中国の「技術略奪」の時代に終止符を - 編集長コラム 特別版 Part.1
2018.09.29
2018年11月号記事
編集長コラム Monthly Column
特別編
中国の「技術略奪」の時代に終止符を
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中国の「技術略奪」の時代に終止符を 編集長コラム 特別編 Part.1
トランプ米政権がとうとう中国からの対米輸出品すべてに制裁関税をかける動きを見せている。こうした動きに対して、今も「トランプ大統領は自由貿易を破壊する」という批判が強い。
トランプ氏側は、「これまで中国が貿易のルールを破壊してきた」という主張だ。実際、中国はこの30年近く、先進国の先端技術を奪うためのシステムをつくり出し、運用してきた。
まず、欧米や日本の企業から技術を奪うために、中国に進出する企業には、中国側との合弁事業とし、技術を教えることを義務づけた。経済大国となってからは、欧米の企業を買収し、技術を獲得している。
ここまでは現状では「合法」だが、これらが難しい場合には、「非合法」の産業スパイやサイバー攻撃を駆使して盗み出してきた(本誌前月号特集で詳報)。
企業だけではなく、大学などの研究機関に対しても同様だ。
中国の世界支配の構造を壊す
トランプ政権は、こうした知的財産権の侵害に対し、全面的な「経済戦争」を発動している 。
中国の対米輸出品すべてへの制裁関税のほか、対中交渉で合弁企業による技術移転の強制をやめるよう要求。また、中国企業の米企業買収について政府の審査を厳格化した。
中国人民解放軍とのつながりが強い中国の通信大手ファーウェイとZTEを「安全保障上の脅威」として事実上、米市場から排除する措置も、米議会が次々と打ち出した。
大学や大学院にいる中国人留学生について、トランプ氏が「米国に来るほとんどすべての学生がスパイだ」と発言。留学生のビザの期間を5年から1年に短縮するほか、FBIなどが本格的に調査・捜査を始めている。
これらの措置は、冷戦時代にソ連に対する先端技術の移転を認めなかった「ココム(対共産圏輸出統制委員会)」の体制にほとんど近づいている 。ソ連は、他国に売れるようなコンピュータや半導体がつくれず、技術獲得競争と軍拡競争でアメリカに敗れ去った。この再現をトランプ氏は狙っているといえる。
中国のこの30年の経済成長のほとんどが、対米輸出による貿易黒字によって形成されたといっていい。対米貿易黒字で蓄えた資金を国内投資や軍備拡張、習近平国家主席肝煎りの「一帯一路」構想に回し、「超大国」へと登り詰めようとしている。
しかし、 トランプ氏の「経済戦争」は、対米貿易黒字を吹き飛ばすことで、中国の「世界支配」の野望と基本構造を根こそぎ壊そうとしているのだ 。
幸福の科学の大川隆法総裁は著書『 繁栄への決断 』で、「(トランプ氏は) ずばり、中国の利益体質のところを減らそうとしていると見てよいでしょうし、それは軍事にもつながると考えます 」と指摘している。
トランプ大統領は中国への先端技術の移転を止めるため、制裁関税などを次々と打ち出している。左写真は、アメリカ市場から締め出されようとしている中国通信大手ファーウェイの商品。写真:Imaginechina/アフロ、ロイター/アフロ
大学から「技術略奪」
日本では、「トランプ氏は世界秩序を破壊するとんでもない指導者」というイメージが強いので、トランプ氏が次々と繰り出す策略に理解が追いつかない。
ただ、足下を見れば、 日本ほど中国の「技術略奪」のシステムが機能した国はないかもしれない 。
日本の場合、特に大学や大学院、研究機関からの「略奪」が目立つ 。
中国人留学生は、大学ごとの「学友会」に加入しなければならず、この組織を中国大使館が束ねている。留学生の日常を監視するとともに、どこの大学がどんな研究をしているかの情報が吸い上げられるという。中国政府としてほしい先端技術を研究している研究室の予算が減らされているケースがあれば、中国の大学や企業が共同研究を持ちかける。このプロセスで技術移転を図るのが基本的な枠組みだ(Part.2のインタビュー参照)。
例えば、中国人民解放軍は、宇宙で衛星を破壊するレーザー兵器を開発中だが、中国の科学技術研究の"総本山"中国科学院や、他の理工系の大学も密接に関わっている。
日本のレーザー研究の最高峰である大阪大学レーザー科学研究所は、中国科学院などとの共同研究を積極的に進めており、中国軍のレーザー兵器に転用されている可能性が高い。
無制限に留学生を受け入れ
大阪大学は本誌の取材に対し、「外為法に則り、適切に安全保障輸出管理を行っている」(研究推進課)と述べている。
軍事転用可能な技術については、経産省の輸出管理規則に則って、輸出の可否が判断される。経産省の許可があるので問題ないということだが、アメリカが中国への重要な先端技術の移転を「禁止」しようというなかで、日本がこんなに緩い規制でいいのかという問題はある。
