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《本記事のポイント》

  • カルロス・ゴーン日産会長が、報酬の「虚偽記載」で逮捕
  • フランス政府は、「仏自動車大手NISSAN」の誕生を推進
  • 提携見直しによる「日産・ルノー連合」の解体は、日米政府に利害をもたらす!?

日産自動車会長のカルロス・ゴーン容疑者の逮捕がクローズアップされている。

ゴーン容疑者は、代表取締役のグレッグ・ケリー容疑者とともに、株価に連動した報酬を受け取る権利について、約50億円少なく有価証券報告書に記載した疑いがもたれている。事件は、日産の内部告発によって発覚した。

かつて日産を経営再建させた人物であるだけに、ゴーン氏の逮捕は世界中に伝えられている。一見、個人の経済犯罪に見える事件だが、自動車産業を持つ各国政府の思惑がちらつく。

フランス自動車大手ルノーは日産の株式43%、日産はルノーの15%をそれぞれ保有している。そのルノーの株式を15%持つフランス政府は2015年ごろより、ルノーと日産の経営統合を要求していた。

フランス政府が持つ議決権は、「フロランジュ法」によって株式の2倍となる30%分を持ち、日産が保有するルノー株には議決権がないという関係もあって、日産はフランス政府の介入を受けやすい状況にあった。

日産は、フランス政府が後押しする経営統合に強い抵抗を見せていたものの、実現は時間の問題だったという。英紙フィナンシャル・タイムズは、ゴーン容疑者が統合を推進し、数カ月以内にも実現する見通しがあったと報じている(20日付電子版)。

フランスでは、9月の若年層失業率が20.4%で高止まりし、マクロン大統領の支持率も2割台に低迷。日産を取り込むことで、フランス国内の工場や雇用を増やしたい思惑があった。

一方の日産はさっそく、ルノーとの提携関係の見直しを検討していると報道されている。電撃的な逮捕にしてはあまりに早い対応ぶりを見ると、フランスの影響力を削ぎたい同社の意趣返しが起きたと見た方が自然ではないだろうか。

「仏自動車NISSAN」は日米政府に不都合だった?

誰がこの逮捕劇の裏で糸を引いていたかは分からないが、少なくとも日米政府に好都合な部分があると言える。

経済産業省は、日産がルノーの子会社となり、「仏自動車大手NISSAN」の誕生に反対していた。提携関係の見直しで「日産の日本回帰」が進むことは歓迎すべき動きといえる。

アメリカとしても、独フォルクスワーゲングループ(昨年の世界新車販売は約1074万台)、トヨタグループ(同約1039万台)、日産・ルノー連合(同約1061万台)の三強の一角が崩れることは、日欧の後塵を拝する米ゼネラルモーターズやフォードへの追い風となる。トランプ大統領が掲げる「製造業の復活」に寄与するためだ。

さらに、現在のアメリカとフランスの関係は良好とは言い難い。

マクロン氏は第1次世界大戦終戦100年記念式典で、「『自国利益が最優先で他国のことなど気にしない』と言うことで、その国で最も大切なもの、つまり倫理的価値観を踏みにじることになる」と演説し、トランプ氏を暗に批判した。

これに対し、トランプ氏はマクロン氏を強く批判。アメリカと共同歩調をとりたい日本としては、フランスを刺激する逮捕劇に持ち込みやすいタイミングでもあった。

世界の情勢に目を転じると、米中貿易戦争が起き、トランプ氏が欧州連合(EU)のあり方に厳しい目を向けている。今後もマクロン氏がトランプ氏に反目し続けるのであれば、日本企業の「フランス離脱」は、損害を減らすという意味では、正しい方向ではないだろうか。

(山本慧)

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