香港政府のトップである行政長官を務める梁振英氏が、来年3月の次期行政長官選挙に出馬しない意向を示した。10日付各紙が報じた。

2012年7月に行政長官に就任した梁氏は、親中派だった。それに対し、13年1月には行政長官辞任を求める13万人規模のデモや、14年9月からは雨傘革命運動が起きるなど、民主化を求める動きが強まっている。一方、梁氏は民主派の要求を拒む姿勢を見せるなど、極めて中国政府寄りの立場を取ってきた。

ここ数カ月を見ても、梁行政長官の下で、反中派への制裁が目につく。

10月に行われた立法会では、反中議員2人が退場させられる事件が起きた。退場させられたのは、「青年新政」の梁頌恒氏と游蕙禎氏。二人はその後、議員資格を剥奪された。

さらに、12月初めに各メディアが報じたところによると、香港政府は、「民主派議員4人が就任宣誓において宣誓文をゆっくり読んだり、別な文言を加えるなどした」として、同宣誓を無効とした上で、彼らの議員資格取消を要求した。

こうした状況もあってか、米中経済安全保障調査委員会(USCC)も、11月に公表した年次報告書で、中国の香港への干渉が憂慮すべき水準に高まっているとの見解を示している。

支持率から見る次の香港行政長官候補

こうした中での、「親中派の梁氏の行政長官への不出馬」は、一見いいニュースにも見えるが、果たしてそうなのだろうか。

まず気になるのが、次の行政長官には誰がなるのかという点だ。

単純に支持率に目を向ければ、民主派への風向きはさほど悪くない。香港紙・明報が行った、行政長官候補と目される、梁振英氏を含めた5人の人物の支持率調査は、それぞれ次のような結果となっている。

1位曽俊華財政官(59.9%)、2位曽鈺成前立法会議長(43.4%)、3位林鄭月娥政務官(41.9%)、4位葉劉淑儀立法会議員(25.0%)、5位梁振英行政長官(18.0%)。

1位の曽俊華氏は財政官という香港でナンバー3に当たる職についており、民主派の若者にも理解を示している。過去には、財政黒字を大きく伸ばした実績もあり、産業への投資や社会保障にもある程度の力を入れてきた。低所得者向け公共住宅の供給に意欲を示したり、生活保護の待遇改善などにも力を入れていた。

中国の裁量の下にある香港の選挙制度

しかし、香港の行政長官選挙は、中国共産党の意向がかなり反映される仕組みになっている。

まず、行政長官選挙に立候補するためには、各業界から集められた1200人の選挙委員会で8分の1の委員の推薦を得なければならない。その上で、候補者の中で過半数の票を得た者が当選となる。

その選挙委員会のメンバーの7~8割を親中派が占めている。彼らの選定も一般市民によって行われるわけではないため、中国当局寄りの人物が極めて当選しやすい仕組みなのだ。

中国の介入の下、再び親中派の人物が行政長官に就任した場合、中国政府からの圧力がさらに強まることが予想される。

次期行政長官選挙の行く末に注目しつつ、香港に真の意味での自由と繁栄の風を吹かせるべく、国際社会は協力して中国の変革を促していかなければならない。(祐)

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