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中国が核弾頭を搭載でき、マッハ5以上で飛ぶ極超音速(ハイパーソニック)ミサイルの発射実験を今年8月に行ったとする、英紙フィナンシャル・タイムズのスクープを受け、米世論に衝撃が走っています(本欄参照:「極超音速ミサイルのスクープに続き、英FT紙がNATOトップの『対中脅威論』を一面報道 日本は『亡国の危機』を直視し自国防衛を急げ」)。

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FT紙が関係者筋の話として報じたのが16日ですが、翌17日に、米下院軍事委員会のマイク・ギャラガー議員(共和党)が次のように声明を発表し、アメリカがこのまま宥和主義でいれば、中国との戦いに敗れる可能性があると強く警鐘を鳴らしました。

「今回の(ミサイル)実験は、行動を促すきっかけとなるべきです。我々が現在の慢心した姿勢を続ければ、もしくは『統合的抑止力(integrated deterrence)』などといった破たんした流行語に希望を託し続けた場合、我々は共産党が主導する中国との新たな冷戦に10年以内に敗北します。いよいよ人民解放軍は、我々のミサイル防衛システムを弱体化させ、非核・核搭載どちらのミサイルでもアメリカ国土を脅威にさらすだけの能力を手にしているのです。さらに憂慮すべきことは、アメリカの技術が人民解放軍の極超音速ミサイル計画に貢献していることです」

「最近のワシントン・ポスト紙の報道により(今年4月9日付報道)、我々は中国のハイテク企業Phytium (飛騰:ひとう)が、極超音速飛行をシミュレーションする軍事スーパーコンピュータに動力を供給する上で、アメリカから派生した技術を使っていることを知りました。バイデン政権がPhytiumを商務省のエンティティリストに追加したのは適切でしたが、ファーウェイに対抗する上で効果的に行使された『外国直接製品規則(Foreign Direct Product Rule)』は適用しませんでした。その結果、台湾の半導体世界最大手TSMCによって生み出されるアメリカ由来の技術が、今なおPhytiumの悪しき活動を可能にしているのです。こうした状況は変えなければなりません」

翌18日には、米紙ウォール・ストリート・ジャーナルが「中国の極超音速ミサイル発射の警鐘(China's Hypersonic Wake-Up Call)」と題した社説を掲載しました。

同紙は、アメリカの中国に対する軍事的優位が終わりを迎えつつあるとした上で、極超音速ミサイルが「アメリカのミサイル防衛システムをかいくぐる可能性がある」と指摘。

中国の砂漠地帯で新たなミサイル格納庫が数百カ所発見されたことにも言及し、「これは単に自国の主権を守りたいと考えている国の行動ではない。中国は世界的野望を抱いており、その中には、自国の政治的・経済的利益を追求する手段としての軍事力の誇示も含まれている」と論じました。

加えて、次の戦争は過去の米ソ冷戦とは異なり、「サイバー攻撃や極超音速ミサイルのほか、人工知能(AI)を搭載した無人の航空機や車両を特徴としたものになるため、アメリカが遠く離れた場所から攻撃される危険にさらされる」として、「要塞たるアメリカに身を隠すことは、過去にはできたとしても、今後は不可能だろう」と、中国の覇権拡張が世界規模の戦争となることを示唆しました。

さらには、中国による極超音速ミサイルの実験を事前に察知できなかった米情報機関の不手際を批判。アメリカ由来の技術が人民解放軍の手に渡らないよう策を考えるべきだとした上で、「アメリカが軍事力を縮小しつつ『ゆりかごから墓場まで』の社会福祉体制を築く間に、世界はますます危険な状態になっている」と、バイデン政権による内向きのバラマキ政策を厳しく批判しました。

一方のバイデン大統領のコメントとしては、20日にペンシルバニア州に向かうため大統領専用機「エアフォースワン」に搭乗する際、記者団から中国の極超音速ミサイルを懸念しているかと質問を投げかけられ、「イエス」と答えたのみです。

20日~21日にかけては、米軍が極超音速兵器に関する実験を相次いで実施し、中国に対抗。中国が極超音速ミサイルを実験したとするFT紙の報道は、米世論および政権に大きな衝撃を与えています。

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