《本記事のポイント》

  • 自衛権に基づいて在外邦人保護を行うのは当然の権利
  • 海外派兵への極度な自制で、国民を守れなくなっている
  • 日本人が思うよりASEANの人々は日本を仰ぎ見ている


ミャンマー情勢は悪化の一途を辿っている。ミャンマー国軍が国民を殺害するペースは、化学兵器を国民に使用したシリアのアサド政権を超えるとも言われ、事態は急を要するようになってきている。

ミャンマー国連大使のチョー・モートゥン氏は14日付産経新聞で、クーデターに抗議する国民への武力行使を止めるため「日本政府と国民は国軍との経済・外交上の関係を停止してほしい」と訴えた。

国連の安全保障理事会が、中露の反対で経済制裁等の措置に踏み込めない状況が続く中、国際社会に残された時間は少なくなってきている。

これに対し、日本はどのような方法に訴えることができるのか。すでに本欄では、紛争地域にある国が、国民を守る責任を果たしていない場合に介入することを認める国際法上の概念である「保護する責任」を援用し、介入すべき点を訴えてきた。その場合は、憲法9条の適用除外に基づいて行う形となる。

だが、9条適用除外という形ではなく、既存の9条の枠内で、ミャンマーにコミットする方法もある。「邦人保護」としての自衛隊派遣である。

この点について、ハッピー・サイエンス・ユニバーシティ(HSU)で安全保障学や国際政治を教える河田成治アソシエイト・プロフェッサーに話を聞いた。

(聞き手 長華子)

自衛権に基づいて在外邦人保護を行うのは当然の権利

元航空自衛官

河田 成治

河田 成治
プロフィール
(かわだ・せいじ)1967年、岐阜県生まれ。防衛大学校を卒業後、航空自衛隊にパイロットとして従事。現在は、ハッピー・サイエンス・ユニバーシティ(HSU)の未来創造学部で、安全保障や国際政治学を教えている。

──既存の憲法の枠内でミャンマーを助ける方法としては、「邦人保護」の名目で自衛隊を派遣するということができるかと思います。これについてはどうお考えでしょうか。

一般に自然災害や治安の悪化、内戦などによって、在外邦人が危機にさらされることがあります。このような時に自国民の生命と安全のために取る措置を「在外自国民保護活動」(NEO: Non-combatant Evacuation Operation)と言います。

そして、自国民に危害が及ぶ恐れがある場合に、自衛権に基づいて在外邦人の保護を行うことは、国連憲章第51条で定められた自衛権行使に当たり、当然の権利といえます。

例えばイギリスの国防省は、海外にいる自国民がその滞在国によって適切に保護されない場合には、国際法上の個別的および集団的自衛権(国連憲章第51条)によってこれを保護するとしています。

このように邦人保護は、諸外国では当然のごとく行われるものであり、例えば1976年、ハイジャックされた民間旅客機がウガンダの空港に着陸した際、イスラエルは自国民を救出するために、ウガンダ政府の合意を得ずに軍の特殊部隊を送り人質を奪還しました。

国民を守れない自衛隊法は違憲性が高い

一方、日本では2013年のアルジェリア人質殺害事件後、海外の邦人保護に関する自衛隊法の改正が行われました。しかしその内容を見ると、邦人保護を行うのに際し、非常に高いハードルを満たさなければならなくなっています。

自衛隊法84条を見ると、まず1つ目は「当該政府の許可」が必要です。

ミャンマーのケースでは、軍事政権がクーデターを起こし政権を奪取しているような状況の中で、「当該政府からの許可」はハードルが高いでしょう。もし許可を得ようとすれば、ミャンマーの軍事政権と良好な関係を維持する必要があり、それではクーデターを認めることになり、日本の正邪の判断力はゼロということになってしまいます。

もちろん、ほとんどの諸外国も相手国の同意を取り付けることを原則としていますが(主権の尊重)、同意が得られない場合でも、自国民が現地で危険に遭うと判断されれば、自国民保護活動(NEO)を行います。

2つ目は、「戦闘行為が行われる場所ではないこと」という条件も満たす必要があります。現行の法制度下では、戦闘地域になった場合は撤収しなければなりません。今月9日には、中部バゴーで国軍側の攻撃で一日に80人以上が殺害されたばかりですし、今後、ミャンマーの少数武装勢力との内戦の恐れが高まっているので、「戦闘行為」があちこちで行われる可能性があります。しかし本来は、「戦闘」になるような危険な状態であるからこそ、自衛隊が派遣されるべきでしょう。

3つ目は、自衛隊法94条によると、武器使用の条件が厳しく制限されていることです。

例外として自衛隊員と邦人等の保護対象者の保護、および邦人保護任務の妨害排除のため、やむを得ない場合は、必要とされる限度で武器を使用することが可能となるとされています。

しかし正当防衛・緊急避難の場合以外は、人に危害を与えてはならないとされています。そのようになっている理由は、自衛権によって邦人保護を行うことを、日本は認めていないからです。そのため極めて限定的な武器使用しか許可されていません。

