2010年11月号記事

3人のインタビューを通して、中国による「日本占領」が絵空事ではないことがよく分かった。

日本が何も手を打たなければ、2010年代後半から2030年にかけて現実化するという秒読み段階にある。

この流れを逆転させる“生き筋”はあるのか。


「米国の財政危機は今日にでも起こり得る」

伊藤貫氏が指摘した米国の財政危機がそう遠くない将来に起こるであろうことは、米政府部内でも常識となっているようだ。

「ギリシャなどのように国債に買い手がつかない財政危機に、米国も見舞われるかもしれない。それは、10年後に起きるというものではなく、すでに市場に悪影響が出ている。米国債の信用が失われ、金利が高騰する事態は、今日にでも起こり得る」

これは、米連邦準備理事会(FRB)のバーナンキ議長が今年2月、米議会下院で証言した内容だ。そのうえでバーナンキ議長は、そういう事態に陥ってもFRBはドル札を刷って国債を買い取らないとして、議会に対し、財政赤字を減らす努力を促した。

近づく「日米同盟が終わる日」

米国の財政赤字(2010会計年度)は、過去最高の1兆5560億ドル(約130兆円)となる見通し。

ホワイトハウス予算当局の予測では、米国の財政赤字は2014年にかけてゆるやかに減っていくが、その後2020年にかけて急増し、再び過去最高水準を突破すると見られている。

2011年会計年度でみると、国家予算の半分以上が、引退した人たちの年金と医療費に使われている。年金や医療保険など動かせない支出が6割を占め、残り約4割がある程度自由に動かせる支出だが、そのうちの6割が国防費だ。支出を切り詰めるとなれば、国防費をターゲットにせざるを得ない。

実際、オバマ政権は国防費の大幅削減に動き出している。

ゲーツ国防長官は8月、今後5年間かけて国防費の1割強にあたる1千億ドル(約8兆5千億円)をカットすることを打ち出した。

2020年にかけて財政赤字が急カーブで増えていき、バーナンキ議長が言うように「国債に買い手がつかない」事態が起これば、国防費1割強のカットどころか、半減も十分あり得る。

その場合、アジアの秩序を守ってきた在日米軍などが撤退していく選択が現実のものとならざるを得ない。それは、「日米同盟が終わる日」だ。

米軍が退けば中国軍がやって来る

戦後の中国の動きは、米軍が退いたら、その空白を中国が埋めるというのがお決まりのパターンだ。

平松茂雄氏が指摘するように、一つは、ニクソン米大統領が1972年、中国を電撃訪問して関係改善を図り、ベトナム戦争を終結させた後の中国の南シナ海進出だ。

73年のベトナム和平後、東南アジアでの米軍の影響力が格段に落ちたことに中国はすぐさま反応した。74年、南シナ海の西沙諸島に軍事侵攻して南ベトナム軍を排除し、占領したのだった。

もう一つは、冷戦後の92年にフィリピンで、米軍がスービック海軍基地とクラーク空軍基地を返還して撤退した際の動きだ。中国は同年に「領海法」を定めて、フィリピンが領有していた南シナ海の南沙諸島を「領土」であると一方的に宣言。95年に侵攻し、軍事施設を建設した。

米軍が退けば中国軍がやって来る。米軍の沖縄撤退が2020年にかけて予測されるのであれば、中国による「日本占領」も同じように予測できる。

「米軍は出て行ってください」の民主党政権

「日本再占領」のカウントダウンは、まだ日本の政界には十分届いていないようだ。

先の民主党代表選を見ても、敗れた小沢一郎同党元幹事長が主張していたのは、「在日米軍撤退論」。

再選された菅直人首相は、日米間ののどに刺さったトゲである米軍普天間基地移設問題の決着を11月末の沖縄知事選以降に先送りしている。

今回の内閣改造後の記者会見で、菅首相は最優先課題の一つに「地域主権改革」を挙げた。菅首相の地域主権の主張は、「自衛権も自治体や住民個人に属する」という“過激”な内容。菅首相がこのスタンスに立って判断するとなれば、「反基地」の県民世論が強い状況では、「普天間基地は要らない」ということになるだろう。

