本年は、約70カ国前後で国政レベルの選挙が行われ、さらに欧州連合(EU)の選挙もあり、世界人口の半分以上が選挙に関わる「史上最大の選挙イヤー」「ザ・選挙イヤー」などと言われている(2023年11月13日付 Economist、12月28日付TIME誌他)。世界的に大きな政治的変化が起きることが予測されている。

現時点で注目を浴びている選挙の一つは、1月13日投開票の台湾総統選だ。アメリカにとっては、緊張が高まっている米中台関係の未来や、アジアの同盟国の安全保障などに関わるため、去年秋からシンクタンクなどでの議論が急増している。民進党(頼清徳氏)の優勢が見込まれているが、中国による台湾への圧力(軍事行動・経済)や、選挙への介入(親中派を増やすべく「アメリカは台湾を見捨てた」というプロパガンダを浸透させるなど)が懸念され、その影響が議論されている。

その他、アメリカで注目されている選挙としては、2月のインドネシア大統領選、3月のロシア大統領選(プーチン氏の再選は確実視)とウクライナ大統領選(予定通りの実施は厳しい見込み)、4月の韓国総選挙と、4~5月のインド総選挙(世界最大の民主主義国家のインドは、対中政策上、最重要国の一つ。モディ首相は3期目を目指している)、6月のメキシコ総選挙(アメリカと隣接し不法移民問題が深刻)と欧州議会選挙、2025年1月までのイギリス議会選挙などがある。

最大の話題はもちろん、11月5日のアメリカ大統領選挙(および連邦議会、多くの知事選や州議会などの地方選挙)である。なお、これらのリストには、日本の選挙は含まれていない(未定のため)。

"トランプの方針"が世界的トレンドに

昨年後半の選挙から、顕著な世界的トレンドとして頻繁に指摘されていることは、右派(ナショナリズム)の躍進である。昨年10月1日のスロバキア総選挙では、ウクライナ支援に反対する親ロ派の"ポピュリスト"政党が勝利し、ハンガリー右派政権のオルバーン・ヴィクトル首相から賛辞を贈られた。

11月19日のアルゼンチン大統領選では、「南米のトランプ」とも呼ばれる右派でリバタリアン(自由主義者)のハビエル・ミレイ氏が現職を破って勝利し、トランプ前大統領から電話で祝福された。ちなみに、上記のオルバーン氏は、「ハンガリーのトランプ」と呼ばれており、トランプ氏と親しいことでも有名で、国を超えたネットワークができつつある。

さらに、11月23日のオランダ総選挙では、難民・移民阻止・反ウクライナ支援・反EU・反気候変動国際合意を掲げる「極右ポピュリスト」「オランダのトランプ」とも呼ばれる右派のベテラン、ヘルト・ウィルダース氏が率いる自由党が、予想を覆して大勝利を収め、EUを超えて世界的な衝撃が走った。ウィルダース氏の長年の活動から、「トランプこそが、アメリカのウィルダースだ」という主張すらある。

これらの選挙結果は、深刻化する移民問題や、政府債務の膨張、インフレや増税等の経済問題に対する国民の声を反映していると言われ、世界的に「アメリカ・ファースト」の方針が広がりつつあることを示唆している。

もちろんアメリカでも、トランプ氏の支持率上昇が象徴するように、同様の傾向はますます強くなっている。政治家は、過去の延長線上で既存勢力の維持を図ることよりも、民主主義の原点に戻り、国民の声に素直に耳を傾ける必要があるのではないだろうか。

メディアや議会は米大統領選挙の話で持ち切り

アメリカでは、今年1月15日のアイオワ州の共和党党員集会を皮切りに、各州で大統領選における両党の指名候補者選びが始まる。そのため、昨年の秋頃からは、メディアも議会も連日、大統領選を中心に回っている感がある。

中心的な話題は、トランプ氏に関しては、圧倒的独走状態の党内支持率の高さと共和党への影響力、対バイデン氏でも優位となってきた支持率だ。その一方で、計90以上の罪状を問われている裁判の動向や、いくつかの州での出馬資格訴訟問題があるため、日々、多くの議論や分析が飛び交い、大統領選関連の報道の大半はトランプ氏の話題で占められている。トランプ氏以外の共和党候補者や、トランプ氏の副大統領候補の議論も多い。

トランプ氏が大統領として復活する現実味が増してきたため、保守もリベラルもその準備を始めている。保守系シンクタンクなどでは、政策や人材提案など、第2次トランプ政権への移行プログラムを開始。リベラルやアンチトランプの保守は、トランプ氏が「独裁者」になることを警告し、トランプ再選の阻止を試みようとしている。

