中国は何のために南太平洋島嶼国に進出しているのか
2019.04.24
《本記事のポイント》
- 第二列島線の突破を考える中国
- ジブチの次はバヌアツに軍港が築かれる可能性も
- 日本もODAの戦略的な運用を
「一帯一路サミット」が25~27日に北京で開催される。今年のサミットは、150カ国以上が参加の予定。出席する首脳の数も増えたという。
興味深いのは王毅国務委員兼外相の発言だ。サミットを前にした19日、記者会見を行い、「一帯一路は、地政学的なツールではなく、参加国に債務危機をもたらすものではない」とわざわざ断った。
敢えてこうした発言をしたのは、「地政学上のツール」でしかなかったということが誰の目にも明らかになってきたからだろう。
マハンの海洋戦略に学ぶ中国
地政学者で海軍戦略家のマハンは「海を制する者は世界を制する」と述べたが、マハンのシーパワー論に学ぶ中国は、西はジブチ、ギリシアのピレウス港、東はスリランカのハンバントタ港、オーストラリアのダーウィン港など、着々と海洋進出を固めている。
今後中国の触手が伸びていきそうなのが、南太平洋島嶼諸国だ。
ハドソン研究所のシニア・フェローであるジョン・リー氏がこの問題を論じているので、そのレポートの要点を紹介する。
- 南太平洋島嶼諸国は貧しい国が多く、外部からの商業ベースでの投資を呼び込むのが難しい。このため海外のODAに依存する国が多いが、そのなかでも中国のODAに依存するケースが後を絶たない。
- たとえばフィジー共和国の人口は85万人。同国に対して2006から2013年の間に提供されたODAのうちの約50%が中国からのものである。
- 中国は、フィジー共和国、クック諸島、サモア独立国、トンガ王国、バヌアツ共和国等の島で、軍事的にも使用可能なインフラ施設を建設している。
- 中国は、日本列島から台湾、フィリピン、南シナ海に至る第一列島線を絶対防衛ラインとし、東シナ海、南シナ海を聖域化し、いずれは伊豆・小笠原諸島からグアム・サイパンなどを結ぶ第二列島線まで進出し、第二列島線の外にアメリカを追いやることを目標としているが、この列島線上に親西側諸国が並んでいると、第一列島線、第二列島線を突破できない。
- このため、第二列島線上に位置する南太平洋島嶼諸国に軍事拠点をつくることで、ここから西側の影響力を排除し、第二列島線を突破することを考えている。
- 島嶼諸国の中でもバヌアツ共和国のケースは深刻である。中国とバヌアツは、ルーガンビル埠頭に軍事基地を造ることを協議しているという。この埠頭は、中国が54万ドル(約6000万円)の政府ローンを組み、2017年の半ばに建設されている。
- 中国の島嶼諸国に対する援助によって、台湾との国交を断絶する国も増えた。
- 昨年11月に行われたAPECで、日米豪の3カ国は、アジア太平洋地域に対して民間資金による投資推進を行う覚書を結んだ。こうした民間資金に加えてODAも重要である。
- アメリカは、2017年の国家安全保障戦略、2018年の国防権限法で示された目標を実現するために、ODAを戦略に組み込むべきである。
日本もODAの戦略的な支援を行うべき
中国は「先民後軍」の戦略で、ひも付きのインフラ整備を行い、債務の罠に陥れて、その国の港湾などを横取りする作戦を行ってきた。
ペンス副大統領やポンペオ国務長官らが幾度となく「中国の借金に頼るのは危ない」と警告しても、南太平洋島嶼諸国にとって、中国のお金はのどから手が出るほど欲しいものとなっている。島にはこれといった製造業もなく、若者の流出は続いているためだ。逆に言えば、最貧国の足元に付け込む戦略を持っているのが中国である。
このまま放置すれば、ジブチのように中国によって軍港が築かれる日も遠くない。
日本は、外務省と防衛省との縦割り行政で、安全保障の観点からODAを戦略的に運用する発想に欠けている。
フィジーの人口は約85万人で、南太平洋島嶼国で最大の人口を擁しているが、これは東京の世田谷区よりも少ない。日米豪で戦略的なODAの支援を行えば、南太平洋島嶼国に軍港が築かれるのを防ぐことができるはずだ。ODAを戦略的に運用することは、日本が最初に提唱したインド太平洋戦略を推進するものとなりうる。
ODAは人道的な支援に限定されるべきではない。2018年のアメリカの国防総省の年次報告で、一帯一路は、「グローバルな覇権戦略」と言われている。いま必要なのは「挙国一致」で、中国の覇権戦略を先回りして阻止することである。
(長華子)
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