菅新政権は、キャッシュレス決済を含むデジタル社会の推進を国策に掲げている。新型コロナウィルスの蔓延により、多くのマスコミは肯定的に報じている。
だが、キャッシュレス決済が本当に効率的であれば、民間レベルで勝手に普及が進むはずだが、なかなかそうはならなかった。政府が、消費増税の還元策などで多額の税金をかけてまで普及させたいのは、課税強化の手段に有効利用したいという「本音」があると考えざるを得ない。
世界で最もデジタル化が進むとされる中国は、14億人の人民を監視するツールとして、キャッシュレス決済を定着させた。日本政府が加速させるデジタル社会のあり方を考えるべく、中国通のジャーナリストへのインタビューを紹介する。
※2019年12月号本誌記事を再掲。内容や肩書きなどは当時のもの。
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日本も"幸福な監視国家"に?
ジャーナリスト
高口 康太
プロフィール
(たかぐち・こうた) 1976年、千葉県生まれ。ジャーナリスト。千葉大学人文社会科学研究科博士課程単位取得退学。ニュースサイト「KINBRICKS NOW」を運営。近著に『中国S級B級論』。
中国のキャッシュレスの普及率は、地域や世代によって大きな隔たりがあります。都市部の若者は、ほぼ100%がキャッシュレスですが、地方は現金決済が中心です。私の中国の友人も、年配の方は現金決済が多いですね。
中国の生活は、キャッシュレスなどのテクノロジーによって、どんどん便利になっています。これは同時に、政府の監視につながるものですが、99%の中国人はそのことを意識していません。
デジタル化が進めば、個人情報はどんどん流出しますが、政府に逆らわないほとんどの人は、特に困りません。
中国がディストピア(ユートピアの正反対の社会)に近づいているとしても、多くの中国人にとっては『一九八四年』(ジョージ・オーウェル著)のような抑圧された世界ではなく、『すばらしい新世界』(オルダス・ハクスリー著)のような利便性が高い世界だと思います。
どちらもディストピア小説ですが、『一九八四年』では、政府の監視に脅える人々を描いています。一方の『すばらしい新世界』では、人々は監視されていますが、その社会を幸福に感じるように遺伝子的に設計され、そうした教育も受けているので、みんな"幸せ"に生きています。その観点から見ると、中国は『すばらしい新世界』のような"幸福な監視国家"に近いでしょう。
中国政府からすると、14億人を統治するのは大変なので、デジタルデータを駆使した監視システムで、人々にルールを守らせ、当局が望むように生きるよう誘導したいのです。
例えば一部の地方都市では、「道徳的信用スコア」を試験運用しています。これはキャッシュレスの情報に加えて、いい行動や悪い行動を記録し、人間の"信用"を点数化するものです。
私が取材した山東省の町では、「団地に住む身寄りのない老人を見舞うと、スコアを3点プラス」という項目がありました。でも、見舞った回数をデータ化するのは難しいので、この試みは失敗に終わると思います。
監視社会は世界の趨勢
私がお伝えしたいのは、「中国は監視国家という恐ろしい国だ。日本とは違う」といった単純な話ではないということです。
デジタル社会とは、「データベースに個人情報などが蓄積される」ということです。大量のデータがあれば、あれこれ使いたくなるのは"人の性"。デジタル化が進むと、必然的に監視国家に近づいてしまいます。
この流れは世界的な趨勢であり、その社会を完全に拒否することはできません。データを活用することによって、我々の生活や経済をよくできる面もあるからです。豊かになることを放棄して、デジタル技術を活用せずに生きることはできないでしょう。
監視社会化が進むという前提で、「日本の監視体制をどうコントロールするか」「許容できる監視レベルとはどんなものか」「その中で守るべきものは何か」ということを考える必要があります。
きちんと考えて答えを出す
私が危惧しているのは、日本では「プライバシーが大事だ」「データ流出が怖い」などの意見が出る一方で、"思想的な芯"はあまりなく、何かのきっかけで世論が一つの価値観に染まることです。例えば、あおり運転が社会問題になれば、監視カメラが増えてもいいという見方が広がり、プライバシーは無視されがちになります。
日本国民は「中国は独裁国家だから」といって全否定するのではなく、「ここを取り入れた方がいい」「ここは反面教師にした方がいい」と考えて、参考にすべきだと思います。その上で政府は、「こういう問題や課題があるが、こうしていく」と国民に伝える必要があります。少なくとも国家の大方針については、個人が自由に意見を言える環境づくりが大事でしょう。(談)
【関連書籍】
『人の温もりの経済学』
幸福の科学出版 大川隆法著
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2020年9月7日付本欄 「テクノロジー崇拝」が人間性を滅ぼす コロナ禍でのデジタル化を考える