《本記事のポイント》

  • 10年以上に及ぶ不倫!?
  • 彭選手が中国ドラマに言及した真意とは?
  • 北京五輪への影響を恐れる中国共産党

中国テニス界女子ダブルスのエース、彭帥選手(35歳)がこのほど、SNS(微博)で張高麗前副首相(75歳)との"40歳差不倫"を告白した。中国当局は、すぐにその文章を削除した。そして、まもなく彭帥選手は行方不明になった。

10年以上に及ぶ不倫!?

彭選手は世界4大大会のウィンブルドン選手権女子ダブルス(2013年)と全仏オープン女子ダブルス(2014年)で優勝した。

一方、張氏は4直轄市の一つ、天津市トップ(在任期間は2007年3月―2012年11月)を務めた。中国共産党最高幹部、(今の第19期の直前)第18期政治局常務委員の1人でもあった。そして、国務院第一副首相(同期間は2013年3月―2018年3月)も務めている。

彭選手の告白文(事実関係は不明だが、ここでは彼女の主張が本当だと仮定する)によれば、10年以上前、天津で彭選手と張氏は初めて男女関係になったという。7年前、再び2人は一度だけ性的関係を持ったという。その後、張氏は北京へ副首相として赴任したので、関係はそれっきりになったようである。ところが、3年前、張氏は退職し、彭選手を天津へ招いて、再び関係を持ったらしい。

彭選手によれば、張氏からは一銭も受け取っていないという。また、張氏は彭選手に「(復讐されても)何も怖くない」と語ったようである。

彭選手が中国ドラマに言及した真意とは?

彭選手の文章中、興味深いのは、彼女が中国ドラマ『宮廷の諍い女』(邦題)に言及した点だろう。このドラマは、大清帝国の雍正帝時代、紫禁城の後宮(中国版大奥)に入る秀女(側室)たちを描いた大作である。

彭選手は張高麗夫人(康潔)を同ドラマに登場する無慈悲な皇后になぞらえた。主人公は皇帝の寵愛を受けた。そのため、皇后らから嫉妬され、冷酷な罠を仕掛けられた。しかし、それらを乗り越えて行くというストーリーとなっている。

彭選手の文章から推測すると、康潔氏は彼女に対し辛辣だったようである。そのため、彭選手は相当傷付いたのではないか。彼女は張夫妻からの仕打ちで、告白文を投稿したのかもしれない。

11月14日には女子テニス協会(WTA)のスティーブ・サイモン会長兼CEOが彭選手に深い懸念を示した。

それに対し、中国国営英語放送CGTNは、彭選手がサイモン会長とWTA幹部に送ったとするEメールをツイッターに投稿した。そこには、自身の告発は「真実ではなく」、「今は自宅で休んでいて、何も問題ない」と述べている。しかし、同18日、サイモン会長は「かえって彼女の安全と消息への懸念が高まった」とコメントした。そして、メールが彭選手のモノだとは信じられないと語っている。

他方、大坂なおみ選手やセリーナ・ウィリアムズ選手、それにジョコビッチ選手らも彭選手の件を憂慮している。ひょっとして、この事件が、来年2月の北京冬季五輪に影響を与えるかもしれない。選手の人権を守れない国での五輪には出場したくない、という人が現れてもおかしくないだろう。

中国版「#Me Too」運動か?

問題は彭選手と張氏が、利害で繋がった"芸能人と政治家"との関係ではなかったという点である。

例えば、有名女優の范冰冰(ファン・ビンビン)氏は王岐山国家副主席と特別な関係があったという。一部の芸能人は、有力政治家と深い関係を築き、それをテコにして、芸能界でのしあがろうとする。ところが、彭選手と張氏はそういう関係ではなかった。仮に、彭選手が全国人民代表大会代表とか、政治協商会議メンバーになるつもりだったら話は別だっただろう。張氏の力を借りれば可能だからである。だが、彭選手が政治家へ転身を図っていたとは考えづらい。

今度の騒動は、一部メディアが指摘するように、彭選手の張氏に対する「#MeToo運動」の一環と言えるのだろうか。

中国で「#MeToo運動」の先駆者は、ハンドル名「弦子(シエンズ)」で知られる中央電視台インターン周暁セン氏(しゅう・ぎょうせん、28歳)である。弦子は3年前、著名テレビ司会者(朱軍)を相手取り、セクハラ被害で提訴した。そして一躍、中国の「#MeToo運動」の中心的人物となった。けれども今年9月14日、北京市海淀区人民法院(裁判所)は証拠不十分で彼女の訴えを棄却した(ただ、弦子は上告する予定である)。

北京五輪への影響を恐れる中国共産党

ところで、11月20日、行方不明の彭選手に国際的注目が集まる中、『環球時報』編集長の胡錫進(こ・しゃくしん)氏は、彼女がコーチや友人らとレストランで食事をするシーンの動画を公開した。さらに翌21日、北京で行われたイベントに登場した彭選手の動画も公表された。

既述の如く、中国共産党としても、これ以上、彭選手の姿を公にしなければ、北京五輪に影響すると考えたのではないか。同日、国際オリンピック委員会(IOC)は、トーマス・バッハ会長が彭選手と30分間テレビ電話で連絡を取ったと発表した。

12月2日、IOCは、再び彭選手とテレビ電話で会話したと公表している。一方、その前日、WTAは、「中国は彭帥選手問題に信頼できる対処をしていない」として(香港を含む)中国で行われる女子テニス大会をすべて中止すると発表した。

ただし、バッハ会長は、彭選手から直接、肉声を聞いたわけではない。習近平政権が彭選手の肉親・兄弟等を"人質"にとって、彼女の発言を封じ込めた可能性を排除できないだろう。

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アジア太平洋交流学会会長

澁谷 司

(しぶや・つかさ)1953年、東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学などで非常勤講師を歴任。2004年夏~05年夏にかけて台湾の明道管理学院(現・明道大学)で教鞭をとる。11年4月~14年3月まで拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。20年3月まで、拓殖大学海外事情研究所教授。著書に『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界)、『2017年から始まる! 「砂上の中華帝国」大崩壊』(電波社)など。

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