JAXAの森田教授(写真は2009年当時)。

実業家の堀江貴文さんが出資する宇宙ベンチャー「インターステラテクノロジズ(IST)」の小型ロケット・MOMO(モモ)3号機がこのほど、民間単独ロケットとしては国内で初めて宇宙空間に達した。

同社は、科学実験などの需要に応える観測機や、MOMOの技術をベースに格安の超小型衛星用のロケットを開発し、2023年の打ち上げを目指しているという。

新しい宇宙時代の幕開けを予感させる。

今回紹介するのは、2009年に、「空き地からロケットを打ち上げる」「ノートパソコンで打ち上げ」「一発点検で即発射」など、常識を覆すロケット打ち上げ技術の開発に挑んでいたJAXA教授のインタビューだ。

(※2009年5月号本誌記事を再掲。内容や肩書きなどは当時のもの)

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必要なのは「宇宙の大衆化」  技術転用で世界は発展する

インタビュー

宇宙航空研究開発機構(JAXA)

固体ロケット研究チームリーダー 森田泰弘教授

日本は世界最高性能の技術を磨いてきた

宇宙航空研究開発機構(JAXA)
固体ロケット研究チームリーダー

森田 泰弘

プロフィール

(もりた・やすひろ)1958年、東京都生まれ。工学博士。1987年、東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。カナダのブリティッシュ・コロンビア大学客員研究員や、宇宙科学研究所宇宙輸送工学研究系教授などを経て、現職。

2009年3月、若田光一さんが搭乗したスペースシャトルは、何度も打ち上げが延期されましたが、問題となった液体燃料は注入に1週間、その後の点検にも数日かかる。時間が経つとすべて入れ替えなければならず、とても手間がかかります。また、1秒間に乗用車20台分の膨大な燃料を消費するため、複雑なエンジンが必要です。

一方、固体燃料は消しゴムのような燃料を一度積み込んでしまえば、それでオシマイ。複雑な仕組みは要りません。日本は長らくこの固体燃料ロケットの研究を重ね、世界でも最高性能の技術を磨いてきました。ただ、性能を追求しすぎてコストが高くなり、メンテナンスなど地上での運用面が昔のままという弱点もあります。

そういう反省を生かして、現在、低コストで機動性の高い、新しい時代にふさわしいロケットの研究に取り組んでいます。

モバイル管制で打ち上げ LANケーブルで一発チェック

でも、固体か、液体かという小さな枠組みにはあまりとらわれてはいません。重要なのは、未来にとってより良いロケットとは何か、という観点です。

いま実際に研究しているのが、ノートパソコン一台が管制室となる「モバイル管制」です。NASAの映像や映画などで見たことがあると思いますが、現在の管制室は、50人とか100

人がズラッと並んで、大きなモニター画面や制御装置がいくつも備えられています。それを小脇に抱えられるノートパソコン一台でやってしまおうというものです。

他にも、車のエンジンをかけるときのように、キーを回せば瞬時にすべての機器類の状態を確認する自律点検システムを研究しています。

現在のロケットは、F1のレーシングカーみたいなもので、たくさんのメカニックが寄ってたかって組立て、点検し、仰々しく走っている状態。でも、新しい時代のロケットは一般の道路で走っている乗用車であるべきなんです。そのためには、打ち上げの仕組みそのものを変えなければいけません。でも実は、これらの研究はもう手の届くところまで近づいています。

極端に言うと、ロケットとノートパソコンをLANケーブルでつなげば、すべての機器の状態がパソコン画面に瞬時に映し出される、それぐらいのドラスティックな改革をしたいと考えています。

空き地からロケットを打ち上げる

今、ロケットやシャトルの打ち上げは、年に一度のお祭りといった感じで大々的にやっていますが、もっと宇宙への敷居を下げた方がいい。サイズが小さかったり、性能が落ちるものでも、どんどん数を打ち上げていくべきだと思います。これからは宇宙という分野も産業としてのすそ野を広げていくことが必要なのです。

飛行機だって昔は限られた人しか乗らなかったけど、今では当たり前のように人々の移動の足として使われています。ビジネスジェットや会社所有、個人所有まである。昔々は自転車だって高級品でした。

結局、すべての乗り物はパーソナル化していくということです。それはロケットも同じ。実際、私たちもその辺の空き地からロケットを打ち上げられるような研究にも着手しています。必要なのは、「宇宙の大衆化」です。

宇宙産業を育て、民間利用や市場を広げていき、いつでも誰でも簡単に宇宙にアクセスできる、そろそろそんな時代をつくらないといけません。いつからか、「宇宙は限られた人のものだ」という空気がつくられていますが、JAXAだって意識の転換を図らないと危ないですよ(笑)。

宇宙開発をオープンにしていけば、先ほどの自律点検のように、一般的に使われている技術を宇宙開発に応用したり、宇宙開発の成果の民間利用も広がっていくでしょう。

高齢者の方が町でコロコロひいて歩いている医療用の酸素ボンベは軽くて丈夫で安全ですが、あれはロケット開発から生まれたものです。他にも、圧力を分散させるでこぼこの形状の缶チューハイの缶(ダイヤカット缶)や、ハイテンションスティールという鉄のワイヤーは、1平方ミリ当たり200キロの引っ張る力に耐えられます。宇宙技術から生まれたものが、日常生活に役立っているのです。

30年後には毎週ロケットが打ち上げられている

これまでに、ロシアは何千機、アメリカは何百機というロケットを打ち上げてきました。一方、日本はロシアやアメリカの何十分の1程度しか打ち上げていません。でも、同じぐらいの90%を超える成功率を誇っている。日本のポテンシャル(潜在能力)は高いということを示しています。

ただ、日本の弱いところは、宇宙にどれだけの未来、可能性があるのか、ということに気づいていないところ。「国際宇宙ステーションに参加さえしていればいいんでしょ」という人もいますが、そういうわけではありません。

目の前に開けている広大なフロンティアは、決して地球と別の存在ではないんです。宇宙開発とは、新たな道を作るようなもので、それが道路なのか、ロケットなのか、という違いにすぎません。

日本の技術を持ってすれば、30年後ぐらいまでには、毎週毎週宇宙にロケットを飛ばすようなシステムを作り上げることはできるはずです。そうした未来を実現するためにも、今、積極的な宇宙開発が必要なのです。(談)

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