小学4年生だった栗原心愛(みあ)さん(当時10歳)が、父親からの虐待で亡くなるという痛ましい事件から、1月24日で1年が経った。

心愛さんは3日間、食事や睡眠を与えられず、死因は暴行によるショック死。暴力などのほか、性的虐待も日常的に受けていた。児童相談所に一時保護された時期もあったものの、父親が虐待を否定したことと、心愛さんが落ち着きを取り戻したことなどから、「重篤な虐待ではない」と判断された。

しかし心愛さんは学校のいじめアンケートで父親からの暴力を訴えるなど、SOSを発信していた。

ところが市教育委員会は、父親に乞われるまま、そのアンケートのコピーを渡してしまう。この事実は社会に衝撃を与え、学校や教育委員会、児童相談所の姿勢に非難の声が集中。再発防止のための取り組みも行われているが、その後も痛ましい虐待事件が発生している。

なぜ虐待を止めることができないのか。本欄では、NPO法人「神奈川子ども支援センターつなっぐ」の公開講座の模様と代表理事への取材から、子供たちを守るために大人ができることを伝える。

※2019年7月号本誌記事を再掲。内容や肩書きなどは当時のもの。本記事では、2つの「虐待死から子供を守る緊急避難策」なども紹介している

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行政、医療、司法、教育、民間などの連携が必要

NPO法人 神奈川
子ども支援センターつなっぐ
代表理事

田上 幸治

虐待されている子供を救うため、多機関との連携を目指すNPO法人「神奈川子ども支援センターつなっぐ」が4月に設立された。このような活動は全国でも珍しい。5月に横浜市で行われた市民公開講座では、医療や教育、司法関係者(検察、警察、弁護士)がパネルディスカッションで意見を交わした。

多くの人が抱く疑問の一つは、「なぜ虐待している親は逮捕・起訴されないのか」だろう。

パネリストとして参加した横浜地方検察庁・総務部長の中村葉子氏は、「起訴の判断は、『いつどこで誰がどのようにして』を法廷で立証できることが前提。医師や児相が虐待と認識しても、証拠化されていないと起訴の要件を満たさない」と指摘した。

虐待の証拠が子供の供述だけというケースも多い。誘導的な聴取が行われたり、録音・録画もされていない場合、裁判での証拠にはならない。そうした状況で起訴し、虐待した親と裁判で争うことになった場合、子供は法廷で証言する必要がある。親側の弁護士からの厳しい尋問にも応じなければならず、子供にとって大変な苦痛だ。中には気絶・自殺してしまった子供もいたという。

司法面接で子供の供述を証拠に

5月に行われた「つなっぐ」主催の市民公開講座では、活発に意見が交わされた。

本誌の取材に、田上幸治・代表理事はこう語る。

「子供が虐待の被害を打ち明けても、聴き取りが重なれば心の傷は広がります。そのため外国では、『司法面接』という手法が取られています。多機関が協力し、子供が傷つかない技法で、最小限の聞き取りをすることで、裁判の証拠として使える情報を得ています」

児相や病院、警察、検察などが連携して、録音・録画しながら子供に聞き取りを行う「司法面接」を実施すれば、子供の供述が証拠化され、子供の負担や誘導的な聞き取りのリスクが軽減される。

「2015年、検察庁、警察庁、厚生労働省は、都道府県などに対し、『虐待された子供から事情を聴く際、児相と警察、検察が連携し、協同で面接するように』と通知を出しました。

そうした中、私たちは子供にとって優しい環境で話を聞き、診察や心のケアを一つの場所で行えるワンストップセンターを設立するため、『つなっぐ』を立ち上げました。

『つなっぐ』は、"つなぐ"と"タッグ"を合わせた造語です。一つの機関だけで、虐待問題を解決できる時代ではなくなっています。行政、医療、司法、教育、民間団体などが連携して、対応する必要があります」(田上氏)

「子供を守りたい」という情熱のある人が核となり、機関の垣根を超えた連携の輪が広がり始めている。こうした動きが日本中に広がれば、虐待死する子供は減っていくだろう。

【関連書籍】

『ザ・リバティ』2019年7月号

『ザ・リバティ』2019年7月号

幸福の科学出版

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