《本記事のポイント》
- 渡辺氏は「トウガラシのセンター」を目指して、研究に励んだ
- カプシエートの発見に必要だった「努力と運」
- 宗教がバックボーンにあることで、新たな発想が生まれる
HSU未来産業学部プロフェッサー
渡辺 達夫
プロフィール
(わたなべ・たつお)東北大学理学部化学科を卒業し、京都大学大学院農学研究科で博士課程修了(農学博士)。その後、静岡県立大学食品栄養科学部教授(食品化学研究室)として香辛料の機能性成分の研究に取り組み、2016年に現職。著書に『健康を考えた食品学実験』(アイケイコーポレーション)、『トウガラシ―辛味の科学』(幸書房)など。
千葉県長生村にあるハッピー・サイエンス・ユニバーシティ(HSU)の未来産業学部は、新たな産業を創るべく、日夜研究に励んでいる。渡辺達夫プロフェッサーの化学研究室もその一つだ。
渡辺氏は食品科学が専門で、香辛料の機能性成分について長年研究してきた。トウガラシに関する書籍を執筆し、「トウガラシ評論家」としてテレビにも出演。雑誌に「香辛料がなぜ体にいいのか」についての解説が掲載されるなど、幅広く活躍している。
渡辺氏がトウガラシ博士になるまでの経験から、何かの第一人者になるためのヒントを探った。
――渡辺プロフェッサーは、長年、トウガラシの成分であるカプサイシンの研究を行ってこられました。なぜその研究を行うことになったのですか。
渡辺氏(以下、渡): 私は東北大学理学部を卒業した後、3年ほど民間企業に勤めて、京都大学の栄養化学の研究室に行きました。私が京大に行く前年、「高脂肪食にカプサイシンを加えると内臓脂肪が減る」ことが研究室で見つかったので、そのメカニズムの解明が私の研究テーマでした。
「カプサイシンが交感神経の活性化をもたらし、それによってエネルギー消費を高める」という研究で、私は博士号を取得しました。その後、静岡県立大学の食品加工・貯蔵学研究室に助手として行き、遠赤外線が酵素活性に与える影響などを研究しました。
カプサイシンの類縁化合物には辛みのないものがあって、休み時間には、それをバイオプロセス(微生物触媒)で合成する研究も行いました。細々やっていたので7年くらいかかりましたが、カプサイシンの類縁体をある程度つくれるようになった時、食品化学研究室の助教授に昇任できました。それから、トウガラシの研究を始めました。
――博士課程からずっと、カプサイシンが研究テーマだったのですね。
渡: そうです。京大の恩師からは、「トウガラシに関するいろんな研究を行う"トウガラシのセンター"を目指しなさい」と激励いただいたのですが、それは達成できたと思います。
例えば、トウガラシを米びつに入れると、コクゾウムシが忌避すると言われます。調べてみると論文がなかったので、実験することにしました。学生には「2カ月もあれば終わりますよ!」と言っていたのですが、5年かかりました(笑)。
コクゾウムシは明るいところではお米に寄らなくなるため、行動試験がしづらかったのです。東京農大や筑波大の研究室に教えを乞うたところ、暗くして湿度を下げないといけないことが分かりました。
私たちが調べた中では、コクゾウムシはハンバーグに入れるナツメグを一番嫌がりました。ただ匂いがきついので、米には使えませんが……。
――昆虫を使った研究なども行っていたのですね。渡辺プロフェッサーの仕事の中で、一番大きな成果は何ですか。
渡: カプシエートという成分を見つけたことですね。カプシエートというのはカプサイシンによく似ていて、エネルギー消費を高めるなどの効能もほとんど変わらないのですが、辛みはほとんどありません。
ある京大の先生が品種改良したトウガラシの中に、カプサイシンに構造が似た化合物が大量にあるという論文を見て、分子構造を探ろうとしたのですが、うまくいきませんでした。そこで少し試料を分けてもらい、私の研究室で調べたところ、すぐにその分子構造が分かりました。