結局、民主党政権では、「米軍は出て行ってください」という路線が敷かれてしまっているのだ。

いずれは退いて行かざるを得ない米国。積極的に追い出したい日本。米軍撤退後の「空白」を虎視眈々とねらう中国。

中国による「占領」に向けての歯車が見事にかみ合ってしまっているのが現状だ。


日本の「生き筋」(1) 集団的自衛権を認め日米同盟を堅固に

「日本再占領」の流れをひっくり返すには、民主党政権の外交・安全保障政策の逆をやるしかない。

まずは、亀裂が入った日米同盟を修復し、日本とともに東アジアの秩序を守る体制がつくれるかどうかがカギとなる。

米国にとって日本が頼れる同盟国であるかどうかは、日本が米軍と一緒に「根比べ」できるかどうかで決まる。

台湾の地位をめぐって、日本は米国の空母などと一緒に中国軍と対峙する局面をいずれ迎える。その際にネックとなるのが集団的自衛権の問題だ。今は米軍が攻撃を受けても、日本の自衛隊は共同して反撃することはできない。

日本が集団的自衛権を認めることで、米国は心強いパートナーを得て、引き続きアジアに踏みとどまる足がかりとなる。

日本の「生き筋」(2) インド、ロシアと対中包囲網を

奥山真司氏は、「物欲」と名誉心が肥大化する中国をコントロールする方法として、「分断工作」を指摘していた。

反面からとらえれば、これは、日本と中国周辺の国で包囲網をつくることでもある。

伊藤氏は、「冷戦後は、19世紀までの勢力均衡(バランス・オブ・パワー)外交に戻りつつあり、米国、中国、日本、ヨーロッパ、ロシアの5つの国家群が合従連衡する時代に入った」と指摘する。

米中露という3つの大国に囲まれている日本の場合、軍事覇権を求める中国を脅威と見るならば、米露とは結びつきを強めるのが勢力均衡外交の原則だ。

極東・シベリアの資源や宇宙・軍事技術を手に入れたい日本と、この地域の資源開発やインフラ整備に日本マネーを呼び込みたいロシアは利害がぴったり一致する。

もう一国、日本と利害が合うのがインドで、互いが強国になってくれることを望んでいる関係にある。近く海上自衛隊とインド海軍の相互交流が始まり、軍事的な関係強化に発展しつつある。

中国に対するけん制と、中東から日本に至るシーレーン(海上交通路)の防衛を考えれば、両国が結びつきを強めることのメリットは極めて大きい。

日本の「生き筋」(3) 防衛技術の圧倒的優位を

奥山氏が指摘した日本の技術の圧倒的優位については、防衛分野にこそ当てはまる。

日本は独自にステルス戦闘機を開発しようとしているが、これを数機持つだけで、防衛力は飛躍的に高まる。

原子力潜水艦を保有し、日本が侵略を受けた際は北京などの重要施設に対して反撃できるようにすることも、大きな抑止力になるだろう。

こうした新たな装備を調達するのは、巨額の財政赤字の中では難しいが、防衛こそ最も重要な公共インフラと位置づけて「無利子防衛国債」を10兆円ぐらいは発行してもいいのではないか。

日本の「生き筋」(4) 国を守る気概を教える教育

日本が国を守る気概を持てるかどうかは、結局は教育の問題に行き着く。

今の日本の教育に欠けているのは、二宮尊徳に象徴されるような勤勉の精神、資本主義の精神を教えることだ。国を豊かにするために、企業を立ち上げ、数多くの雇用を生み出す企業家を「現代の英雄」として称える気風をつくり出す必要がある。

また、国を守るために戦った人たちも真の英雄として教えたい。日露戦争の東郷平八郎元帥や乃木希典大将らの事績を学ぶことで、国の独立・繁栄を守ることの意義が理解できる。


教育に宗教的な柱を

日本の教育が過去の歴史を罪悪視するようになったのは、政教分離を徹底した戦後の占領政策に始まる。大川隆法・幸福の科学グループ創始者兼総裁は近著『宗教立国の精神』でこう指摘している。

「要するに、『政治と教育から宗教を遠ざけさえすれば、この国を弱くすることができる』ということを占領軍は考えたのです。これは、逆に言うと、『政治と教育に、宗教が一本、精神的な柱を立てたら、この国は強くなる』ということです」

結局、日本が独立を守るためには教育再生が不可欠であり、それは教育に宗教的な柱を打ち立てることなしには成し得ない。

それによって初めて、日本は

中国の覇権主義に毅然として対峙し、米国とも渡り合えるようなリーダーを輩出し、「日本再占領」の悪夢のシナリオを書き換えることができる。