《本記事のポイント》

  • 参議院が重い障害のある議員の介助費を負担する方針
  • 「出勤できずにあきらめた」障害者の声
  • 障害者雇用の制度も、「個人事業主は使えない」

参議院がこのほど、重い障害のあるれいわ新選組の舩後靖彦議員と木村英子議員の介助費を負担する方針を決めた。障害者就労のあり方を問う問題として、議論を呼んでいる。

当選後の8月5日、木村氏はこの制度の早急な見直しを求める質問趣意書を参院に提出し、「参院から介護費が出されると、私は特別扱いになる」としていた。現在、国の重度障害者の介助費用が、生活の際のみ適用となる。経済活動を行う場合は適用外になるため、両議院はそれが就労にも適用できるよう制度変更を求めていた。

「出勤できずにあきらめた」障害者の声

重度障害者が国会議員として仕事をする際の介助費用に関しては、当初「国会議員としての給料が支払われているので本人が払うべき」「国会議員だけ特別扱いするのか」などの意見が飛び交った。

しかし、今回の対応が「重度障害者が仕事をする」ということのハードルを上げてしまった面があるとの声もある。

脳性まひを持ち、自身も障害者雇用を進めるため事業を展開している大阪府在住の山中康弘氏は、今回の参院からの介護費拠出について「『雇用主側が、介護負担を行う』という前例を作ったことになる」と指摘。「企業が障害者雇用にますます消極的になってしまう懸念がある」としている。

山中氏は、重度訪問介護サービスの場合、月に100万円以上の介護費用になることを踏まえると、現行制度で「国や大企業のように、お金を持っている企業しか障害者を雇用することができない」とした。

実際に、障害者を雇用しようとした企業でも、「通勤時の介助が受けられなかったため、出勤できずにあきらめた」「社宅では障害者が介護を受けられない」などの例があるという。

障害者雇用が推進される中、「本当は働きたいし、働ける可能性のある障害者はいる」ことが伺える。

障害者雇用の制度も「個人事業主は使えない」

近年では、障害者雇用を推進するために特例子会社を作る例もあるが、一般企業での障害者の就労のハードルは高い。しかし、福祉施設で働いても賃金水準はきわめて低く、月1万円程度であることも少なくない。そうした中で、山中氏は個人事業主として起業する道を選んだ。

山中氏は本紙取材に「厚生労働省の内部構造にも問題がある」と答えた。

「雇用保険で障害者を雇用した企業には助成金が支給されます。これは職業安定局の管轄ですが、個人事業主は対象外です。また、重度訪問介護制度は、厚労省の社会・援護局の管轄になりますが、結局、個人事業主はどちらの制度も使えません」

つまり、雇用と介護は管轄が異なり、制度として別々に走っている。「働きながら介護を受ける」ということが想定されていないということだ。

「タブー」が破られた

山中氏は、「障害者の国会議員が誕生したことによって、今まで避けて通ってきた問題、たとえば、月額の100万円以上の介護費が、高いか安いか、という議論が堂々とできるようになった点はよかった」とし、今後は両議員の考え方や提出する法案に注目したいとする。

重度障害者の通勤・就労時の介護費用をどこまで国が拠出するかについては更なる議論が必要だ。ただ、「働くことが想定されていない」という制度には修正が必要だろう。

障害者が「働く喜び」を多くの人が実感できる国づくりを目指したい。

(河本晴恵)

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