そもそも文科省が2008年、「30万人計画」を打ち出して、ほとんど無制限に中国人留学生を受け入れ、「日中友好」の掛け声の下、共同研究が推奨されてきた。
アメリカでFBIが捜査に動くなかで、日本の緩い対応は遠からず国際問題に発展するだろう。
中国人技術者が突然行方不明
企業の場合は、欧米企業と同様、合弁事業によって技術移転が強制されるパターンが圧倒的に多い 。合弁を組まなくても、日本企業の技術協力の結果、中国側に先端技術が盗られることは頻繁にある。JR東日本と川崎重工業の新幹線技術がそっくりそのまま中国鉄道部に奪われ、「中国が独自開発した」として海外に輸出されているケースは有名だ。
今は日本のメーカーが中国人技術者を雇うのは当たり前で、その過程で産業スパイ事件が起こる。2007年の自動車部品メーカー・デンソーなど表ざたになる事件もまれにあるが、多くは表面化しない。
ある日本の大手電機メーカーの知財部門の担当者は、「中国人技術者が出張で中国に行って音信不通になり、姿を消すケースはよくあります。産業スパイだったのか検証できません」と語る。
今なお共同開発に積極的
中国政府は約30年かけて、国家横断的な「技術略奪」のシステムをつくり上げてきた 。シンプル化すれば、以下の3段階に分けられる。
(1)欧米や日本に留学生を送り込み、先端技術を学ぶ。(2)留学生や海外の企業で働いた技術者を帰国させ、先端技術を持ち帰らせる(多くが非合法)。(3)海外で研究・開発を続けながら、本国に先端技術を流用する(非合法)。
日本のメーカーから「中国人技術者がある日突然いなくなる」のは、(2)のケースだ。中国で高待遇で迎えられる。
パナソニックやソフトバンクといった日本を代表する企業が、米市場から排除されようとしているファーウェイなどとの共同開発を今も積極的に進めている。東大はファーウェイと理工系で横断的な共同研究を立ち上げている。
日本の大学と企業が無自覚につくり出している「産業スパイ天国」は、この1~2年で大きな転換を迫られるだろう 。
(1)米中冷戦の現実認識を
安倍首相と習近平国家主席は9月、露ウラジオストクで会談。習氏は10月の首相訪中を歓迎するとした。写真:新華社/アフロ
安倍晋三首相は「日中関係は完全に正常な軌道に戻った」として、10月の訪中に向けて、冷えこんだ関係の改善に強い意欲を示した。果たして、安倍首相に今の「米中冷戦」の現実が見えているのかどうか。
日本の政治指導者も、中国とのビジネスに関わっている多くの企業経営者も、今が約30年ぶりの転換点にあることを認識する必要がある。
90年代以降、アメリカは中国を自由経済体制に引き入れることで、民主的体制への転換を促す戦略をとってきた。しかしトランプ政権は昨年末、「われわれの希望に反した」として中国の共産主義体制と対決する路線に転じた。トランプ氏は、「中国に都合のいい秩序」の破壊者になろうとしているのだ。
日本の政府も企業も、中国の側に立つのか、アメリカの側に立つのか二者択一を迫られている 。
(2)貿易・技術のルール見直し
トランプ氏は、アメリカが再び世界を引っ張る新しい秩序をつくるため、貿易や技術に関するルールを全面的に見直している。
日本も足並みをそろえ、 中国人留学生を無制限に受け入れる政策や、中国への技術移転を奨励するような政策を全面的に見直すしかない 。
アメリカのように、日中首脳会談で合弁事業による技術移転強制に抗議し、中国企業の日本への投資を厳格に審査し、ファーウェイやZTEなどを日本市場から排除するしかないだろう。
(3)スパイ防止法制定を
世界で日本にだけないスパイ罪(スパイ防止法)の制定も急ぐ必要がある 。産業スパイ事件が起こっても、日本では窃盗罪など一般的な法律での処罰となる。日本国民を安全保障上の脅威にさらすスパイには、重罪を科すのが国際常識だ。
世界一ともいえる「産業スパイ天国」を終わらせることが、中国の「技術略奪」の時代を終わらせることに直結する。と同時に、「世界秩序の破壊者」トランプ氏が目指す「米中冷戦」の勝利を一気に引き寄せることになるだろう。
(綾織次郎)
日本での中国による「技術略奪」システム
企業
中国
- 中国に進出する日本企業に中国側と合弁企業をつくらせ、技術移転を強制。
- 中国に進出した多くの日本企業が中国企業と共同開発し、技術移転。
- 産業スパイ、サイバー攻撃で日本の技術を盗む。
日本
- 日本企業は中国市場で成功するため、中国への技術移転を容認。
大学・研究機関
中国
- 中国人留学生を中国大使館が組織化。
- 彼らを中心に日本の大学の研究情報を集める。
- 中国の研究機関から日本の大学に共同研究を持ちかけ、技術移転。
日本
- 日本政府は積極的に中国人留学生を受け入れ、共同研究を推奨。
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