2025年7月号記事

Movie

編集部がオススメする「今こそ観たい」映像作品。

「ドクター・ストレンジ」

2017年公開

我よりも人、そして世界の輝きのために

【スタッフ】
監督・スコット・デリクソン
【キャスト】
出演:ベネディクト・カンバーバッチ、キウェテル・イジョフォー、レイチェル・マクアダムス、ベネディクト・ウォン、マッツ・ミケルセン、ティルダ・スウィントン ほか。

 

【レビュー】

天才的な技術を持つ神経外科医として君臨する男の名は、スティーブン・ストレンジ。同時に複数の博士号を取得するほどの高い知性と教養、容姿端麗でスタイリッシュなたたずまいを併せ持つ彼は"完璧"な存在だった。それゆえか、傲慢で自己中心的な性格を隠そうともしない。

だが、悲惨な交通事故で、"神の手"と呼ばれた両手の機能を失い、彼の輝かしいキャリアは突然終わりを告げた。完治に執着するあまり、高額な手術をくり返していたが、すべて失敗。医学に見放され、財産も底をつき、絶望の淵をさまよう。

その最中、不治の後遺症を克服した男から、ネパールのカトマンズにある「カマー・タージ」を目指せと言われる。だが、苦心の末にたどり着いたそこは、人智を超えた魔術の修行場だった。最後の望みを絶たれた悔しさで怒り狂う、頑迷な唯物論のストレンジ。しかし、指導者エンシェント・ワンが体験させたマルチバースの衝撃は、彼の傲慢さを粉微塵にし、熱心な修行者へと変えた。やがて、暗黒次元から迫る深刻な脅威を知った彼は、数千年来続く闇の勢力との戦いに否応なしに巻き込まれていくが……。

原作はスタン・リーとスティーヴ・ディッコ。現世の物理的脅威から守る「アベンジャーズ」に対して、異次元の霊的脅威から地球を護ってきた魔術師たちを描く、マーベル映画『アベンジャーズ』シリーズの14作目となる。無数のマルチバースに飛ばされたストレンジが、唯物思想を徹底的に粉砕されるシーンは意味深い。善意に満ちた宇宙や悪意と欲望の暗黒宇宙、思考が現実化していくイメージが強烈な印象を残す。また、カマー・タージのWi-Fiパスワードが「shamballa(シャンバラ)」だったという小ネタを始めとして、東洋神秘思想の影響がそこかしこに見られる。異次元からの力に新たな運命を見出しながら、"ドクター"だった自分をどう昇華させていくのか。続編も含めて、その努力と葛藤の姿も見どころになっている。

 

ザ・リバティWeb シネマレビュー

「ドクター・ストレンジ」

(星4.5。満点は5つ)