自民党の若手議員らが30日に記者会見を開き、消費税の減税を求める緊急声明を発表した。

「景気の致命的な下降を食い止めるには、消費税の減税が欠かせない」とし、消費税5%への引き下げか、消費税をゼロにすることを求めている。4月に全国民に10万円ずつ現金を支給すること、休業などで中小企業などが損失を出した粗利益の補償も要望している。

コロナ問題の対策にとどまらず、政府による税金の使い道、経済成長の起こし方にも再考が必要だろう。幸福実現党は2009年に立党して以来、消費税を上げることに反対してきたが、これは日本を高度経済成長軌道に再び乗せるという趣旨のものだった。

今回紹介するのは、レーガン政権で経済ブレーンを務め、トランプ政権の大型減税法案の立案者の一人でもあるエコノミストである、スティーブ・ムーア氏のインタビュー。日米の経済のあるべき姿について聞いた。

※2018年5月号本誌記事を再掲。内容や肩書きなどは当時のもの。

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財政再建には、減税による経済成長しかない

トランプ大統領の経済政策アドバイザー

スティーブ・ムーア

プロフィール

Steve(Stephen) Moore 1960年生まれ。イリノイ大学を卒業後、ジョージ・メイソン大学で修士号を取得。レーガン政権の経済政策立案者の一人。ヘリテージ財団の名誉フェロー。大統領選挙中に、トランプ氏の経済政策のシニア・アドバイザーを務めた。2017年12月に成立した大型減税法案の立案者の一人。共著に『増税が国を滅ぼす』(日経BP社)、『Return to Prosperity』、『トランポノミクス』(幸福の科学出版)。

『トランポノミクス』

『トランポノミクス』

スティーブン・ムーア、アーサー・B・ラッファー 共著
藤井幹久 訳

幸福の科学出版

消費増税はすべきではない

――日本は来年秋に消費税の増税を予定しています。

ム: 増税ほど無責任な選択はないと思います。過去の消費増税も間違いでした。今の日本に必要なのは経済成長です。 経済成長するためには、生産コストにかかる費用を下げることです。そうすれば、諸外国に対して競争優位に立てます。ですから消費増税は間違いです。

さらに、アメリカで大型の減税法が成立した結果、日本は世界で最も法人税率の高い国の一つになってしまいました。このままでは企業の海外流出と雇用の減少が続くでしょう。 日本が競争力を維持するためには、法人税や所得税を下げるのが妥当だと思います。

賃上げは生産性の向上と連動

――安倍政権は、企業に「社員の賃金を上げたら、法人税を下げてあげます」と提案しています。

ム: 企業は政府とそうした約束をすることはできません。 賃金の上昇は、生産性と直接結びついているからです。 従業員が生産的であれば、給与が高くなります。日本が豊かな国になったのは、従業員の教育や技術のレベルが高かったため、よいモノやサービスが提供でき、生産的になったからです。

税率を下げると、多くの事業で投資が行われます。従業員の一時間当たりの生産性が向上し始め、企業は従業員に多くの給与を支払えるようになります。アメリカでは、最低賃金を2ドル上げる企業も出てきていますが、政府が企業に「もっと支払え」と要求したからではありません。企業に命令を出す必要はなく、減税すると自然にそうなるのです。

財政赤字脱却のカギとは?

――巨額の政府債務をかかえているため、日本政府は減税を渋っています。

ム: 日本は長らく巨額の政府債務に悩まされてきました。 それは税金が低いからではなく、経済成長がないからです。財政を均衡させる最良の方法は、経済成長しかありません。「一に成長、二に成長、三に成長」です。

トランプ氏は、雇用を増やして仕事をしてもらうことで、福祉を受ける国民ではなく、税金を払う国民を増やそうとしています。多くの人が働けるようになるほど、政府の歳入が増えます。

ラッファーカーブ(*)にある通り、税率を高くすると、歳入が減ってしまいます。減税をすれば、短期的に財政赤字は増えるかもしれませんが、中長期的には、経済成長によって財政赤字の問題は解消していきます。

(*)高すぎる税率は税収を減らし、税率が低くなれば成長率は上がり、税収が増えることを示した。この理論は「ラッファーカーブ」と名付けられ、1980年代の世界的な減税の流れをつくった。

年金改革のあるべき姿

――アメリカでは社会保障に関する政府支出が予算全体の3分の2を占めています。

ム: 日本と同じでアメリカも高齢化の問題を抱えています。平均余命も伸び、昔より健康に退職後の人生を過ごす人たちが増えています。

1946年から64年までに生まれた、私のようなベビーブーマー世代が退職していくと、65歳以上の高齢者は2030年までに7100万人になると言われています。この人たちが退職後25年から30年も、政府の給付金に頼ることは後世にツケを遺すことになると思います。ですから、 どこかの時点で、退職する年齢を上げなければないけません。 これは、多くの人の賛同を得られる方法だと考えますし、日本もそうすることが賢い選択ではないでしょうか。

もっとも私は、 政府が老後の年金を提供するシステムよりは、個人が自分の年金を積み立てるシステムのほうがよいと考えています。 そうすれば国民は自分がもらえる年金の額を知ることができます。

議会はこの方法に抵抗しています。しかし従業員にとって自分で積み立てをする方が、退職時の所得額が今よりも大きくなるので良いのです。

――累進課税の問題点について教えてください。

ム: 「高い税金を課せば、もっと税収が増える」という間違った"信仰"を持っている経済学者が多くいます。しかし、現実は逆です。累進課税は、経済を傷つけ、経済成長を減速させます。なぜなら、起業家や成功している人たちを罰することになるからです。

経営者は悪党ではなく、ヒーローです。 私の父は、週に70時間も働いて多くの従業員を雇えるような会社を一代で育てました。そんな人を悪党呼ばわりしたらアメリカは衰退してしまいます。リベラルの人たちはこの点が理解できていないのです。

ですから、アメリカにとっても、日本にとっても 理想的な税金のシステムは、すべての人に一律に課税をする「フラット・タックス」です。

一定以下の所得の層には控除を認め、すべての人が例えば20%のフラット・タックスを支払うなら、複雑な税金のシステムが簡素化され、納税の手続きが楽になります。

減税法案の成立でアメリカでは、税のシステムがもう一段、フラット化しました。フラット・タックスが実現したら、私は、安心してリタイアできます(笑)。

――サッチャー元英首相やトランプ大統領は、自己責任や自助努力を大切にするメソジストの信仰をお持ちです。個人の自由を実現する上で、信仰は重要な要素だとお考えですか。

ム: 私は個々人が自己責任を持ってもらうために信仰が大切だと思います。 自己責任のない個人の自由では、絶対にうまくいきません。

政治の世界では、ジェンダーや民族や性的志向など、抑圧されたグループがそれぞれに社会問題を解決しようとする「アイデンティティ政治」という考えが主流となっていますが、これは個々人の判断を放棄させるため、自己責任の考え方と正反対のものです。自己責任の原則によって、人は、自分や家族のために頑張ろうというやる気が生まれてくるのです。

【関連書籍】

『トランポノミクス』

『トランポノミクス』

スティーブン・ムーア、アーサー・B・ラッファー 共著
藤井幹久 訳 幸福の科学出版

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