《ニュース》

バイデン政権下で不法移民の即事送還措置「タイトル42」(*)が失効し、記録的な移民の流入が危惧されると、共和・民主の両党から批判の声が相次いでいます。

そうした中、「バイデン政権下で、移民児童の人身売買や強制労働が増加している」という指摘が増えています。

(*)トランプ前政権時代に導入された、ビザのない越境者を即時送還できる措置。コロナの感染拡大防止を理由に、亡命申請の審査を経ず不法越境した者の即時送還が可能になった。今年5月11日に期限が切れ、失効した。

《詳細》

ジョー・バイデン大統領および民主党陣営は、メキシコ国境沿いの壁建設をはじめ、トランプ政権が掲げる移民対策強化を「人種差別的」だと批判してきました。

2020年の大統領選に際しても、バイデン氏は移民に"寛容な"姿勢を強調。21年1月の就任初日には、「国境の壁建設の停止」や「入国制限の即時撤廃」など移民対策を大きく転換する大統領令に署名し、「トランプ政権との違い」を国内外にPRしました。

しかしその結果、不法に国境を渡る人々が急増し、国境管理は「破綻状態」に。米国内の治安悪化に加え、越境を目指して溺死や転落死をする人々が多いことや、親を伴わず越境した子供たちが国境付近の施設に押し詰め状態で収容されていることなどを受け、人道的見地からも批判の声が高まりました。あまりの混沌状態に、22年6月には国境の壁の建設再開を許可するなど、結局はトランプ政権の政策を一部踏襲する結果にもなりました。

そうした中で大きな問題となっているのが、保護者を伴わない未成年者による不法入国の急増と、彼らを取り巻く「人身売買ネットワーク」です。

今年4月26日に米下院で開かれた公聴会「バイデン国境危機:保護者を伴わない外国人児童に対する搾取について」では、越境してきた未成年者の管理・保護を請け負う保健福祉省(HHS)に属する、タラ・リー・ロダス氏が内部告発者として証言を行いました。

バイデン政権下で保護者を伴わずに不法越境する未成年者が記録的に急増したことを受け、HHSは21年、彼らに対応するための「アルテミス作戦」を始動。その一環としてロダス氏は、子供たちを「スポンサー」のもとに送り届ける仕事を行っていたとのことです。

しかし、未成年者による不法越境の背後には巧妙な人身売買ネットワークが張り巡らされており、HHSの活動は結果として、スポンサーの顔をした犯罪者や人身売買業者、国際的犯罪組織と子供たちを引き合わせることになっていると、ロダス氏は指摘。子供たちは"密入国援助代"を返済するため、畜殺場や工場、レストランで強制労働に従事させられ、あるいは売春をさせられていると語りました。同氏によれば、8万5000人に上る移民児童が行方不明になっているといいます。

ロダス氏は、次のように政府の責任を追及しています。

「意図的か否かを問わず、アメリカ政府が、子供たちの命を利益に変えようと目論む悪人によって運営されている、数十億ドルにものぼる大規模な児童人身売買オペレーションの"仲介者"になり果てているとも言えます」

税関・国境取締局(CBP)の統計によると、保護者を伴わずに越境する未成年外国人の数は、20年度の3万3000人ほどから、21年度には14万6000人以上に増え、22年度は15万2000人以上にまで膨れ上がっているとのことです。

公聴会に先立つ4月18日には、ニューヨーク・タイムズ紙も1面でこの問題を掲載。バイデン政権下の過去2年間で、25万人以上の子供が一人で国境を渡っていると指摘した上で、強制労働に従事させられる未成年の不法移民が「爆発的に」増加する兆候を、バイデン政権が無視してきたこと、さらには関係者から度重なる訴えがあったにも関わらず、手を打たなかったことを指摘しました。

「移民に寛容な人道主義者」であるとPRしてきたバイデン政権が、実際には、子供たちを劣悪な環境に送り込んでいることが判明した形です。民主党に近いニューヨーク・タイムズ紙が報じ、公聴会でも証言がなされたことで、注目を集めています。

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