一方のバイデン氏に関しては、戦後最低記録と言われる支持率の低さが最大の話題だ。その原因として、経済政策「バイデノミクス」への不支持を筆頭に、国境・不法移民問題への批判、外交問題として、2021年8月の悲惨なアフガニスタン撤退(この時から常に不支持率が支持率を上回っている)、米国民の税金を使った際限のないウクライナ支援、そして、ハマス・イスラエル戦争対応への保守・リベラル両方からの批判などがある。

政策面以外では、高齢への不安や、ファミリーの汚職疑惑などが大きい。バイデン氏の弾劾調査の決議も昨年12月13日に下院議会で可決され、共和党による汚職への調査の権限が高まったとされている。

バイデン氏への批判は、リベラル・民主党系のメディアや有力者から非常に多く、バイデン氏の「自主的な撤退」を促していると言われることが多い。その場合、民主党候補者は、カリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事などが有力視されている。

最近では、バイデン氏が比較される過去の大統領として、リンドン・ジョンソン大統領(「LBJ」とも言われる。1963年~69年在任)の名前が挙げられることが多い。ジョンソン氏は1963年にケネディ大統領の暗殺後に大統領に昇格し、「大きな政府」による社会福祉・人権擁護等を推進。ベトナム戦争への介入を拡大させて財政危機を招き、国民の支持を失い、自ら大統領選から撤退宣言をした。

アメリカの自由と民主主義はどうなる

一般的なアメリカ国民の視点から、バイデン政権の3年間を振り返ると、急速なインフレ、前例のない記録的不法移民と犯罪の急増、海外での戦争への支援負担の急増、そして、昨年10月7日のハマスによるイスラエル攻撃以降、「別次元レベル」に高まったテロの脅威(昨年12月5日、FBI〔連邦捜査局〕長官が議会で証言)が挙げられ、「トランプ大統領の時の方が、生活は良かった」という声が多く聞かれるようになった。

そのトレンドをキャッチしたトランプ陣営は昨年12月中旬から、「トランプと共に生活向上」("Better Off With Trump")というキャンペーンスローガンも加えた。

バイデン氏は、2020年の大統領選時と同様、トランプ氏を危険な独裁者・過激派とし、「民主主義への脅威」だと主張して、(大統領選で)自身を選ぶよう働きかけている。一方、トランプ氏は昨年12月初めから、講演などで、自分を陥れるために捏造されたロシア疑惑や2度の弾劾、自身や保守系への言論弾圧や監視、政敵を罪人にする司法制度の武器化などの例(自身への訴訟)を挙げて、「バイデン氏こそが『民主主義』の破壊者であり、民主党政権はアメリカの『民主主義』に全面戦争を仕掛けている」と主張して逆襲した。

ワシントン・ポストや民主党系ブログ、議会紙などは、このトランプ氏の主張を紹介して大きく取り上げ(12月2日付)、"民主主義の敵"論争が盛んになった。

バイデン政権は、「民主主義」を常に強調しているが、「民主主義を守るために、間違った言論や情報を、政府が監視して取り締まる」ことが必要だと主張し、情報機関やメディア、SNS、そして司法制度などを使って、政敵であるトランプ氏や保守系の言論の自由を制限することを正当化していることを、見逃してはならない。

最近は、トランプ氏への訴訟で、ジャック・スミス特別検察官(司法省)やニューヨーク州裁判所のアーサー・エンゴロン判事が、トランプ氏の言論の自由を制限する必要性を訴えた。トランプ弁護団は控訴しているものの、ニューヨークの裁判ではこのかん口令が適用され、トランプ氏は違反して昨年10月に2度、罰金の支払いを命じられた。「言論や情報の正邪を判断するのは、政府側の役目」としているようで、トランプ氏や保守系からは、「まるで共産主義」「独裁体制だ」などと非難されている。

一方のトランプ氏は、2016年に大統領に就任した直後から、講演会などで、「『自由』は政府から与えられたものでない。神から与えられたものだ」と繰り返し訴えてきた。「創造主」(The Creator)や「全能の神」(Almighty God)に言及し、人間は「神の子」(Child of God)だと主張して、コロナ禍でも、「教会やシナゴーグ、モスクなどの礼拝施設を開けるよう」命じた。最近では、「私は、民主主義を守る者だ」と強調している。

2024年は、自由と民主主義の関係、そして、それらの前提としての信仰論について、真剣な議論が必要となる年になるのではないだろうか。

(米ワシントン在住 N・S)

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