いつの時代にも、自分を顧みず、人のために尽くす人がいる。更生率8割を誇る施設の根底には、深い愛が流れていた(2019年1月号記事より再掲。内容や肩書きなどは当時のもの)。

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TFG 理事長

工藤 良

(くどう・りょう) 1977年福岡県生まれ。自身の暴走族などの非行経験をもとに、2005年に更生保護施設を立ち上げ、非行防止に尽力。講演活動も精力的に行っている。

福岡県田川市は、日本の近代化を支えた筑豊炭田があり、石炭産業で栄えた町だ。今もその名残りが残るこの地に、全国から視察が絶えない更生保護施設「田川ふれ愛義塾(TFG)」がある。

一般的な少年院の更生率が2割と言われる中、TFGの男子の更生率は8割、女子は5割という圧倒的な実績を誇る。2012年、NPO法人としては全国で史上初めて、天皇陛下から御下賜金が贈られた。

理事長を務める工藤良さんはかつて、暴走族を引き連れ、覚醒剤使用で逮捕されるなど、どん底の生活を送った。そうした男が、なぜ非行を防止する側に立っているのか。

留置場で起きた神秘体験

工藤さんは小学生の時に両親が離婚したことを機に、荒れるようになった。ナイフを持ち歩き、かつあげし、盗んだバイクで走り回った。中学校に入ると、先輩が結成した暴走族「極連會」に最年少の14歳で入り、その後3代目総長を引き継いだ。

「田舎ではやることがなく、憧れがやんちゃなお兄ちゃんだったんです」(工藤さん)

学校にも行かない工藤さんは、少年院に入るなど、札付きのワルとして名を馳せた。しかし、20歳で結婚。娘を授かる。今度こそ真面目に生きようと思ったが、覚醒剤に手を出してしまい、妻と娘は家を出た。

工藤さんはその後、覚醒剤使用の容疑で逮捕された。しかしその後、生き方を一変させる出来事に遭遇する──。

工藤さんは以前、地獄に行く夢を見ていた。夢の中では、自分一人だけが人間で、周りはみんな鬼……。妙にリアルだった。

留置場に入った工藤さんは、その夢の意味を考えた。

「今までの自分勝手な生き方は、地獄絵図と同じじゃないか。欲望にまみれた自分が反省しなければ、いつか田川は鬼だらけになってしまう」

ふと見上げると、留置場の小窓から光が差し込んだ。一筋の光を見ていると、「絶対に神様がいる」と感じ、自然にその方向に手を合わせた。

「神様、助けてください。もう一度、チャンスをください。チャンスをくれれば、私が暴走族という悪の道に引き込んだ全員を元のレールに戻します……」

工藤さんは必死に祈り、人生をやり直すと誓った。数日後、離婚届を持って面会に訪れた妻に神様への誓いを伝えると、離婚を思い留まってくれた。

生かされ、使命に気づく

出所した工藤さんだが、信用はゼロ、いやマイナスからの再スタートだった。どうにかして改心したことを周囲に示さなければならない。色々と考えて行き着いたのが、ボランティアだった。

すぐに暴走族のOBや現役メンバー一人ひとりに「真面目に生きなきゃダメだ。ボランティアをやろう」と説得して回った。当然、馬鹿にされた。「警察に捕まってビビったんだろ!」となじられもした。しかし、いつかは足を洗わなければならないと本気でぶつかり続けると、次第に仲間が増えていった。

そして2002年、警察署内で極連會の解散式を行い、ボランティア団体「GOKURENKAI」を発足。ごみ拾いや地域の祭りなど、月数回の活動を行った。

「当時、暴走族のメンバーは30人くらいいましたが、今では全員が社会復帰しています」

工藤さんは全員を元のレールに戻し、神様への誓いを守った。

その後、しばらくして市役所から電話がかかってきた。

「関東のある家庭の娘が、母親に暴力を振るい、母親は精神的に疲れ果てている。しかし、警察は家族の問題には不介入だからどうしようもない。あなたの力を貸してくれないか?」

工藤さんはどうすべきか分からなかったが、その母親のもとへ向かった。だが、いざ母親の悲痛な叫びを前にすると、かけるべき言葉が見つからない。苦し紛れにこう切り出した。

「携帯番号を教えます。何かあったら、24時間いつでも電話してきてください」

すると、母親の表情がほっと和らいだ。いつでも支えになるという言葉が、彼女を不安から解放した。

だが、娘のことも気になる。帰宅した工藤さんが妻に相談すると、こう返された。

「じゃあ面倒を見ればいいんじゃない。それはあなたがやるべき使命なんじゃないの?」

「そうか! それが、自分が生かされている理由だった」と気づいた工藤さんから迷いが消えた。後日、母親に娘を預かることを伝え、自宅に連れて帰った。

「今日から俺がお父さんや!」

彼女はしだいに心を開くようになり、暴力を振るった理由を語り始めた。原因は代々続いた医者の家系に生まれたが、医者になれという期待に応えられなかったことだった。

工藤さんは「親には親の、あなたにはあなたの人生がある」と諭した。

自分の弱さが理解する力に

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工藤さんの誕生日に送られた感謝のメッセージ。

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天皇陛下から下賜された金一封。

こうした相談を度々受けるようになった工藤さんは、2005年に非行少年を受け入れる場所を自前でつくった。16年からは、日本で唯一の女子専用施設も開設し、30人の塾生を10人のスタッフで対応している。

時に塾生は、窓ガラスを割ったり、暴れ回ったりする。スタッフはお手製の防刃チョッキを身に付けることもあるという。

工藤さんは、命の危険もある更生保護の意義をこう力説する。

「ある少年は、親から冬に服を脱がされるなどの虐待を受け、万引きも強要させられる"万引き家族"のもとで育ちました。

こちらに来ると、親の問題点に気がつき、自分の力で人生を切り開くことを決意しました。家から離れた環境に身を置くことで、子供たちは親を客観視できるのです。

ここは、親や他の施設が引き取りを拒否した子を預かる最後の砦です。ここがなければ、彼らには行く場所がないんです」

お釈迦様が1本の蜘蛛の糸を垂らして地獄で苦しむ男を救おうとした小説『蜘蛛の糸』(芥川龍之介著)にあるように、工藤さんは自らの役割を1本の糸に例えてみせた。

「更生保護は、明治時代に静岡の実業家・金原明善が有志で始めたのがきっかけです。私があの世に逝ったら、その人の前を堂々と歩きたいんです。あなたのようにしましたってね(笑)」

あの世にまで夢が広がる工藤さん。TFGの驚異的な更生率の高さは、自分の弱さや辛さを「他人を理解する力」に変えたことにあるのだろう。

工藤さんは昨年、「社会貢献支援財団」から表彰された際、こう挨拶した。

「社会への貢献の営みは行政だけでなく、私たち一人ひとりの理解と行動によってもたらせる。その原動力は、人の喜びを自分の喜びとする人の心にある」

人間が最終的に立派であるかどうかは、家柄や肩書き、学歴などではなく、その人の「行為」によって判断される。工藤さんの愛のある生き方を見て、そう思わずにはいられない。

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