2019年11月29日、在香港英総領事館前で「私たちの誰もがサイモンになる可能性がある」というプラカードとサイモン・チェン氏のお面を掲げて行進する香港市民たち。写真:AP/アフロ

中国の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)で28日、中国政府に対する「反逆、分離、扇動、転覆」を禁止する「国家安全法」を香港に導入する方針が採択された。習近平指導部は6月中にも公布するとみられる。

この法律が成立すれば、警察は香港における政府への抗議活動をこれまで以上に容易に取り締まれるようになる。アメリカを中心とする国際社会は、香港の自由への攻撃であるとして中国政府を強く非難している。

中国当局に拘束・拷問された経験を持つ香港人権活動家に、同法案の危険性について聞いた。

(幸福の科学 国際政治局 小林真由美)

香港人権団体 The Umbrella Union 名誉主席

鄭文傑

Profile

(サイモン・チェン)1990年、香港生まれ。在香港英総領事館の元職員。現在はロンドンで活動中。

The Umbrella UnionのHP : https://www.theumbrellaunion.org/

「中国の秘密警察に拷問された」

チェン氏は在香港英国総領事館の職員として約2年間勤務していた。自身も香港の民主化運動を支持しており、英総領事館の指示を受けながら、香港デモの情報を集める任務にもあたっていた。

2019年8月、チェン氏は出張で中国の深センに行き、香港に戻る高速鉄道に乗り込んだ後、中国警察によって深センに連れ戻され、拘束された。

デモ参加者観察の任務に関するメールがチェン氏の携帯電話に残っていたことから、中国の秘密警察はチェン氏を「英国のスパイ」と見なし、香港デモへのイギリス政府の関与について繰り返し尋問した。

その際、チェン氏は、手錠で椅子につながれ、殴打され、さらに無理な姿勢で何時間も放置され、英総領事館職員の情報の提供や虚偽の自白を強要されたという。

チェン氏は釈放された後、19年11月に英BBCなどのメディアの取材に応じ、拘束中の状況を語った。イギリスのドミニク・ラーブ外相は中国当局の彼に対する扱いを「拷問に等しい」として非難する声明を発表した。

チェン氏はさらに、「秘密警察ははっきりと、香港のデモ参加者たちが次々と捕まり、中国大陸に運び込まれて拘束されていると言っていた」とも証言。この証言は、香港の自由が中国の支配によって侵食されているという抗議者たちの懸念を強めるものだった。

以下、チェン氏が「国家安全法」について語った内容を紹介したい。

2020年1月20日、ロンドン市内で開かれたデモ集会で演説するチェン氏(画像はチェン氏のFacebookより)。

中国流の弾圧を香港に"直輸入"する法制度

──中国政府による「国家安全法」の香港への導入について、どのような懸念がありますか。

チェン氏: 「国家安全法」の香港への導入は、昨年の大規模デモの原因となった「逃亡犯条例」よりも、はるかに危険です。中国国内で起きている数々の人権侵害が、香港でも同様に行われるようになることを意味しています。

この法案は、「中国の国家安全当局が香港に出先機関を設置できる」と定めています。つまり、中国の秘密警察が堂々と香港に入り、中国流のやり方で香港市民を弾圧できるようになるということです。自由を求める香港人にとって、これ以上に最悪なことはありません。

私は、中国の秘密警察から直接拷問を受けた当事者として、中国には法の支配が全くなく、拘束された人には何の法的権利も人権もないことを、身をもって知っています。あの地獄のような経験を、同胞の香港人には絶対にさせたくありません。

北京政府は我慢の限界を迎えている

──なぜ北京政府は、今のタイミングで「国家安全法」の議論を始めたのでしょうか?

チェン氏: 中国政府はすでにコロナウィルスの問題で世界中から批判を集めています。にもかかわらず、今回、さらに国際社会を敵に回すような行動を起こしました。中国政府のこうした非合理的な行動から、共産党指導部がかなり追いつめられていることが分かります。

中国政府は、香港の反政府デモを弾圧することはできるでしょうが、国際メディアがデモの実態を世界中に発信したり、それを受けて世界各国が中国を批判したりする動きはコントロールできません。香港市民は他国の政府に対し、中国を制裁するように働きかけており、こうした動きは中国には止められないのです。

全体主義国家は、自らの力で抑え込めない動きを恐れます。北京政府が手段を選ばなくなっているのは、コロナウィルスの問題と香港の反政府デモで我慢の限界を迎えているからだと思います。

──アメリカやイギリスの政府は中国の香港弾圧を強く非難しています。日本政府に期待することはありますか?

チェン氏: この春、中国の習近平主席は、国賓として日本を訪問する予定だったと思います。しかし、日本政府にはいい加減目を覚ましていただきたい。中国は日本にとって隣国であり、日本はこの全体主義国家と対峙する最前線に位置しています。

香港の「一国二制度」原則に基づく高度な自治は、2047年まで約束されていたにもかかわらず、2020年の現時点で、すでに"事実上の死"を迎えています。次に危険が迫っているのは台湾です。中国は台湾併合の計画を、香港と同じように早めてくるでしょう。台湾の次に狙われるのは日本の尖閣諸島です。

自由や人権などの普遍的な価値よりも、富や権力を選ぶ国は、中国の覇権拡張主義の犠牲になります。日本の方には、日本を守るためにも、香港の戦いを支援していただきたいです。

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