北朝鮮のミサイル技術が向上 日本に迫られる国防・外交力の強化
2017.05.17
(画像はWikimediaより)
《本記事のポイント》
- 北朝鮮のミサイルがグアムやハワイまで到達する恐れ
- 北朝鮮のミサイル技術は急速に向上
- 日本は国防への備えと共に、外交判断の面でも努力を
北朝鮮が14日に行ったミサイル発射実験の分析により、同国のミサイル技術が向上していることが明らかになった。発射されたミサイルは地対地中長距離弾道ミサイル「火星(ファソン)12」と呼ばれ、従来の中距離弾道ミサイル「ムスダン」より射程が伸び、下降速度も速くなった。北朝鮮のミサイル技術は「大陸間弾道ミサイル(ICBM)」の一歩手前まできているとの指摘もある。
朝鮮中央テレビによれば、「火星12」は高度2111.5kmまで上昇し、787km先の目標に正確に着弾したと報じている。これにより、北朝鮮の弾道ミサイルの射程範囲がアメリカのグアムまで到達する恐れがでてきた。今後、北朝鮮が改良を重ねれば、米太平洋軍司令部があるハワイまでミサイルの射程範囲に入ることになる。北の脅威がどんどんアメリカに近づいている。
北朝鮮のミサイル開発進歩は速い
北朝鮮のミサイル開発は、1979年にエジプトから旧ソ連製の「スカッド」を供与されたことからはじまる。これをもとに国産ミサイル「火星5」「火星6」を製造した。やがてスカッドの射程を伸ばし、大型ミサイル「ノドン」を開発。現在では、弾頭部分に核を搭載できるようになっている。さらに、ノドンのエンジンを束ね、大気圏外まで積載物を運べるロケット「銀河3」を開発した。近年では、ミサイル開発の早さが目立ってきている。
日本の「防衛白書」によれば、中距離弾道ミサイル「ムスダン」の射程距離は4,000km以内と推定されていた。しかし、今回の「火星12」は、飛距離が短いにもかかわらず、飛行時間が30分と長い時間を計測したことから、従来型「ムスダン」の射程よりさらに遠い5,000kmまで飛ばせると予想される。
北朝鮮は一度に複数の弾道ミサイルを発射する実験も行っている。2016年9月には弾道ミサイルを3発、2017年3月には4発連射している。同時に複数のミサイルが発射されると、日本は迎撃することが難しくなる。
北朝鮮の国産ICBMが初めて登場したのは2012年の軍事パレードだ。今回のミサイルはICBMの前段階にあると報道されているが、ICBMをさらに遠くへ着弾させるには、一度大気圏外へ出た後、弾頭が燃え尽きないよう保護したまま、再び大気圏内に突入させる技術が必要となる。
また朝鮮中央テレビでは、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長がミサイル発射実験を視察する姿を報道した。その中には、ミサイルの目標地点とミサイルを高い角度で発射させ、早いスピードで下降する「ロフテッド軌道」を映し出したモニター画面も見えたことから、ミサイル技術の向上を誇示していることが伺える。速いスピードで下降するほど、迎撃が難しくなるからだ。
北朝鮮問題解決に向け、日本政府は俊敏な動きを
今までは、アメリカ領内にミサイルが着弾する可能性は極めて低かった。そのため、アメリカが日韓の「核の傘」として機能し、北朝鮮に圧力をかけることができた。しかし、北朝鮮が核ミサイルをグアムやハワイに撃ち込めるとなれば、アメリカは日韓を守るために、領土を核攻撃されるというリスクを負うことになる。
これを考えれば、アメリカは北朝鮮問題の解決を急ぐ可能性もありうる。日本は国防への備えを加速しつつ、関係国と協力を進めなければならない。プーチン露大統領は、北朝鮮のミサイル発射実験について「脅威ではない」と答えているが、北朝鮮問題解決のためロシアを日米側に引き込むことは不可欠だ。そうした認識の上での外交努力が必要となる。
韓国政府関係者は、北朝鮮のミサイルについて「まだ実践運用には不向き」と答えている。しかし、北朝鮮のこれまでのミサイル開発の早さを見ても、アメリカに届くICBMを完成させるのは間近であると考えた上での対応が必要だろう。
(HS政経塾 山本慈)
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