この時、幸運が働いていました。その後、京大の先生に再び1キロの試料をもらってシリカゲルのカラムで精製したら、分解してしまいました。少量の試料を小さいカラムでさっと通したから、分解する前に精製できたのです。たくさんもらわずに、少ない量をもらえたのが、ラッキーでした。
トウガラシからカプシエートという化合物を取ることができて、その後、1週間くらいでカプシエートを合成することもできました。1週間で分子構造が分かり、1週間で合成法を見つけたわけです。
――すごい早業ですね。
渡: その前に7年間、「うーん、うーん」と言っていたので(笑)。最終的には、カプシエートの収量も、とても高めることができました。
学生さんが濃度を間違えて、予期せぬ化合物が基質になるなど、いろいろ面白いことがありました。その後、カプシエートは、食品メーカー大手の味の素から製品化されました。
ちなみに、2015年にノーベル生理学・医学賞を受賞した大村智先生はすごい方です。微生物の生産する化合物を調べると、研究者のほとんど"ハズレ"をつかみます。生涯に1つ、製品化できればいいものを、大村先生が実用化したのは25種類。"科学の進歩を使命にする神様の一人"なのかなと思います。
味の素から製品化されたカプシエート。
――面白いですね。成果が挙げられる研究者と上げられない研究者の違いは、どこにあると思いますか。
渡: 「『できる』と思っているかどうか」の違いです。ほとんどの学生を見ていると、「失敗する」と思っています。そういう学生は失敗したら安心しますから、それ以上実験しません。できると思っている人は、「なぜできない」と考え、できるまでやめません。単純なことです。
私もたくさん失敗していますが、「絶対にできる」と思っていました。ただ最近は、「植物のエネルギー抽出はどうすれば……」と考えると、自信がなくなっていますが(笑)。
また、失敗を放っておくと、失敗のままです。発明王エジソンも言っていますが、失敗をしても、「なぜだめだったか」と考えて工夫すれば、「うまくいかない方法の発見」になります。
あとは、「自分は運がいいと思っているか」も重要です。私もずっと、「好きな研究をやってご飯が食べられるなんて、運がいい」と思っていました。
――「考え方」によって、成果に差が生まれるということですね。HSUと他の大学の違いを感じることはありますか?
渡: 奇妙奇天烈な研究ができること(笑)。世の中では一笑に付される研究でも、真剣にやろうとしています。
あと、バックボーンに宗教があるのはとても大きい。私たちは宗教を学んでいるがゆえに、それが強みになる学問を目指しています。理系でも、「宗教を学ぶことで優れた仕事ができる」という実証者にならなくてはならないと思っています。
私は静岡県大の助手のころに幸福の科学に入会したのですが、助教授になってからすごいスピードで成果が出ました。天からのご支援をいただいていたのだと思います。支部での祈願は欠かさずしていましたし、カプシエートの論文を提出した時は、精舎で祈願を行ったところ、普通は何度かやりとりがあるのですが、1発で論文が通りました。他にも、とんとん拍子で人が集まってきたり、助成金も通るなど、恵まれていましたね。
またHSUには、ある種の天才性を感じるような学生が結構います。例えばビジネスのアイデアをいつも考えていたり、詩や音楽に強い興味を持っていたり。そういう学生は、成績を見ると中の下とか、下ということもあるのですが(笑)、普通は思いつかない発想をします。
普通の大学だと、「この世的に優れていない」と言って、潰されてしまうのですが、HSUでは教員たちが「学生たちの天才性を見つけよう」と思っていますので、才能も伸ばせるのだと思います。
(聞き手:山本泉)
【関連書籍】
幸福の科学出版 『ニュートンの科学霊訓』 大川隆法著
https://www.irhpress.co.jp/products/detail.php?product_id=1439
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