一方、諸外国はそうではありません。例えばフランスの国防省は、「海外に在留する自国民が危険にさらされ、在留国がなんら保護を与えず、あるいは保護を与えることができない場合、自国民を保護するのは国家の政治的義務である」として武力行使を正当化しています。

同じく第二次世界大戦の敗戦国であるドイツも、邦人保護のための自衛権の行使を認めています。

日本では、自衛隊は邦人保護のための武力行使はできないとしています。その理由は、日本の場合、「国家」への武力攻撃に限定して自衛権を認めているためです。一方、他の国家は、「国民」に対する自衛権も当然の国家の責務としています。

海外派兵への極度な自制で、国民を守れなくなっている

その背後にあるのは、自衛隊の海外派兵に対する"極度な自制"でしょう。日本の個別的自衛権(武力行使)の要件は、以下の三要件が条件とされており、領土・領域を守ることが前提とされています。

  • 我が国に対する「武力攻撃」が発生し、
  • これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること、
  • これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないこと、
  • 必要最低限の実力行使にとどまるべきこと

自衛隊法では、有事(防衛出動)は、我が国に対する外部からの武力攻撃に対してはじめて自衛隊の出動が可能とされています。

領土や国が危険にさらされないと、自衛隊は出動できず、国民も保護できないという規定です。現行法では、自衛権は「国」に対するものであって、海外にいる「日本国民」は対象となっていません。それは、自衛隊を海外に派兵すれば「侵略として見なされる」という、国内外からの非難を極度に恐れてのことでしょう。

領土や国を条件とせず、国民の生命が危機に直面する場合には、諸外国が国家の責務として自衛権を行使するとしているにもかかわらず、日本のみが邦人保護のために様々な制約を課しているということは、自衛隊法等の法律の違憲性が高いといえます。

「在外邦人への危害は国家への武力攻撃に相当しないので、日本人の生命や安全のためであっても、自衛権を行使して自国民を救出してはならない」という考えは、「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」(憲法13条)に抵触し、侵害しているといえます。

イスラム国に日本人が殺された教訓を学べるのか

──2015年1月にイスラム国で人質に取られ、殺害されたジャーナリストの後藤健二さんの守護霊は、大川隆法・幸福の科学総裁のもとを訪れ、「だから『憲法九条を守っていれば、日本は攻撃されない』、あるいは、『自衛隊を海外に派遣しなければ、そういう海外の戦争とか、テロには巻き込まれない』、そういうのをずっと戦後、信じてきたわけだよ。ただ、今回、『そうじゃない』っていうことが分かったわけだ」と述べておられました。

イスラム国の人質事件は私たちにとって記憶に新しいわけですが、やはり自国民の保護を目的として、必要であれば自衛権を行使し、邦人救出をすべきです。ミャンマーでの問題が深刻化する前に法改正や、間に合わなければ閣議決定で自衛隊法の該当部分の一時的な停止などをしておかなければ、後藤さんのようなケースが多数発生するかもしれません。

また一般に、災害派遣も在外自国民の保護に入ります。2016年の熊本地震でも派遣された海上自衛隊の空母「いずも」は、乗員以外に450人を収容でき、食料や医療行為なども行えるものとなっています。

自衛隊法には、「自衛隊員と邦人等の保護」とあります。日本人のみを救出して、現地のミャンマー人を見殺しにするということが、立法者の意思に含まれているとはとても思えません。もし見殺しにしたら、ミャンマーの人々からの日本への高い信頼を損なうことになります。

いずもを送ることで自国民の保護を優先して行うと同時に、人道的な観点からミャンマー市民の救援活動も行うべきでしょう。

日本人が思うより、ASEANの人々は日本を仰ぎ見ている

──大川総裁が3月11日に収録したアウン・サン・スーチー氏の守護霊は、霊言の中で「国連はもう動かないから、オーストラリア、日本、インドあたりを中心にして力を持って、あと、欧米のほうに応援を依頼する感じ?日本が頑張ってやるから応援してくれということで、米国とかイギリスとの同盟関係を強めて、後押ししてもらう感じになるといいけれども」と述べており、「日本が頑張ってやるから応援してくれ」という形がよいと提案されました。

シンガポール独立系のシンクタンク(ISEAS:The ISEAS-Yusof Ishak Institute)が示した以下の図にあるように、東南アジア諸国連合(ASEAN)では米中戦争の第三の選択肢として、日本と組みたいと考えている国が多いですよね。我々日本人が考えているより、彼らは私たちをお手本として仰いでいるのが感じられます。日本が、そうした国をまとめていく使命があります。

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「米中戦争下で、ASEAN にとって最も好ましい戦略的パートナー国はどこか」という設問に対する回答。

言葉だけではだめで、具体的に行動に移してこそ、彼らの力になってあげることができると思います。

すぐにでも邦人保護を行わなければならない状況が目前に迫っています。邦人保護についての議論を行い、自衛隊の派遣に向けて動き出すべきです。

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