2014年8月号記事

南シナ海危機

日本はアジアの警察官たれ

東南アジアは「盟主」を求めている


contents


PART 2

中国の「金と力」に揺れる東南アジア諸国

中国は領有権の主張と実効支配を進める一方、ASEANをはじめとする東南アジア諸国と経済関係を深めてきた。領有権問題と経済の中国依存に揺れる東南アジア諸国の事情を探る。

フィリピンの果物屋の軒先につるされたバナナ。日本が輸入するバナナの9割がフィリピン産だ。2012年、フィリピンは中国向けに生産していたバナナを日本に振り分けて輸出し、日本でのバナナの価格が大きく下がった。

「力による現状変更は容認できない」

5月末、シンガポールで開かれたアジア安全保障会議で、安倍晋三首相は中国を念頭に、そう演説。各国から喝采を浴びたが、それは中国の脅威にさらされた東南アジア各国の苦悩の裏返しでもある。

急成長を遂げるアジア経済は、中国によって支えられている面が強いからだ。

影響力を拡大する中国

東南アジア諸国との貿易で中国は軒並み上位を占める

東南アジア諸国連合(ASEAN、注2)の対中国貿易額は、2000年からの10年間で輸出入ともに7~8倍に増えている。 また、ASEANを1つの国として見た時、 国別の貿易額は、輸出入ともに中国が1位である (右図)。特にカンボジア、ラオス、ミャンマーは、中国から多くの兵器を輸入しており、軍事的な関係も深い。

中でもカンボジアは、長年日本が経済支援してきたが、10年、中国が援助額で日本を抜いて首位に立った。プノンペン市の「カンボジア日本友好橋」の隣には、中国がより大きな橋を建設。さらに、発電所や港湾、政府庁舎も中国の支援で建てられた。12年、ASEANで中国をけん制する声明を出そうとした際、カンボジアは中国に配慮し、議長国の権限で否決。両国の関係の深さを感じさせた。

しかし、中国依存は同時に経済や安全保障を危うくする。12年、南シナ海で中国とフィリピンの領有権争いが激化した直後、中国はフィリピンの主要産業であるバナナの輸入を、検疫を理由に制限。その損害額は約18億7千万円に上ったと言われる。

東南アジア諸国は、自国の経済発展と中国との距離感について常にジレンマを抱えている。

こうした事情について、今回の衝突の当事国であるベトナムに詳しい小髙泰氏に話を聞いた。

(注2)東南アジアの国々からなる東南アジア諸国連合(ASEAN)は、1967年の「バンコク宣言」によって設立された。加盟国は当初の5カ国から順次増え、現在はインドネシア、カンボジア、シンガポール、タイ、フィリピン、ブルネイ、ベトナム、マレーシア、ミャンマー、ラオスの10カ国。