《本記事のポイント》

  • PAC3を激増させる台湾
  • 「F16」もアメリカから大量導入
  • 中台の空の軍事バランスはいかに!?

近年、中国軍の台湾侵攻に関する議論が盛んである。

1990年代半ばまで、台湾海峡両岸の軍事バランスでは、台湾側が優勢だった。ところが、2000年代に入ると、中国の経済発展により、軍事バランスが中国側に傾く。そして、近年では中国側が圧倒的な軍事的優位を確立している。そこで、台湾は「非対称戦略」である「ハリネズミ戦略」を採る。

台湾はイスラエルの防空システム、「アイアンドーム」構築を目指しているのではないだろうか。

PAC3を激増させる台湾

よく知られているように、イスラエルは、周りをアラブ諸国に囲まれ、一部の国々と一触即発状態にある。同国は、敵から飛来するミサイルを打ち落とす防空システムを持つ。それが「アイアンドーム」である。

イスラエルの防空システムは世界1の密集度を誇る。そして、台湾は防空システムでは、イスラエルに次ぎ、世界第2位の密集度だという。

現在、台湾は迎撃ミサイルシステムであるPAC3を72基設置している。他方、我が国のPAC3は48基である。単純に計算すると、台湾は日本の1.5倍のPAC3を備えていることになるだろう。

けれども、台湾は日本の国土面積の10分の1しかない。したがって、台湾のPAC3密集度は我が国の15倍となる。おそらく、PAC3はイスラエル(2.2万平方キロメートル。四国とほぼ同じ)や台湾(3.6万平方キロメートル。九州よりもやや小さい)のように比較的国土面積が小さい国には有効なのかもしれない。

2021年9月16日、台湾の行政院(内閣に相当)は最大2400億台湾ドル(日本円で約9500億円)のミサイル調達特別予算を組むための法案を閣議決定した。これは、2022年から27年までの対艦・対ミサイルの防衛予算となる。

中国は台湾に向けて福建省に短距離弾道弾「東風11 (DF11)」を少なくとも500基以上配備しているという(その他、準中距離弾道ミサイル「東風21 (DF21)」も台湾を射程に入れている)。そこで、台湾としては、国家の存亡をかけ、今後、さらにPAC3を200基配備予定である。

もちろん、PAC3がすべての敵ミサイルを撃ち落とせるわけではない。PAC3の命中率は、20%から90%まで、さまざまな数値が語られている。だが、軍事機密なので、どれが本当の数字であるかわからない。たぶん命中率は50~60%程度ではないか。ただ、PAC3が配備されているのといないのとでは、かなり安心感が違うだろう。

台湾軍が保有する空対空ミサイルおよび各種の短距離防空ミサイルを合計すると7700基を上回るという。現在、稼働中の地対空ミサイル基地も22か所存在する。今後、台湾は自国で量産中の台湾版サード(THAAD:終末高高度防衛ミサイル)「天弓3ミサイル」を運用する12の中隊編成を推進している。

「F16」もアメリカから大量導入

さて、トランプ前政権下、米国は台湾に改良型戦闘機「F16V」66機を売却した。この時、台湾は2020年以降の防衛予算として約1兆円を組んだ。今回は、また同額に近い大型予算を計上している。

11月18日、台湾・嘉義空港では約40機で構成される「F16V」戦闘機部隊の発足式が行われた。式典には、蔡英文総統が出席した。また、米在台協会(事実上、台湾における米国大使館)のサンドラ・オードカーク代表(前国務次官補)も招かれている。

実は、台湾はしたたかである。「F16V」製造に関して、一部出資している。ということは、米国が「F16V」を他のアジア諸国(例えば、韓国やインドネシア等)に売却すると台湾も利益を得る。また、近い将来、台湾がアジアの「F16V」メンテナンスセンターになるかもしれない。

中台の空の軍事バランスはいかに!?

ところで、中台戦争(=米中戦争)の勝敗は、どちらが台湾海峡の制空権(正確には「航空優勢」)を握るかが鍵となるだろう。

台湾は国内に軍民共用を含め12の空軍基地を持つ(島外には、東沙諸島のプラタス島に1つ空軍基地がある)。現在、台湾はF16約140機、F16V約40機、フランス製ミラージュ2000-5約60機、経国号が約130機、合計約370機を保有する(ちなみに、我が国の戦闘機はF-15J/DJが201機、F-4EJとF-4EJ改良型が5機、F-2A/Bが91機、F-35Aが21機、合計318機である。数的に台湾より劣る)。

一方、米国の報告書によると、中国は総計2500機以上の航空機と約2000の作戦機を有する。まず、最新鋭「第5世代戦闘機」を何機保有するかが重要だろう(現時点で中国の「第5世代戦闘機」の「J-20」は150機)。その他、戦闘機の稼働率の高低(日本は約90%の稼働率、中国は約60%の稼働率だと言われる)、パイロットの熟練度、哨戒機・給油機が存在する否かなども考慮に入れるべきかもしれない。

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アジア太平洋交流学会会長

澁谷 司

(しぶや・つかさ)1953年、東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学などで非常勤講師を歴任。2004年夏~05年夏にかけて台湾の明道管理学院(現・明道大学)で教鞭をとる。11年4月~14年3月まで拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。20年3月まで、拓殖大学海外事情研究所教授。著書に『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界)、『2017年から始まる! 「砂上の中華帝国」大崩壊』(電波社)など。

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