6月着工不可なら開業延期もやむなし 静岡リニア水問題の現在

2020.06.01

写真:YMZK-Photo / Shutterstock.com

コロナ禍の中、静岡県では今も、ある問題の解決の糸口が見つからないでいる。

JR東海が2027年の東京-名古屋間の開業を目指して進めているリニア中央新幹線の静岡工区が、県中部を流れる大井川の源流と重なることから、工事の影響を懸念して、川勝平太静岡県知事を筆頭に反対している「リニア水問題」だ。

本誌3月号では、「2027年リニア×新幹線で静岡はもっと豊かになる」記事で、この問題について特集。本年1月の段階では、このまま静岡工区に着工できないままだと、27年の開業に黄信号が灯るとお伝えしていた。

その後、リニア水問題に進展はあったのだろうか。

一滴も残らず湧水を戻せ?

リニアの静岡工区は、県北部のわずか8.9キロメートル。しかし本区に源流が流れる大井川の水は、発電や農業、上水道などに使われる「命の水」だとして、水量の減少などの影響が出ないか、工事を不安視する声が上がっていた。

JR東海は「調査の結果、トンネル湧水が県外に流出しても、工事中を含め、河川流量は減少しないと予測している」「工事で生じたトンネル内の湧水を大井川へ流す導水路トンネルを設置する」「環境保全措置を実施し、水資源への影響を抑えながら工事を行う」などと、工事における源流への影響はほぼなく、湧水も戻す処置をとる、と説明している。

しかし川勝知事と大井川流域10市町の首長らは納得せず、「トンネル工事に伴う湧水の全量を"一滴も残らず"大井川に戻すべき」と主張。その姿勢は5月下旬現在も変わらず、工事に取り掛かれないままだ。

大井川流域には、温泉や酒造、工場、田んぼや茶畑などがあり、大井川のおかげで暮らしが成り立っているという感覚の住民も多いため、心配の声が上がるのは理解できる。

しかし、JR東海も綿密な調査のもと、計画を進めている。可能な限り水資源への影響を抑えながら工事を行うとし、湧水を流す導水路トンネルの設置も明言している。水資源や人々の生活を守るために、可能な限りの対策を行っていると言えるだろう。

そんな中、県知事や首長らが反対しているとなれば、住民もJRの対応が不十分とみて、不安になるのも当然だ。

槍玉に上げられるJR金子社長の発言

現在、「リニア水問題」で一番の槍玉に上がっているのは、4月27日に開催された国土交通省の専門家会議でのJR東海・金子慎社長の「あまりに高い要求を課して、それが達成できなければ中央新幹線(リニア)の着工も認められないというのは、法律の趣旨に反する扱いなのではないか」などという発言だ。

川勝知事や流域の首長ら、11の利水団体の代表者は国土交通省に、金子社長を指導するよう、抗議文を提出。同省は「川勝知事らから抗議を受ける事態に至ったことは誠に残念」として、JR東海に「会議の趣旨や、JR東海の立場に必ずしもそぐわない発言が行われ、誠に遺憾」とする文書を送付。金子氏には「反省を促すとともに、説明責任者として真摯に対応されたい」としており、同氏は書面などで謝罪と発言の撤回を行うなど、泥沼化している。

しかし、「湧水を一滴も残らず大井川に戻す」という主張は、常識的に考えて不可能だ。金子氏が謝罪に追い込まれた「あまりに高い要求」という発言は、間違っているとは言えないだろう。川勝知事や首長らの訴えは、「難癖」と取られてもおかしくないレベルだ。

そもそも、JR東海は流域の首長らが反対する中、一方的に工事を進めようとしているのではない。静岡県議会議員の桜井勝郎氏は、本誌3月号の取材で「トンネル工事が関係する市町村の首長は皆、リニアに賛成でした。JR東海とも話がついていたのに、川勝知事が『命の水』などと発言して難色を示した。こうなれば、首長は何も言えなくなります」と、知事の"暴走"を指摘している。

さらに、静岡工区など南アルプスのリニアトンネル工事は、海峡トンネルにも使われた最新の掘削技術が使われる。水圧の高まりを感知すれば、地盤凝固剤を注入して地盤を固めてから掘削するため、流水はかなり食い止められることが推測されている。

リニアが日本にもたらす経済効果は大きい

もっと言えば、大井川の田代ダムから山梨県の早川には、すでに毎秒4.99トンもの水が放流されている。この水量は、川勝知事の主張する、工事により失われるとされる「毎秒2トンの『命の水』」の2.5倍だ。

前出の桜井県議が、2019年12月の定例会でこの水について質問したが、川勝知事は一笑に付し、「田代ダムの水利権を静岡県が問題にするのは筋違い」などという答弁しかしていない。

現在の、JR東海金子社長の発言への抗議や、こうした事実をみても、知事ら反対派がリニア水問題に関して一方的な情報しか見ておらず、偏った見解を流していることが分かる。そしてその情報を、マスコミがそのまま流している、というのが現状だ。

「水を守る」「環境を守る」と聞けば、反対意見は出しにくいものだ。しかし、リニアは東京から名古屋を約40分で結ぶ、世界一の速度や輸送量を持つ。日本の三大都市圏を結び、すさまじい経済効果をもたらすのは確実であり、リニアの駅がない静岡にも、「新幹線の停車が増える」などの恩恵が期待できることも、本誌3月号で詳述している。

JR東海は、2027年開業には、6月中にヤード工事に着工する必要があるとしている。コロナで落ち込む日本経済を発展させるためにも、信憑性の乏しい意見を真に受けて反対するより、リニアの一日も早い着工を支援すべきではないだろうか。

(駒井春香)

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タグ: 中央新幹線  静岡県議会議員  湧水  トンネル工事  JR東海  リニア  桜井勝郎  川勝知事 

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