軍事では人工知能の導入、宇宙兵器の登場など、猛スピードで技術が進化している。同じく命にかかわる防災分野は、それだけの進化をしているだろうか。

天然痘は、歴史上幾多の文明を脅かす、抗いがたい自然の猛威だった。しかし現在では、ワクチンやその接種体制が飛躍的に進化し、ほとんど根絶された。

防災においても、「昔は災害で当たり前のように人が亡くなっていたが……」と言われる時代を、目指せるのではないだろうか。

本記事では、「死者ゼロ」を目指すための防災構想を紹介する(2019年2月号記事の一部を再掲)。

Idea: ドローン救助隊出動!

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水位がどんどん上がるが、体が動かない─。

2019年7月の西日本豪雨において、倉敷市真備町では足が悪いなどの理由によって、自力で逃げられなかった高齢者が多かった。犠牲者の8割は屋内で見つかった。

そうした人々を迅速に発見し、少ない救助隊を効率的に急行させる体制が必要となる。

可能性を開くのがドローンだ。

防災・危機管理が専門の拓殖大学大学院特任教授の濱口和久氏は、「発災直後の被災状況を確認する上で、ドローンは非常に有効かつ現実的です」と語る。

例えば発災直後、自治体の要請を受けてドローン救助隊が出動する。無数のドローンが方々に散り、上空からの避難警告、現地の撮影や被災者の発見、浮き輪や物資、自動体外式除細動器(AED)の支給などを行う。

「ドローンであればヘリを飛ばすより早く、現地の状況が分かります。低空でも飛ばせるため、屋根の下の要救助者も発見できます。自衛隊や警察、消防が集まった時、ドローンによって初期調査がなされていたら、すぐに次の指示を出せるでしょう」(濱口氏)

すでに2016年4月の熊本地震、17年7月の九州北部豪雨や18年5月の秋田豪雨では、ドローンが被害状況を撮影しており、救助活動に大いに貢献した。

実現が近いドローン救助隊

今まで救助隊が動けなかった夜間も、赤外線カメラを装着したドローンなら捜索できる。

また要救助者を発見できても、町全体が水没したり、地震で道路が寸断されたりしていれば、救助隊の到着は遅れてしまう。実は、人間を輸送するドローンの研究も行われている。近い将来、人の救助自体も可能になるだろう。各地にドローン救助隊が配備され、多くの人々が守られる日は近いのではないか。

Idea: 津波のときだけ現れる堤防

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東日本大震災では約2万人が亡くなったが、死因の約9割が津波だった。

そのため津波被害が想定される地域では、堤防や防波堤が張り巡らされている。

しかしそこには必ず穴が開く。なぜなら湾口部の船が出入りする部分には防波堤を設置できないからである。ここから港に押し寄せる津波の進入は防げない。

この問題を解決するのが、浮上型防波堤だ。

津波研究を行う中央大学教授の有川太郎氏はこう述べる。

「浮上型防波堤とは、普段は海面下に潜んでおり、航路として利用できますが、津波が来た時にせり上がってくるものです。防波堤の中に空気を送り込むことで、浮力がついて浮かんでくる仕組みです」

日本でも設置が進むか

しかし、どれだけ実現可能性があるのか。有川氏はこう語る。

「オランダやベルギーではすでに浮上型防波堤が、アメリカやベルギーでは町中の道路に浮上式可動扉が設置されています」

イタリアの海上都市ベネチアでは2019年1月から、「モーゼ計画」が始動する。仰々しい名称の同計画は、大洋につながる3つの水路に可動扉を設置して、高潮の際、押し寄せる海水を止めるというものだ。

実は日本にも似たような計画があった。和歌山県は09年から直立浮上式防波堤の建設計画を進めていた。その後、東日本大震災が起き、対応できる津波規模を大きくしたため、当初の3倍以上に費用がかさみ、15年に中止になった。

だが有川氏は「可動式防波堤や堤防に関する研究費は、日本全体として増えているため、それらを設置する方向に進むと思います」と語る。景観を害さない防波堤や堤防が各地に設置される日も近いだろう。

Idea: 遠くの高台より足元の地下

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津波が来た時、高台や津波避難タワーまで避難するのは難しい。車いすの高齢者が数分の間に坂道や階段を上れるだろうか─。

東日本大震災において、高台までの道ががれきなどで遮断されていたために亡くなった人は、全体の約2割。安全な避難場所が近くになかったために亡くなった人は、全体の約6~7割に上る。

南海トラフ巨大地震は今後30年以内に70%の確率で来るとされている。その際、高知県の黒潮町全体を34メートルの巨大津波が襲うと予想されるのは、なんと5分以内だ。

東日本大震災で津波被害に遭った自治体の中には、地上4~5階建ての鉄製の津波避難タワーを建てたところもある。しかし実際の避難を考えると、高いところに逃げるより、低い足元に逃げる方が明らかに楽だ。

前出の濱口氏は、「高台や津波避難タワーより、自宅の地下シェルターに逃げる方が短時間で安全を確保できます」と語る。

一家に一つの地下シェルター

家の中に濁流が入ってきて初めて、水害が起きたことを知る人も多い。自宅に防水性のある地下シェルターをつくって、食料や水を常備しておけば、津波が引くまでの数日間避難できる。

濱口氏はこう指摘する。

「今後、津波被害が想定される地域に新築住宅を建てる際は、必ず家庭用地下シェルターの設置を義務付け、補助金も出すようにすればいいと思います。

すでに家が建っているなら、その家の一部だけをリフォームすればいい。国がそのような決断をすれば、堤防をつくるよりコスト的にも安く、時間的にも早くできると思います」

学校や公園、自治体の施設などに大型シェルターを設置するのも有効だろう。

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