2025年6月号記事
トランプ関税で世界はどうなる?
貿易による「世界再編構想」とは
「米関税不況」のリスクが取り沙汰されるなか、トランプ関税の真意に迫った。
まことに小さな国が、開化期をむかえようとしている──。
『坂の上の雲』で明治初期を活写したのは司馬遼太郎であったが、その時代の端緒はアメリカ合衆国提督ペリーの黒船来航が開いた。
そして現在、日本はトランプ米大統領という"黒船"(外圧)によって再び開国を迫られようとしている。だがペリーとトランプ氏には違いがある。同氏は日本を含めた全世界に対し、関税を武器に「開国」を迫っている。
「解放の日となる」「これは我々の経済的な独立宣言だ」
同氏はこのように訴え、4月2日に相互関税の大統領令に署名。長年に渡る巨額の累積貿易赤字に対し「国家緊急事態」を宣言した。相互関税とは、貿易相手国がアメリカに課す関税率と同率の関税をその相手国にも課すことを意味する。同氏はこの大統領令で全世界に一律10%の関税を課しつつ、自国の市場から米製品を排除するために高い関税率や、一見、関税には見えない貿易障壁(非関税障壁)や割当を課す国に対し、アメリカへの関税率から"割り引いた"率で関税を課すとした(下図)。狙いはアメリカの寛大さ(関税率の低さ)を示しつつ、各国を交渉のテーブルに着かせることにある。その思惑通り、世界各国が同氏との"ディール"に臨まざるを得ない状況に追い込まれた。
だが後述するように、この第二次トランプ政権に歩調を合わせられれば、日本はトランプ氏の剛腕という"坂"を経験するかもしれないが、その先に輝く「真の主権国家としての独立と繁栄」という一朶の白い雲を目指し、その坂を上ってゆくことができる可能性が高い。

出所:米ホワイトハウス公式X
トランプ関税の本質は対中「兵糧攻め」
本誌でこれまでたびたび取り上げてきたが(2024年5月号など参照)、トランプ政権による関税政策はあくまで安全保障・外交における取引カードの1つで、その主対象は中国だ。
これまで中国は保護貿易政策や、不当に安い為替レートの維持・開かれた米市場へのダンピング(*1)などを行ってきた。狙いは米経済(特に製造業)を弱体化させつつ、貿易によって得た利益を軍事費に充て、覇権を獲得することにある。
また、中国は対米貿易によって得たドルで米国債や米企業の株を購入することで、世界一の投資家とも評されるウォーレン・バフェット氏の言葉を借りれば「購入による征服」も進めてきた。簡単に言えば、借金をカタにアメリカを植民地化しようとしてきたのである。
これらに対抗すべく、トランプ氏は中国に高い関税を課すことにより不公正な貿易状況の是正と、中国との取引が不利益になる状況をつくって物理的に取引量を減らし、中国経済との分離(デカップリング)を進め、戦火を直接的に交えることを避けつつ、経済面から中国を弱らせていく「兵糧攻め」を行っている。
だが先述のように中国以外にも、アメリカを脅かす国に対して、関税のカードは切られることになる。
全世界に先立ちカナダやメキシコに25%という高い関税が懲罰的に課された。中国から意図的にアメリカへ流入されている違法薬物「フェンタニル」について、アメリカと国境を接するこの2つの国がその流入防止を放置し、米国民の命を危険に晒しているためだ。貿易戦争ならぬ"ドラッグ戦争"の様相を呈している。
(*1)不当廉売。企業努力や正常な競争過程とは無関係に、海外の市場でシェアを拡大するため、国内市場よりも安い価格で商品を販売すること。
※文中や注の特に断りのない『 』は、いずれも大川隆法著、幸福の科学出版刊。
関税で「トランプ・インフレ」は嘘
貿易と安全保障を一体とみなすトランプ政権
トランプ氏は相互関税で世界の繁栄を目指す/アーサー・B.ラッファー博士 インタビュー