写真:ロイター/アフロ、写真:日刊現代/アフロ

2020年9月号記事

自民党 巨大買収帝国の最期

昔は選挙前になると票がお金で買われることも多かったという。
残念なことに、それは過去の話とはなっていなかった。
今回の事件は、自民党帝国を築くために、「買収」し続けた歴史の必然的な終着点であり、
帝国の最期を招く引き金になるかもしれない─。

(編集部 長華子)

東京地検特捜部は7月8日、昨年7月の参院選広島選挙区で、票の取りまとめを依頼するために地元議員ら100人に計約2900万円の現金を渡したとして、前法相の河井克行容疑者を公職選挙法違反の罪で起訴した。妻の案里容疑者についても、5人に対する計170万円の買収罪で起訴した。

法相経験者が逮捕・起訴される事態は戦後初だ。克行被告は違法性の認識はないと主張するものの、結果として被告人が法の番人を務めていたことになる。

当時、同じ選挙区だった現職の溝手顕正氏の10倍にあたる1億5千万円が自民党本部から案里氏側に渡される、異例の肩入れだった。真の狙いは、現職の溝手氏の落選だったとも言われている。溝手氏は、2012年に安倍首相が自民党総裁選に出馬した際に「過去の人」と評してこき下ろしてきた経緯などがある。

そうした中で安倍政権は地元の反対を押し切り、県議としての実績がまだ十分でない案里氏を擁立。信頼のおける克行氏の妻を刺客として送りこんだと目される。

捜査は自民党本部まで及ぶのか

1億5千万円のうち1億2千万円は、税金が原資となる政党交付金だという。克行氏は、買収の趣旨はなかったとし、党本部からの振り込みがバラマキの原資になったことを否定している。

しかし案里氏の後援会長を務める町議は、克行氏から「安倍さんからです」と言われて現金を渡されたと証言しており、克行氏の弁明は空しく響く。

公職選挙法上、「当選させる目的で克行氏に交付された金銭」については、ほぼ自動的に自民党本部側にいわゆる「交付罪」が成立する。

その場合の意思決定者は少なくとも二階幹事長、または安倍首相となる。この点が本件の法律上の最大の問題点だが、事はこれだけにとどまらない。

選挙の約3カ月前に、票の取りまとめを依頼する県議、市議、町議に現金を渡した今回のケースは、従来は違法とはされていなかった。いわばこれは自民党の通常の政治活動であり、これがクロなら、多くの自民党議員を逮捕しなければならなくなるからである。

今回、検察はこの一線を越えた。これは自民党の利益誘導システムが丸ごと違法で、巨大買収帝国だと暗に認定したのに等しい。

それでは、この「買収帝国」はどのようにしてでき上がってきたのだろうか。

次ページからのポイント

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