在りし日のカストロ前議長(1989年)。

長年、社会主義体制のキューバを率いてきたフィデル・カストロ前国家評議会議長が、90歳で死去した。

カストロ前議長は、アルゼンチン出身の革命家チェ・ゲバラらとともにゲリラ戦を展開し、1959年、親米的だった当時の政権を倒し、革命政府を樹立。その後、共産党を結党し、約半世紀にわたって、独裁的な国家運営を続けてきた。

革命の原点は、「貧困から国民を救いたい」という思いだったが、世界の共産党の例に漏れず、「結果平等」を求めた先に実現したのは、「貧しさの平等」であった。

最大の支援国、ソ連の崩壊後、キューバ経済は慢性的な危機に陥り、21世紀に入る直前は、以下のような状況だった。

「現在、配給されているのは、食糧では百グラムのパンが一人一日一個。コメは一人一カ月三ポンド(一・三五キロ)。卵が一人二週間で七個。肉類はとり肉だけで二、三カ月に一度あるかないか。料理油は二、三カ月に一度。このほか豆類、ジャガイモ、コーヒー豆、タバコが少々。ミルクは七歳未満の子どもがいる家庭に限ってわずかだけ」(1997年10月21日付産経新聞)

また、ソ連や中国、北朝鮮という独裁国家の例に漏れず、革命政府が、反発する多くの国民を政治犯として収容所送りにしたり、拷問の末に公開処刑したりした事実は、記憶されるべきだろう。

パナマ運河で大量の武器を積んだ船が発見された

さて、遠く離れたカリブ海で起きたカストロ前議長の死だが、今後、アジア情勢に影響を及ぼす可能性がある。その中心は、キューバと友好国の北朝鮮だ。

両国は、「反米」で一致しており、深い関係で結ばれてきた。

例えば、2013年7月、パナマ運河当局は、運河を通過しようとしていた船に積まれた砂糖の下から、ジェット戦闘機やミサイルの部品を含む武器約240トンを発見した。その船は、キューバを出航して北朝鮮に向かっていた北朝鮮船であった。

高官の行き来も頻繁に行っており、昨年9月には、ミゲル・ディアスカネル国家評議会第1副議長が平壌を訪問した際、金正恩氏が出迎えている。

ただ、カストロ前議長が政界から引退した後のキューバでは、後継者である実弟のラウル・カストロ氏がアメリカとの関係改善に努め、昨年の夏に、正式に国交を回復させた。

友好国のキューバがアメリカと手をつなぎ始めていることを、金正恩氏はどのような気持ちで見ているか。

北朝鮮の制裁決議案に、後ろ盾の中国も同意!?

11月27日の各紙は、国連の安全保障理事会が北朝鮮に対し、新しい制裁決議案の協議に入ることを伝えている。北朝鮮産の石炭の取引に上限を設ける規制を盛り込むもので、「北朝鮮の輸出での外貨収入の約4分の1を遮断する効果が期待できる」という。水面下で、アメリカと中国がおおむね同意に達したとされる。(同日付朝日新聞)。

これは最大の支援国である中国が、北朝鮮と距離を置いたことを意味するが、ソ連の後ろ盾を失ったキューバが衰退したように、中国の後ろ盾を失えば北朝鮮が衰退していくことは火を見るより明らかだ。

中国がアメリカと協調している背景に、中国に経済的な圧力をかけると宣言した次期米大統領のトランプ氏の機嫌をうかがう意味があるのか否かは不明だ。しかし、今後、中国がさまざまな形で、アメリカの顔色を気にして、北朝鮮と距離を置き始めれば、アジア情勢が、大きく変化していく可能性もある。

カリブ海で起きたことが、アジアに影響する――。島国の日本も、日々、世界で起きている出来事と無関係ではいられない。

(山下格史)

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