記者の質問に答える、民主化デモ「雨傘運動」のリーダー、黄之鋒(ジョシュア・ウォン)さん。画像はYu Chun Christopher Wong / Shutterstock.comより。

《本記事のポイント》

  • 中国の全人代が、香港の「国家安全法」を採択
  • 香港の金融ハブは一国二制度があることが前提だが、それが崩壊する恐れ
  • アメリカが本気で対中制裁すれば、香港ドルは一瞬で紙くずになる!?

中国の全国人民代表大会(全人代)が28日、香港の「国家安全法」を採択した。同法により、香港の「一国二制度」が崩壊し、国際金融市場という地位がなくなる可能性が浮上している。

国家安全法の問題は、中国共産党の治安当局が香港に新たな拠点をつくり、国家分裂や政権転覆、テロ活動、外部勢力の内政干渉などを取り締まり、その名目を悪用することで、民主化運動を実質的に鎮圧できることだ。

香港の大規模デモの発端となった「逃亡犯条例」改正案をめぐっては、人民解放軍が香港に水面下で介入し、民主活動家の運動を弾圧してきた。国家安全法により、それが公然とできるようになる。香港の梁振英(りょう・しんえい)前行政長官は、毎年6月4日に行われる天安門事件の追悼集会が違法になると示唆している。

これに対しポンペオ米国務長官は、「理性ある者であれば、香港が高度な自治を維持しているとは誰も主張できないだろう」と述べ、香港に対する関税の優遇措置などを撤廃すると警告。イギリスやオーストラリア、カナダも、中国の動きを批判する公式声明を出した。

香港市場は一国二制度があることが前提

香港の特徴は何と言っても、「金融ハブ」であることだ。

例えば、アメリカは一国二制度があることを前提に、香港への関税やビザ(査証)発給などを優遇し、中国本土とは異なる対応をとってきた。その結果、米投資銀行などを中心に1300社以上が進出している。

中国企業も、海外からの投資が集まる香港を通じて、多額の資金を調達してきた。香港市場は1997年以来、上海市場を上回る3350億ドル(約36兆円)の株式を発行しているほか、世界で取引される人民元の3割が香港を介している。いわば香港が、中国と世界の資本市場をつなげる役割を担っているのだ。

しかし繰り返すが、香港市場は、一国二制度があるからこそ機能してきた。その前提が崩れるのであれば、話は違う。アメリカが、制裁の発動をちらつかせるのは当然だろう。

香港ドルは、一瞬で紙くずになる!?

アメリカが持つ強力な制裁カードの一つは、昨年成立した「香港人権・民主主義法」にある規定だ。同法により、アメリカ政府が香港の高度な自治が崩れたと判断した場合、「香港ドルと米ドルの交換を禁じる」ことができる。

この制裁のインパクトは極めて大きい。香港には、日本銀行に当たる中央銀行がなく、香港ドルを発行しているのは民間銀行の3行だ。民間銀行は、多額の米ドルを保有しているという信用に基づき、香港ドルを発行。そのため、その交換ができなくなると、香港ドルは一瞬で紙くずになる恐れがある。

もちろん、交換を停止すれば、米中が戦争に発展する可能性があるものの、香港経済のアキレス腱を握っているのは、アメリカだと言える。

「中国が一国二制度を守らないのであれば、その代償を払うべき」との立場を明確にするアメリカ政府。「大変高い関心を持って注視している」(菅義偉官房長官)と発した日本政府との意識の差は歴然と言うほかない。

香港には、多くの邦人が住んでおり、相当数の日系企業が進出している。日本政府は、自由や民主、信仰といった普遍的価値観に加え、自国民の利益を守るためにも、相応の行動をとるべきだ。

(山本慧)

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