《本記事のポイント》

  • 近い将来、コロナ税や消費増税が行われる可能性に注意
  • 事実上のMMTと、食糧危機が重なれば、悪性のインフレにつながる恐れ
  • アメリカで検討されている給与税の減免措置は雇用を促進する

4~6月期のGDP成長率は年率でマイナス20%台になると予測され、300万の潜在失業者がいるとも言われる。これに対処するため、日本の政府や地方自治体は財政出動による不況対策を講じている。

一方アメリカでも、これまで約3兆ドル規模の財政出動を行った。トランプ大統領は、5月下旬まで様子を見た上で、第4次景気刺激策を検討すると述べている。

経済は今後どうなるのか。各国で増え続ける政府債務は、各国の経済にどのような影響を与えるのか。ハッピー・サイエンス・ユニバーシティ(HSU)の経営成功学部で、経済政策を教える西一弘アソシエイト・プロフェッサーに話を聞いた。

(聞き手 長華子)

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HSUアソシエイト・プロフェッサー

西 一弘

プロフィール

(にし・かずひろ) 1971年、兵庫県生まれ。京都大学経済学部卒業、東京大学大学院経済学研究科中退。現在は、ハッピー・サイエンス・ユニバーシティ(HSU)経営成功学部で経済政策を教えている。

──財政出動の結果、各国の政府債務の額が増えています。日本は1100兆円から1200兆円に増えました。これは将来の経済成長にどう影響を与えるのでしょうか。

西: 政府債務の対GDP比率が大きくなると成長が抑制されるという議論があります。本来、経済は、民間経済の活発化によって成長しますが、国の支出が有効なところに回されずに、借金の利払いに回されてしまいます。

財政支出が利払いに充てられるようになると財政が硬直化して、借金を返すために税金を取ることになるという悪循環に陥ることもあります。

今後、コロナ税や消費増税があるかも

──日本政府は国民に給付金として現金10万円を支給しています。今後、東日本大震災後の復興特別税のような形で、増税されることはあり得ますか。

西: コロナの対策会議に感染症の専門家だけでなく、経済系の専門家も入るべきだということになり、財政再建派の方が2人諮問委員会に入りました。これにより歳出拡大した分を財政再建のために税金で回収するという話が進んでいる疑いがあります。

早く自粛を解除して経済の復興を重視するのかと思っていたのですが、逆の方向に行きそうです。

また安倍首相が「今後10年は増税の必要はない」と宣言した消費税を、財務省はコロナを口実に上げる方向にもっていく可能性もあるでしょう。

事実上のMMTで将来、インフレになる?

──アメリカ政府や日本政府の財政出動は、事実上の現代貨幣理論(MMT)に近いと言えますか?

西: 特に、日本の場合はそれに近いですね。MMTは、おおざっぱに言うと、日銀がお金を刷ればいいし、政府はその借金を返済しなくてよいという考え方です。

政府は、表向きは絶対にMMTを採用しているとは言いません。もし言った場合はその国は財政規律がなくなったとみなされて、通貨が信用されなくなるので、「財政健全化を考えています」と言うでしょう。

──事実上のMMTだった場合、これから日本はインフレになるのでしょうか。

西: お金の量と物価は原則比例します。しかしそれは持っているお金を一定の比率使うというのが前提です。

少しややこしいので説明します。いま日本は未来に不安を感じている国民が多いです。将来景気がよくならないかもしれないので、給付金をもらっても貯金してしまい、すぐには使いません。

「記念切手」のようなものだとイメージすると分かりやすいでしょう。みんなが10万円を切手のようにしまっておけば、すぐにはインフレになりません。むしろデフレの状況のままです。

ただ貯めこんだお金をみんなが一斉に使い始めたら、インフレになってしまう可能性があります。その時は、一瞬景気が良くなったように見えますが、物価が上がり、庶民の生活に打撃を与え、最終的に景気は悪いがインフレだけが残るというシナリオになることがあります。1970年代に起きたオイルショックの時がそうでした。1974年にはマイナス成長になった一方、20%を超えるインフレが発生しました。

小麦や石油の価格が高騰すればインフレに

──どういう場合に同じようなことが起きますか?

