《本記事のポイント》

  • ローマは銀貨を薄めインフレを招き、帝国衰退の一因に
  • 人手不足を招き、連邦給付金の支給を止める州が続出
  • "高邁な理想"はかえって高い犯罪率を招いた


アメリカでインフレ懸念が高まっている。消費者物価指数は、年率で4.2%も上昇。スーパーで買う生鮮食料品から車、住宅に到るまであらゆる財とサービスの価格が上がり始めたのだ。

タイミングが悪いことに、東海岸のパイプラインが爆破され、ガソリンのパニック買いが起き、ガソリン価格も同時に上昇している(これはエネルギー安全保障の観点から、エネルギー源の多角化の重要性を改めて浮き彫りにした)。

金利上昇の懸念から先週の株価は続落。イエレン米財務長官は4日の段階で、「米経済が過熱しないよう、金利はいくらかの引き上げが必要となるかもしれない」との認識を示し、イエレン氏の発言で市場は揺さぶられ始めている。

財務長官が連邦準備制度理事会(FRB)による利上げの可能性に言及したのは異例。後に火消しに追われたが、彼女自身がインフレ懸念を持っていることが明らかとなった。現在のところFRBは、「完全雇用に近い状態」に達成するまで、利上げの方針はないとしている。

バラマキからインフレに

共和党は「インフレの原因は、巨額のバラマキにある」と批判の刃を向けている。昨年末のコロナ経済対策は合計で6兆ドル(約657兆円)。ここに3月に成立したバイデン政権の1.9兆ドル(約205兆円)の新型コロナウィルス経済対策が加わり、8兆ドル(約876兆円)円がばら撒かれた。さらに今後、4兆ドル(438兆円)の経済対策が可決されれば、合計で約12兆ドル(1314兆円)がばら撒かれることになる。

ケインズ経済学者にとって、このバラマキは"景気刺激策"になるとされているが、インフレという「副作用」を生み始めた。たとえて言うと、お金が手に入ったので、お店に駆けつけてみたが、品薄で思ったより値段が跳ね上がってきている状態に近いと言えるだろう。

ローマは銀貨を薄めインフレを招き、帝国衰退の一因に

インフレの本来の意味は、硬貨に含まれる貴金属の量を薄めることを意味した。要するに、手持ちの貨幣の価値が下がることである。

そんなインフレの歴史は、貨幣の歴史とともに古い。

たとえばローマ時代。最初は純銀に近かった銀貨は、社会保障費を賄うなどの目的で、だんだん薄められていく。結果、初代ローマ皇帝アウグストゥスが発行した銀貨と比べ、銀の含有量は順次減り、3世紀末になると貨幣にはたった5%の銀しか含まれなくなる。手持ちの通貨価値の下落と共に物価高が発生し、激しいインフレからローマ帝国衰退の一因になった。

紙幣の発行に伴い、こうした"贋金づくり"は容易になった。例えば第一次大戦時後のドイツはハイパーインフレに苦しんだが、その原因は戦費を賄うために戦時国債を乱発したことにあると言われている。対するイギリスは同時期に、増税により歳入を確保することに徹し、大戦後も悪性インフレを避けることができた。

ではバイデン政権は、増税による財源の裏付けに成功するのか。今後約4兆ドル(438兆円)の政府支出の財源として、「トランプ減税」を転換させる増税案を掲げるが、事はそう簡単に運ばない見込みだ。

先週バイデン大統領は、共和党のマコネル上院院内総務とケビン・マッカーシー下院院内総務との会談を行い、超党派の合意を目指した。だがマコネル氏は、「増税案はレッドライン(超えてはならない一線)だ」とはねつけている。またバイデン氏のインフラ投資と増税に反対する民主党の上院議員もいるため、さらに2兆ドル(約220兆円)のインフラ投資計画を押し通すのは難しくなってきた。

もし増税を伴わない形で国債を増発すれば、事実上の現代貨幣理論(MMT)となる。この危険性について、大川隆法・幸福の科学総裁は著書『実戦・選挙学入門』でMMTに触れ、「緊急避難的にはありえるけれども、無限に通貨を供給したらどうなるかというと、一般的にはインフレが起きますよ」と警告している。

