2013年1月号記事

ワシントン発
バランス・オブ・パワーで読み解く
伊藤貫のワールド・ウォッチ

(いとう・かん)

国際政治アナリスト。1953年生まれ。東京大学経済学部卒。米コーネル大学でアメリカ政治史・国際関係論を学び、ビジネス・コンサルティング会社で国際政治・金融アナリストとして勤務。著書は『中国の核戦力に日本は屈服する』(小学館)、『自滅するアメリカ帝国』(文春新書)など。

国際政治はバランス・オブ・パワー(勢力均衡)から逃れることはできない。アメリカの退潮、中国の台頭、北朝鮮の核武装──。日本の置かれた立場は確実に不利に傾いている。日本が主体的にパワー・バランスをつくり出すために、国際情勢をどう読み解けばいいのか。

第8回

オバマ再選のアメリカは東アジアから引き揚げる?

──オバマ米大統領が再選されました。アメリカ外交に、何か変化が起きるでしょうか。 当面、大きな変化はないと見られています。アメリカは現在、財政問題で非常に苦しい状態にあるため、外交政策で大胆な変革を行う余力はないでしょう。

ただ 「現在のアメリカのグランド・ストラテジー(基礎的な国家戦略)は根本的に失敗している。大幅に変更する必要がある」と指摘する戦略家もいます。 マイケル・J・マザールという米国防大学の戦略学者です。彼は昨年、米軍の統合参謀会議議長の特別補佐官を務めていました。彼が最近発表した「アメリカの世界政策は、戦略的破産の状態となる」という論文がワシントンで話題になりました(注)。

(注)Michael J. Mazarr, “The Risks of Ignoring Strategic Insolvency,” The Washington Quarterly, Fall 2012