コロナ禍で、厳しい経営環境に置かれている企業も多いはず。しかし、いつの時代にも、生き残る企業、成長する企業が存在する。

環境のせい、政府・自治体のせいにしたくなるところをグッとこらえ、石にかじりついてでも企業を存続させてかなければならない。そう考えている人に、トップ営業マンとして活躍した専門家の、効果的な組織営業の方法を贈る。

※2019年3月号「人が育つ現場の秘密 『勝ちグセ』営業組織のつくり方」のインタビュー記事の再掲。

 

【悩み】営業リーダーを務めていますが、本社から「売上を上げろ」と檄を飛ばされ、ついつい成果が出やすい大口の既存顧客のところにお願いに行ってしまいます。新規顧客を開拓しないと先細りになるのではと不安です。

 

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東京工業大学大学院 特任教授
レジェンダコーポレーション 取締役

北澤 孝太郎

(きたざわ・こうたろう)1962年京都市生まれ。神戸大学経営学部卒業後、リクルート入社。20年に渡り、常に営業の最前線で活躍。その後、日本テレコム(現ソフトバンク)などを経て現職。営業部長や役員、営業リーダー教育の第一人者である。自身のトップセールスや営業役員経験を活かした、優れた営業戦略・戦術を導く「北澤モデル」は多くの企業で活用されている。

営業という仕事は、売上などの成果だけで判断されがちです。しかし、営業プロセスといった「活動」面を見ないと、継続して成果を出すための手は打てません。

「活動」に焦点を当てて分析

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リクルートの営業部時代、既存スポンサーから大型受注を上げる営業マンより、新規スポンサーから小さな受注を上げてくる営業マンの評価が低すぎることに疑問を感じていました。

そこで営業の仕事を7つのプロセス(右図)に分け、何を行ったかだけを集計してもらうようにしました。営業活動を「見える化」したわけです。その結果、売上額は低くても新規顧客獲得に努力した営業マンの頑張りが誰の目にも分かり、フェアな評価ができるようになりました。

個々の営業マンの強みやつまずいているポイントも見えてくるため、営業リーダーが具体的な方法をアドバイスでき、営業マンを効果的に育てていけます。

アプローチ(訪問)数は少なくとも関係構築が丁寧で大型受注できる営業マンは、その強みを伸ばしつつ、「玉(訪問先)の補充」を一緒に行いました。また、関係構築に力を入れていても成果が出ない営業マンは「行きやすい顧客のところだけに雑談に行っているのではないか」と検証し、商談の進め方をアドバイスします。訪問件数も受注も多く、関係構築にも努力しているのに、アフターケアだけができていない営業マンについては、「営業マンに無理を強いるより組織でフォローする体制をつくろう」と考えました。

さらに、「今は成果が出ているが、訪問件数が少ないのでいずれスランプに陥る」「関係構築が深まっているのでもうすぐ成果が出てくる」など、成果の予測が立ちやすくなるため、組織として次の手を効果的に打てるのです。

こうしてみると、セールスの成功にはカンや偶然ではなく因果関係があることが分かります。つまり営業にも「科学的」なやり方があるのです。これは、私の研究テーマですが、正しい努力によって営業の成果が上げられることを伝えていきたいと考えています(*)。

(*)『優れた営業リーダーの教科書』(東洋経済新報社)p.66~参照

顧客との関係を深める視点

継続して成果を上げるには、顧客との関係を深めていくしかありません。それには、顧客の課題や困りごとを発見し、それを解決していく努力が大事です。これは、営業マン個人任せでは限界もあります。

私は企業の営業力は、「個別顧客対応力」「新規顧客開拓力」「顧客価値創造力」の合計に、「好印象頻度」を掛け合わせて決まると考えています。

営業力の公式

企業の営業力=(個別顧客対応力+新規顧客開拓力+顧客価値創造力)×好印象頻度

それぞれの力を磨きつつ、会社全体として好印象を積み重ねることが大切。営業部以外の社員が顧客と接した時に与える好印象、商品の使いやすさや良いイメージなど、すべてが営業力アップにつながる。

 

「新規顧客開拓力」は、文字通り新しい人間関係を築いていくことです。個人の努力としては、人脈に関する情報を集め、実際に会いに行く努力が必要です。さらに相手の困りごとに対して、まずはこちらが努力して相手に救いの手を差し伸べ、感動させるところまでいけば、相手は心を開きます。

一方、既存顧客に対しては「顧客を教育する」という視点が必要となります。顧客が取り組むべき課題を発見し、営業側から解決のための情報や知識をあらかじめ提供するということです。

縁がある顧客でも、しばらく何もしなければ、自社の商品に興味を示してくれなくなったり、競合他社に仕事をとられたりすることもあります。ですから、より顧客に近づき、顧客の課題を次から次へと見つけることで、関心を持ち続けてもらわなければなりません。

私はこれを「個別顧客対応力」と呼んでいます。

営業は創造性の高い仕事

そして「顧客価値創造力」とは、営業部がアンテナとなって市場のニーズを探り、営業・宣伝部、開発部、製造部などを巻き込んで、今までにない商品やサービスを世の中に生み出すことです。これは、新規顧客の獲得にも既存顧客の売上増にもつながります。

こうしてみると、営業とは、単なるセールス(売ること)ではなく、企業活動そのものであることが分かるはずです。

企業活動とは、「世の中に新たな価値を創り出し、それを提供することで見合った利益を得て、従業員を養い、世の中に継続して存在すること」です。ですから、全社を挙げて取り組むべきものです。

特に顧客との接点が多い営業部には、たくさんの情報が集まります。時には経営陣に掛け合って会社の仕組みを変えたり、新しい商品の提案をしたりして、新しい価値を創り出す使命があるのです。「私は営業部だから、他部署に口出しはできない」などと考える人が多ければ、会社は傾いていきます。

営業とは、知的で創造性の高い仕事なのです。

全体観の構築には理念が必要

全社員が「営業」に当事者意識を持つには、「私たちはどんな企業を目指すのか」ということを考え続けることが大切です。

維新後の日本は国家としても崇高な志を持ち、企業も顧客を喜ばせたいという商人精神を持っていました。不幸にも戦後の日本は、効率よく儲けることを目指した結果、分業が進み「自分の仕事だけやればいい」という空気が蔓延しています。

この哲学、理念不在の経営が、発展の限界になっているのではないでしょうか。「どんな企業になりたいか」「どんな仕事をしたいか」という「思い」こそ、会社をまとめ、強くするのです。(談)

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