《本記事のポイント》

  • 同盟強化の要となる対中政策
  • 日英で包括的な対中政策を策定できるかが鍵
  • 日本はG8にロシアの復帰を促すべき

前編では、ブレグジット後のイギリスが、かつての大英帝国のごとく大英連邦との関係強化とともに、日本との関係を実質的な同盟レベルまで深化させてきていることをハッピー・サイエンス・ユニバーシティ(HSU)で安全保障学や国際政治を教える河田成治アソシエイト・プロフェッサーに語ってもらった。

今回も前編に引き続き、新・日英の同盟関係の意味合いや、あるべき姿について聞いた。

(聞き手 長華子)

元航空自衛官

河田 成治

河田 成治
プロフィール
(かわだ・せいじ)1967年、岐阜県生まれ。防衛大学校を卒業後、航空自衛隊にパイロットとして従事。現在は、ハッピー・サイエンス・ユニバーシティ(HSU)の未来創造学部で、安全保障や国際政治学を教えている。

──日英同盟は、第一次大戦前にも結ばれました。日英同盟と聞くと当時の日英関係を彷彿とする方が多いと思いますが、当時との共通点や違いなどがあれば教えて下さい。

実は、日英間の関係の深化は、かつて20世紀初頭に結ばれた「日英同盟」とは大きく異なっています。

1902年の日英同盟締結をめぐっては、明治政府の中にロシアを選ぶか、イギリスを選ぶかという対立がありました。脅威の対象であるロシアと協定を結ぶことで圧力を緩和すべきと主張する伊藤博文、井上馨、松方正義らに対し、山県有朋、桂太郎、加藤高明、小村寿太郎らはイギリスと同盟を結ぶことでロシアに対抗する道を望んでいました。最終的に、イギリスを選ぶべきだという人々が政府内で勝利します。

一方、アジアの権益を維持したいと考えていたイギリスは、ロシアの南下に対抗するために、ヨーロッパ方面からけん制できるフランス、ドイツなどとの協定を考えていました。

しかし仏独などとの協働が不発であったことや、ドイツが大艦隊建造計画を進めたため、ヨーロッパ方面で緊張が高まり、イギリスは極東に海軍を送る余裕がなくなりました。そうした台所事情から日英交渉が進められたのです。

当時の日英同盟は、価値観と未来ビジョンを共有した信頼し合える関係であったから同盟関係を結んだわけではなく、利害関係が一致した「よい取引」という側面が強いものでした。

今回の日英関係は、両者にとって海洋を通じた繁栄が死活的に重要であること、そのために自由や民主主義といった価値観を前提として共有しているという点で、前回の日英同盟とは大きく異なります。

中国に対する脅威認識が高まる中で、「自由・民主主義・人権」といった価値観の喪失は何としても防がなくてはならない。それが共通認識となったのです。

21世紀の日英は「普遍的な価値観」で結ばれ、世界の平和と安定、繁栄を維持・構築するための公益性の高い同盟関係と言えるでしょう。

同盟強化の要となる対中政策

──問題なのは、日英双方に対中戦略の隔たりがあるところです。

日本の「国家安全保障戦略」にあたる、2021年の「統合レビュー(競争的時代におけるグローバル・ブリテン:安全保障、防衛、開発及び外交政策の統合的見直し(Global Britain in a competitive age: The Integrated Review of Security, Defense, Development and Foreign Policy)」では、「グローバル・ブリテン」構想が具体化される中で、EU 離脱後のイギリスの安全保障・外交戦略の具体策が一定程度明らかになっています。

統合レビューの内容の主だった点を挙げると、以下の4点になります。

  • (1)インド・太平洋地域が「世界の地政学的中心になりつつある」とし、同地域への経済・外交・安全保障面での包括的関与を強化。
  • (2)中国を、イギリスの経済的利益や安全保障に最も重大な脅威を与える「構造的競争相手」と認識し、「イギリスの経済安全保障への最大の脅威」と位置付ける。その一方で貿易・投資面では重要であり関係強化を表明し、気候変動問題等の価値観と利害が一致する場合は協力を進めるなど実利は追求する。
  • (3)アメリカは最も重要な戦略的同盟国であり、「特別な関係」の維持に努める。
  • (4)ロシアについては「引き続きイギリスにとって最も深刻な脅威」。

(2)に示されているように、イギリスは中国に対して「政経分離」の態度を取っています。

中国を「構造的競争相手(Systemic Competitor)」と認識する反面、貿易・投資面では重要な存在と認識し、気候変動問題等の価値観と利害が一致する場合は協力を進めるとしています。これはバイデン米政権の政策を彷彿とさせるものがありますね。

ウイグル問題で対中制裁に踏み切った

そうはいってもイギリスは、ウイグル族の拘束や強制労働等が深刻な人権侵害にあたるとして、3月22日に、アメリカ・EU・カナダと足並みを揃えて、対中制裁に踏み切っています。

これに対して、中国が報復的な対抗措置を取り、ダンカン・スミス元保守党党首などの5人の議員をはじめとした9個人、4組織への制裁を科したことで、イギリスは対中姿勢を硬化させています。

また7月に、新設する原子力発電所の全ての計画から中国の国有企業を排除する方針だと報じられました。

中国の言動次第では、「異質性」が一層表面化し、イギリスの「政経分離」的スタンスはトーンダウンしていくに違いありません。

日英で包括的な対中政策を策定できるかが鍵

この現象はイギリスにとどまらずEU加盟国にも及んでいます。中国の本質が、欧米などの自由社会と相容れない価値観にあり、自由で開かれ、共に繁栄を享受する国際社会の一員として共存できない存在であることに気が付きつつあります。

こうした中、最も注目されるのが、日本との連携です。欧州のマスメディアは、「対中戦略の成功の鍵は日本との連携強化にある」として、日本との連携強化を積極的に評価しています(世界経済評論IMPACTより)。

それにもかかわらず日本の政財界は、中国への制裁などの強硬手段は一切取っていません。

日本の宥和的な対中姿勢こそ、日英間の楔になっています。従って、中国の台頭を抑止し、自由と民主主義などの価値を守るための包括的な対中アプローチを、共同で策定していくことが今必要なことです。

日本はG8にロシアの復帰を促すべき

もう一つ、日英間の楔となりそうなのが、対露政策です。

イギリスは、2021年の「統合レビュー(安全保障外交政策の見直し)」において、ロシアを引き続き「最も深刻な脅威」と位置づけています。この認識は中国への危機感が高まった現在も継続しています。

イギリスが第一の脅威をロシアに置く以上、「日英同盟」の復活は、ロシアにかつての敵対関係を想起させるリスクがあります。

日本は、2014年に発生したウクライナ危機への対応で、G7での対露政策の足並みを揃えたことで、ロシアとの関係が冷えこみ、北方領土問題の解決や、平和条約の締結実現が遠のいたという"失敗"を経験しています。

日本としては「日英同盟」を目指すとしても、ロシアを敵対国家に追いやらない外交が求められます。

従って「日英同盟」へのロードマップの第一歩は、ロシアをG7に迎え入れてG8とすることをはじめ、西側諸国の一員として信頼関係を醸成していくことが何よりも重要となります。そのイニシアチブを取るべき立場にあるのが日本であり、これは日本の国益そのものでもあります。

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