元陸自化学学校副校長

濱田 昌彦

プロフィール

(はまだ・まさひこ)1956年、山口県生まれ。80年に陸上自衛隊に入隊し、化学科職種で約30年間活躍した。著書に『最大の脅威CBRNに備えよ!』(イカロス出版)。

北朝鮮が3週連続でミサイルを発射し、日本人の大多数が「ありえない」と思っていた日本へのミサイル攻撃が「もしかしてあるかもしれない」に変わりつつある昨今。

全国の書店でこのほど発売された本誌7月号の特集「北ミサイルから家族を守る」では、陸自化学学校の副校長を務め、地下鉄サリン事件や福島第一原発事故にも対処してきた元自衛隊幹部の濱田昌彦氏にインタビューしました。

紙幅の関係で紹介し切れなかったインタビューのロングバージョンを、2回に分けて掲載します。今回は、その後編です。

(前回: http://the-liberty.com/article.php?item_id=13095 )

◆                  ◆                  ◆

最も怖いのは空調設備から化学兵器を散布されること

――北朝鮮の工作員が日本でテロを起こす場合、どのような事態が想定されるでしょうか。

濱田昌彦氏(以下、濱): 最も怖いテロは、政府中枢のビルの空調設備に化学兵器を散布することです。対策としては、呼吸で体内に取り込むことや、肌からの吸収を防ぎ、いち早く除染することが大事です。

例えば、神経を麻痺させるソマンが使われた場合、被害者を救うには2分程度で対処しなければなりません。そこで主要国では、肌に塗って皮膚からの吸収を防ぐとともに、化学剤自体を中和することができるローションタイプの除染剤(RSDL)が普及しています。ですが日本では、薬事法の関係で輸入することが極めて困難な状況があります。

法律の問題で言えば、一部の自衛隊員は解毒のための自動注射器を持っています。しかし、自分には打てても、他の人に打つことはできないんです。理由は、当該の国内法が禁じる医療行為に当たるからです。たとえ、サリンで倒れている被害者であると分かっていてもダメなんです。

日本は、被害者を安全な場所に運んで治療するという体制をとっており、即応性に欠けるという問題があります。

――海外では緊急時にはそのような注射を打つことができるシステムになっているのですか。

濱: 基本的には、汚染地域で倒れている人たちを助けるための専門のチームがいます。汚染地域に入って医療行為をする部隊ですね。イギリスだとハート(HART、Hazardous Area Response Team)、アメリカだと各州のシビルサポートチームがその役割を担っています。

――核ミサイル攻撃を受けた際には、どのような問題が発生するでしょうか。

濱: 爆風や熱線から生き延びた人たちの救助ということで言うと、放射能汚染がある地域からの救助ということになります。

福島原発事故の際には、救助隊員の年間の被ばく量を100ミリシーベルトから250ミリシーベルトまで上げて対応しました。もちろん、安全な範囲です。

しかし、もし核ミサイルが落ちたとなったらもっと柔軟に対応しなければいけません。地下街に逃げ込んだ何万人という人を救助することになるかもしれない。でもそこはものすごい放射線強度です。規定通りであれば、誰も救いに行けません。

ですから、アメリカの国土安全保障省の一部である、連邦緊急事態管理庁のナショナル・プランニング・シナリオなどに書いてあるように、できるだけ救助者の被ばく線量を低く抑えるような処置をしつつも、通常時の法律は置いておいて、救助活動に当たらざるを得ない。柔軟に対応しなければ、人が救えないような状況はあり得ると思います。

――他に想定しておくべきことはありますか。

濱: 除染も考える必要があります。都市圏に核が落ちれば、放射能汚染の被災者が何万人も出ます。この除染を考えなければいけません。

国民保護法に規定されているので、サリンテロを想定した国民保護訓練は今まで何回もやっています。しかし、この訓練はどちらかと言えば「やっていることを示す」ためという要素が強いものです。何千人もの汚染者を想定したシナリオでは訓練が破綻してしまうので、対応可能な規模のシナリオでやっています。

