっている面があります。
そもそも、戦争でもってテロを根絶しようという今のアメリカの発想自体が、どこかおかしいという気がします。テロというのは、イギリスの事件のように、実行犯を捕まえて法の裁きを受けさせるのがまともな対処方法でしょう。相手国の一般市民を巻き込む戦争というかたちでテロを撲滅しようというアメリカのやり方は、かえって世界の情勢を悪くしたのでは。
アメリカの中東政策への反発
――アメリカとイスラエルの特殊関係も、アメリカがイスラム世界から嫌悪される大きな理由です。
イスラエルがやっていることは、国際法に照らせばまったく正当性がない。今もヨルダン川西岸にユダヤ人の入植者を増やして、パレスチナ人の土地や財産を奪うようなことをしています。アメリカはそれに対してあまり批判を加えないし、イランの核兵器開発は問題にするのに、イスラエルが核兵器を持っていることを問題化することはない。アメリカのそういう不公平な中東政策に対するアラブ諸国の反発は、非常に強いんです。
――そもそもパレスチナ問題は、旧約聖書の神がユダヤ人にカナンの地を与えると言ったことが原因。
逆に、昨年行ったバングラデシュで聞いた話ですが、バングラデシュでは解放党という政党が「かつてオスマン帝国の領土だった、スペインや東ヨーロッパをイスラム側に取り戻せ」と主張して若者たちの支持を集めているそうです。そんなことをいろんな国が言い出したら現在の国際秩序はメチャクチャになりますよ。中国が「沖縄を返せ」と言うのと変わりません。
宗教に訴えて暴力を行う非
――イスラムの側に、欧米社会で嫌われたり恐れられてしまう要素は。
一つは、生活習慣がほかの宗教とはだいぶ違うところです。一日に5回礼拝したり、女性がスカーフをしたり。移民先の文化・社会に順応する人もいますが、頑なにイスラム文化を守る人たちが少なからずいて、その面で摩擦が起こる。ただ、これは受け入れる側の問題でもあるという気もします。
それとやはり、アメリカの対テロ戦争に対し、彼らがジハード(聖戦)という概念を唱えて自爆攻撃などの暴力を行うことで、恐怖を与えていることは確かです。宗教概念に訴えて暴力を行ってはいけませんよね。宗教は本来、人の幸せを追求するものだと思います。
また、イスラム教徒に、欧米に対するコンプレックスや嫉妬があるのも事実です。私は世界のほとんどのイスラム教国を訪れましたが、イスラム世界は貧しい人が多いんです。多国籍企業がイスラム世界にやってきて、その恩恵で一部の富裕層がアメリカ文化を享受したりしても、大多数の国民の生活は一向に豊かにならない。これは政治家の意識が低いことも原因だと思いますが、そういうことから欧米に対する反発が生まれているという話は現地で聞きました。
――両者の関係改善のためには。
アメリカはイスラエル・ロビーやキリスト教右派の力が強くて、基本的に変わりそうもない。イスラム世界との対立構造もますます強まっていくような気がします。
そういうなかで、日本はその対立構造に巻き込まれず、両者の不信を少しでもやわらげるような関与を行っていくべきだと思います。イスラム世界では、アメリカに原爆を落とされたにもかかわらず経済発展を遂げた日本に対する尊敬の念が非常に強い。そういうイスラム世界の対日感情は、日本にとって一つの資産だと思う。日本が技術面や教育面でイスラムの国々に貢献することが、その国の発展と平和の礎になるわけですから、日本はそうした関与を積極的に考えていくべきだと思います。
「自由・民主・信仰」のために活躍する世界の識者への取材や、YouTube番組「未来編集」の配信を通じ、「自由の創設」のための報道を行っていきたいと考えています。
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