西: 今アフリカからバッタの大群が中国に向かって移動しています。世界的に穀物価格が上昇し、小麦の価格が高騰するとしましょう。「小麦の価格が高騰するかもしれない」という噂が立つとします。

そうなれば、ラーメンやうどん、そばやパスタの原材料の小麦をみんなが買うようになる。高く売れるとなれば卸売業者も高値で卸すようになる。すると、どんどん小麦の価格が上がっていきます。先日も、トイレットペーパーやマスクの値段が上昇しましたが、同じようなことが起きます。

穀物だけでなく、ほとんど輸入に頼っている石油で起きるパターンもあるでしょう。

「これがないと生きていけない」という物は、いくら値段が上がっても輸入することが必要でしょう。そのために日本人が円を大量に使った場合、世界中に円が放出されます。

為替相場は先読みして動くので、日本人が円を使い始めたとなったら、投機筋は先読みして円を売る。どんどん円の価値が下がってくれば、いずれは一般の国民までもが円を売ってドルを買うようになる。

円を売る人はいても買う人がいないと円が大暴落してしまう。円が暴落すれば輸入品が高くなる。つまり円安と物価高になってしまうのです。

MMTが怖いのは、たくさんお金を刷ってしまうと、貯めこまれていたお金が使われる時も、膨大な金額になってしまうということです。オイルショックの時は、今ほどお金を刷っていなくても、インフレに喘いだ。その時と比べて、これまで刷ってきたお金の量が多いため、今回はもっと大火事になってしまう可能性があるのです。

もちろん日本のGDPが将来2000兆円となるなど、規模が拡大するなら、それに見合った貨幣の量が必要になるので、相応のお金を刷ってもインフレになりません。

2008年9月の「リーマン・ショック」の時は、金融緩和が遅かったため、震源地のアメリカよりも日本の回復が遅くなりました。緊急対応のためにある程度のお金を刷ることは必要でしょう。

ただ将来、大量のお金を刷っているので、何らかのきっかけで、ハイパーインフレになる可能性もある。ですから、「今をどう生き延びるか」と「将来のハイパーインフレで苦しむか」の、究極の選択を迫られていると言えます。

一方、アメリカの場合は、基軸通貨国ですので、暴落を考える必要はありません。連邦準備制度理事会(FRB)が猛烈な勢いで、ドル資金を発行しています。その規模は、リーマン・ショック後の2.5倍です。

アメリカが経済を再始動するとともに、お金を刷って経済を立て直して経済を救うのはやむを得ないでしょう。しかしその結果、バブル崩壊後の日本のように、政府の借金が増えてしまうことはあるでしょう。

雇用を後押しする給与税の減免措置

──アメリカでは、トランプ大統領の経済ブレーンで、「サプライサイド経済学の父」のラッファー博士らが大統領に提案し、給与税減免を年末まで行う政策が議論されています。

西: とてもいい政策だと思います。社会保険料などの企業負担を減らす減免措置で、企業の手元資金を厚めにしてあげることができれば、キャッシュに余裕ができるので、企業は人を雇用するようになるでしょう。

リーマン・ショック後、失業率が元の水準に回復するまで、10年近くかかりました。今回の危機ははるかに規模が大きく、4月時点の失業率を見ても既に戦後最悪の水準を大きく超えています。コロナ不況以前の状態に戻るには10年では済まないでしょう。アメリカでも、過去、日本に30年間の停滞をもたらした「平成不況」がやってくる可能性があるのです。

ですから、雇用を回復させるためにも、そうした政策を実行し、企業の手元資金に余裕をつくってあげることが不可欠ではないでしょうか。日本でも経済の再稼働を急ぐ必要があるのです。

【関連書籍】

『大恐慌時代を生き抜く知恵』

『大恐慌時代を生き抜く知恵』

大川隆法著 幸福の科学出版

『P.F.ドラッカー「未来社会の指針を語る」』

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