米経済はサッチャー登場前夜に向かっている!? 「信念の政治家」サッチャーを形作った信仰心とは(前編)
2021.05.31
画像:David Fowler / Shutterstock.com
《本記事のポイント》
- サッチャー登場前夜のイギリス
- 大人の引きこもりを生むケインズ政策
- 父アルフレッド・ロバーツの信仰とは?
バイデン米大統領は、政権発足後初となる2022会計年度(21年10月1日~22年9月30日)の予算教書を米議会に示した。6兆ドル(約660兆円)の歳出規模を求めるもので、富裕層への大幅な増税措置が含まれる。トランプ前大統領が議会に示した予算から1.2兆ドル増となる。
財政出動すれば、景気は回復するという自信があるようだが、本欄でも触れてきたように、バイデン政権の放漫な財政出動により、インフレや働かない人が増えるなどの副作用が出始めている(関連記事参照)。
にもかかわらずバイデン氏は、人々が仕事に復帰しないのは、バラマキが足りないからだとして、さらなる財政出動が必要だという認識である。ケインズ経済学者たちが、バイデン氏の経済顧問を務めるため、それ以外の解決策が見当たらないようだ。
それにしても歴史の教訓を学んでいないと言わざるを得ない。ケインズ経済学の行き着く先は、サッチャー政権誕生前夜のイギリスである。
今回は、本誌のアーサー・ラッファー博士の連載で取り上げたサッチャー首相について、経済的自由を求めた信念のさらなる背景について迫ってみたい。
サッチャー登場前夜のイギリス
当時のイギリスでは、労働党が「揺りかごから墓場まで」をモットーに、国が丸ごと国民の面倒を見る社会福祉政策を拡充。電気、ガス、水道、鉄道といった公共サービスから、鉄道、造船、自動車、航空機、エネルギー産業といった主要産業、さらには旅行代理店までが国有化の対象となった。イギリスの公的部門は、国民総生産の半分以上となり、官は国民が生み出した富の半分を使う重税国家となっていた。
その結果、不況とインフレが同時にやってくるスタグフレーションに陥った。
イギリスの一人当たりの国内総生産(GDP)も、フランスやドイツに先を越されてしまう始末。パイの分け前は平等化したが、パイは小さくなるばかりだったのだ。国民の挫折感や不安感が募る中、このままケインズ政策を続けるのは、もう無理だという認識が強まった。
そうした中で登場したサッチャー首相は、同国の衰退を阻止するために、全ての産業を民営化し、所得税の最高税率を83%から40%に下げるという、奇跡的な偉業を成し遂げた。
その過程で、累進課税の構造も2段階に簡素化してしまった。日本の所得税が7段階の累進構造になっているのと比較すると、革命的といってもよいほどの「税のフラット化」だった。
大人の引きこもりを生むケインズ政策
なぜサッチャーはこうした「革命」を成し遂げられたのか。
そこには、サッチャーを支えたラッファー博士などの参謀らが共有していた問題意識がある。それは政府が国民に手厚い福祉政策を行うと、「国民から勤労倫理や道徳が失われる」という危機感である。
「うちの孫が25歳の大人なのに家でブラブラしている」。そんな嘆きの声が、米保守系メディアで報道されているが、バイデン政権による手厚い失業手当により、いわゆる大人の「引きこもり」が生まれてしまっている状態だ。ワクチンが普及し、「求人数500万人」と景気は回復しつつあるものの、求職者が見当たらない。働くより給付金をもらう方が、「所得」が高くなるなら、働かない方が得だと思う人が増えているのだ。
だがそれで、人は本当の幸せを手にすることができるのだろうか。ラッファー博士は「報酬を得て初めて、自尊心を高め、人生の責任を取れるようになる。だから給付金は絶対だめなのです」と、この点では妥協の余地なしだと言う。
同じくサッチャーも当時、こう述べていた。
「人々に(社会扶助が)すべて国家によって実施可能だという考え方を植え付ければ、(中略)人間性の最も枢要な構成要素である道徳的責任を人々から奪い取る」
要するに、国に依存するのではなく、自分の人生に責任を取って生きること、そうした道徳的責任を国民が持てなくなることを危惧したのである。
そんなサッチャーの人間観は、彼女の生い立ちに負うところが大きい。
父アルフレッド・ロバーツの信仰とは?
「ほとんど全てのことは父のお蔭です。彼は私が今信じているすべてのことを信じるように育ててくれました」
サッチャーがこう述べるように、彼女に深く影響を与えたことで有名なのが、父親のアルフレッド・ロバーツである。
ロバーツは、雑貨店を営む傍らで、市長となるなど、地元の名士であっただけでなく、教会活動に力を入れていた。メソジスト教会の在家説教師として、教区の人々の魂の世話役を担っていた。説教は人気で、ロバーツはひっぱりだこだったという。
メソジストは、カルヴァン派などと異なる点があった。カルヴァン派が「人間の自由意志は、全的堕落、つまり本性が悪に染まっている」と捉え、選ばれた人のみが救済されるという予定説を取るのに対し、メソジストでは、誰もが神の道を正しく行うことで救済されると考える。
神の超越性を強調し、慢心しがちな人間の傲慢さや愚かさを戒めるのがカルヴァニズムであるのに対し、メソジズムは、カトリックやギリシア正教会や仏教に近く、人は神の子であり、一部の人々ではなく、全ての人々が正しい道を努力して歩めば、神に近づくことができるという民主主義的な宗教観を内に含んだ教派だと言える。
戦後のアメリカの牧師で、ベストセラー『積極的考え方の力』の著者N.V.ピールもメソジストで、トランプ前大統領も、ピールのもとで学んでいる。2人とも期せずして勤勉や自助努力の精神を説くようになったのは、この教派の影響が多分にある(後編に続く)。
(長華子)
【関連書籍】
『サッチャーのスピリチュアル・メッセージ』
幸福の科学出版 大川隆法著
【関連記事】
2021年6月号 サッチャーとの出会い(前編) - Divine Economics サプライサイド経済学の父 ラッファー博士 Part 11
https://the-liberty.com/article/18297/
2021年5月16日付本欄 バイデン政権の経済政策の副作用が出始めた インフレと人手不足に直面し始めたアメリカ
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