知っていれば防げることはたくさんある

――このような緊急事態を想定して、普段から我々ができることは何でしょうか。

濱: 今、「オールハザード・レスポンス(あらゆる災害への対応)」ということが言われています。これは、洪水でもテロでも地震でも、基本的な対応とか、考慮事項とか、気をつけなければいけないことは大体一緒だという考えを基盤に置いています。

8割2割の法則で、8割は大体一緒なんです。ですから、水や食料などの備品は同じですし、懐中電灯やトイレなどもそうです。あるいは、すぐに事態を把握するためのツール、例えばラジオやスマホのアプリを探して使えるようにしておくなど、備えておけることはたくさんあります。

そうした共通の準備を押さえつつ、核爆発特有の気をつけるべきものの一つが、放射線です。放射線にはどのような性質があるとか、減衰期間はどれくらいかとか、ある程度の知識は持っておいたほうがいいと思います。

知っていれば防げることはたくさんあります。フォールアウト(落下物)のチリをとにかく払い落すだけでも全然違うとか。あとは、防塵マスクがあるだけでも内部被ばくの程度は全く違ってきます。

地震の後片付けでもマスクは役立つので、防塵マスクはオールハザード・レスポンスの備えでもあります。呼吸器の保護はとても大切です。こういうことを知っているだけでも、行動は変わってきますよね。

自衛隊の実力は結構すごい

――有事の際に、私たち一般市民ができることもたくさんあるのだと分かりました。日本は朝鮮半島有事とは無関係ではないと心得て、一つひとつ準備をしていきたいと思います。

濱: そうですね。日本が巻き込まれずに中立な立場をとるというのは無理です。米軍基地もありますしね。また、日本がどうするかにかかわらず、紛争が起これば朝鮮半島から難民がたくさん来るでしょう。いずれにせよ無関係ではいられません。

現在、日本の自衛隊がアメリカの空母と一緒に行動しています。基本的には、日本の役割はアメリカの艦隊を守るというものですが、自衛隊がもっと前面で活躍する形もありだと思っています。

というのも、自衛隊の実力は結構すごいと私は思っています。

知人に潜水艦の艦長だった人がいて、その人いわく、米軍の第七艦隊などと共同訓練をすると、日本の潜水艦は本当に見つけられないそうです。位置を知られずに潜んで、サッと動いてはアメリカの空母とかを次々と沈めていて。もちろん演習ですけどね。

最終的に、状況終了の時に、おもむろに空母艦隊の真ん中に、日本の潜水艦がスーッと上がってくるみたいなことがあるそうなんです(笑)。

それから、以前、私がオランダの防衛駐在官をやっていた時に、海上自衛隊の練習艦隊が2隻、「かしま」と「ゆうぎり」が来たことがあります。あの狭いオランダの北海運河の中を、スーッと航行するんですね。物珍しいから地元のヨットなどが寄ってくるんですが、全く動じず、アムステルダム駅の近くの岸壁に横付けして。出ていく時も運河の中をきれいにターンしていきました。

こうした技術は、帝国海軍時代からあるんでしょうね。制度が整えば、自衛隊はもっと活躍できるはずです。(了)

【関連サイト】

トランプは動く!アメリカvs.北朝鮮の戦争に備えよ

https://hr-party.jp/special/Northkorea/

【関連書籍】

****

『ザ・リバティ7月号』

amazonはこちら

『ザ・リバティ7月号』

幸福の科学出版はこちら

【関連記事】

2017年6月5日付本欄 もしアメリカが北朝鮮を攻撃したら日本は? 元自衛隊幹部が語る(前編)

http://the-liberty.com/article.php?item_id=13095

2017年4月30日付本欄 大川隆法総裁「トランプ氏は近く、大規模攻撃を行う」と予測 幸福実現党大会にて

http://the-liberty.com/article.php?item_id=12944