物価が上がれば、生活必需品の価格などが上昇し、暮らしに打撃を受けるのは庶民や退職者、中小企業の経営者である。インフレは「隠された税金」で増税そのものだからだ。バイデン氏は、40万ドル(約4380万円)以下の世帯所得層に対し増税しないと、何度も国民にメッセージを送ってはいるが、この主張は不誠実そのもので、国民は騙されてはならないだろう。

人手不足を招き、連邦給付金の支給を止める州が続出

5月7日に発表された雇用統計では、非農業部門の雇用者数が前月比で26万人増とされた。多くの専門家は約100万人増と予測したが、たった4分の1にとどまったのは、"働かないこと"に政府が給付金をばら撒いたからである。

「融和」を訴えるバイデン政権が民主党だけで成立させた1.9兆ドルの新型コロナウィルス経済対策(「アメリカ救済計画」)のお蔭で、コロナの影響で失業したと申請すると、今年9月まで毎週300ドル貰えるようになった。

失業者は州当局からすでに毎週320ドルの救済金を得ているため、毎週620ドル貰える計算だ。トランプ前大統領が始めたワープ・スピード作戦の成果でワクチンが行き渡り、人の往来も回復しつつある中、雇用は増えているのに働き手が見つけられない状況に陥ってしまっているのだ。

雇用されていた時よりも高い給付金が貰えるなら「なぜ仕事に戻る必要があるのか」と考える人が増えてしまうのは無理もない。このため連邦レベルの給付金の支払いを取りやめる動きが生まれ、16州で支払いを停止することになった(下図)。

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FOXビジネスより。

ケインズ経済学は「インセンティブ」が人の行動に変化を与える点を軽く見るが、この一例をとっても、経済は「とどのつまりインセンティブだ」と考えるサプライサイド経済学に軍配が上がりそうだ。

"高邁な理想"はかえって高い犯罪率を招いた

バイデン政権がいま国民に送っているのは「福祉漬けになるのがよいことだ」というメッセージだ。だがこのメッセージによる副作用はインフレよりも深刻かもしれない。

1960年代のアメリカでは、貧困層は働く時間を減らし、学生の退学率は上がり、ドラックの使用が増え、犯罪率も上昇した。この副作用は、ジョンソン政権による福祉国家路線の政策「偉大な社会」の影響によるものだと、米実業家のエドワード・コナード氏は批判している。

富の再分配による「景気刺激策」を続ければ、こうした"悲惨な未来"という副作用もやって来る。

こうしてみると福祉国家社会の核にある問題は、「働く」という善いことに課税し、「働かない」ということを助長することにあると言えるだろう。

結果として薬物に溺れたり、代々福祉に依存したりしなければ生きていけない社会的弱者を永続的に作り出してしまう。もしそれが"高邁"な福祉国家社会の理想の帰結だとしたら、これほど非倫理的な「経済学」はないのではないか。

本欄で以前触れたように、アメリカ建国当初は、政府への「依存」は恥ずべきものと考える文化があり、「自分の努力で手にしたのではない報酬はさげすむべきだ」と考える人々が国民の大半を占めていた。

建国の父の一人であるベンジャミン・フランクリンは、これからアメリカにやって来る人々に向けて「アメリカは労働の国(Land of Labor)なのです」というメッセージを送ったが、これは当時の時代的雰囲気をよく表した言葉である。

そんな古き良きアメリカの伝統を受け継ぐ共和党の人々は、働くことの尊厳や自助努力型社会をつくることの重要性をこう訴える。

「給付金をもらって家でぶらぶらするのではなく、父親が仕事に出かけて、子供たちに働いている姿を見せることが大事なのです」(ニュート・ギングリッチ元下院議長)

「私の祖父は新聞が読めませんでしたが、子供たちに新聞を読むことの大切さを伝えたくて、新聞を読むフリをしていました」(ティム・スコット上院議員)

アメリカの左派は、黒人や貧困層の犠牲者意識を煽り、「金持ちから奪って当然」というメンタリティーを植え付けているが、それは建国時の勤勉の精神とかけ離れている。

日本では、アメリカの「大きな政府」路線への展開を肯定的に捉える風潮が強いが、現在アメリカで起きているのは18世紀のアメリカ革命に対する「反革命」である。起こすべきは、「自由の創設のための革命」である点を見失ってはならないだろう。

(長華子)

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