イスラエル・パレスチナ情勢が緊迫度を増す中、米バイデン大統領は、10月18日にイスラエルを訪問してネタニヤフ首相と会談し、「アメリカはイスラエルと共にある」と述べ、イスラエルとの連帯を示した。その翌日、ホワイトハウスから米国民向け緊急演説を行い、ロシアとハマスを同列の脅威として論じ、ウクライナとイスラエル支援を訴えた。

その直後に、バイデン氏は、ウクライナとイスラエルへの軍事支援と、米・メキシコ国境警備強化の資金などをセットにした1060億ドル(約15兆8000億円。内訳は、ウクライナ支援約9兆円、国境警備強化約2兆円、イスラエル支援約2兆円、人道支援約1兆3000億円などで、ウクライナ支援が大半を占める)の緊急予算を議会に求めた。

前下院議長の解任から約3週間の大混乱の末、10月25日に新たに就任したマイク・ジョンソン下院議長を中心とする下院共和党は、まず、ウクライナ支援を"削除"。イスラエルの軍事支援143億ドル(約2兆1500億円)については、内国歳入庁(IRS)の予算を削ってそれに充てる案を提案し、11月2日に下院議会で可決された。

IRSは日本の国税庁に相当する。バイデン氏は、IRSの予算を、2031会計年度までにかけて計800億ドル(11兆9000億円)増やし、同時に権限を強化して、富裕層の個人や企業からの徴税能力を高めることに力を入れており(2021年4月法案発表、22年8月可決)、本年3月には、追加で291億ドル(4兆3500億円)のIRS予算を議会に請求した。

下院で可決されたイスラエル支援の予算案は、民主党優勢の上院議会では通る見込みは少なく、仮に通ったとしても、バイデン氏は「拒否権を発動する」という考えを示している。さらに、ホワイトハウスは11月2日、「たとえIRS予算削除の部分を削除しても、バイデン大統領は拒否権を行使する」と発表し、今後も紛糾が予想される。

ただ、小さな政府主義者として、ウクライナ追加予算や、政府閉鎖を回避する「つなぎ予算案」にも反対票を投じてきたジョンソン氏は、非常に固い意志の下に動いているようだ。熱心な福音派で、トランプ支持者でもあるジョンソン氏は、イスラエルの全面支持は表明しているが、トランプ前大統領と同様、「海外での意味のない戦争」に反対する「非介入主義者」と言われ、党派を問わずウクライナ支援を強調するエスタブリッシュメント系の議員(介入主義者が多い)からは警戒もされている。