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《本記事のポイント》

  • 「反送中」運動と「雨傘革命」との相違
  • 「親中派」「本土出身者」もデモに参加
  • 中国共産党はデモ隊の強制排除を試みるも、八方塞がり

香港では「逃亡犯条例」改正反対運動(以下、「反送中」運動)が盛り上がっている。

香港の林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官は、「逃亡犯条例」改正案は「死んだ」と発言した。だが、それは法案の「撤回」を意味しない。そのため、今なお「反送中」運動は継続されている。

林鄭長官は、同運動をうまく収束させられないので、北京政府に辞意を表明した。しかし習近平政権は、その申し出を何度も拒否したと伝えられている。北京政府が承認しない限り、長官は辞任すらできない。

「反送中」運動と「雨傘革命」との相違

さて、今回の「反送中」運動と、2014年9月に起きた「雨傘革命」との間には、いくつかの相違点が見られる。

第1に、両者は運動の攻撃対象が違う。

「雨傘革命」は、中国共産党を攻撃対象とした。

中国の全国人民代表常務委員会は2014年8月末、香港行政長官選挙のルールを突然変更。行政長官の候補者になるには、推薦委員会による過半数の支持が必要というルールに変えた。

「雨傘革命」が終結した後、香港の立法会(議会)で多数を占める「建制派」(親中派)は、そうした趣旨に基づく選挙制度に変えようとした。だが法案を通過させるには、立法会の3分の2以上の賛成が要る。結局、「民主派」が3分の1以上を占めていたため、法案は通過できなかった。

一方の「反送中」運動は、香港政府を攻撃対象とする。

香港政府が「逃亡犯条例」を改正しようとしたことに対し、香港市民は立ち上がったのだ。

「親中派」「本土出身者」もデモに参加

第2に、両者は運動の主体が一部異なる。

今度の「反送中」運動には、「親中派」のビジネスマンも参加している。

もし立法会で改正案が通過すれば、香港で経済犯罪を行ったビジネスマンは、中国本土で裁かれる可能性がある。外国人も含め、香港でビジネスを行うすべての者が対象になりかねない。

さすがに大企業の役員などは、中国共産党の目もあり、「反送中」デモに参加できないだろう。しかし彼らは、従業員に対してデモに参加するよう勧めているという。

他方、「中国本土出身者」もデモに参加している。中国大陸に住んでいたが、香港へ移住した人々である。香港で生まれ育った人は、本土出身者が参加するのを必ずしも歓迎していないようだが、本土出身者も香港人同様の危機感を持っているのは確かだ。

以上のように、ビジネスマンや本土出身者もデモに参加しているため、「雨傘革命」と比べて、デモの規模が格段に大きくなった。

第3に、両者は運動方法が違う。

「雨傘革命」のデモ隊は「陣地戦」を行った。香港の中心街である中環(セントラル)地域を中心に幹線道路を陣取り、テントを張るなどして抵抗を試みた。

ところが、それが香港の経済活動に大きな支障をきたした。そのため「雨傘革命」は、多くの香港人から支持を失い、失敗の大きな原因となった。

その反省から、「反送中」運動では、デモ隊は陣地戦をやめ、「ゲリラ戦」を展開している。この戦法はかなり有効で、香港政府を悩ませている。

弾圧強める共産党側!?

一方、共産党側も締めつけを強めている。

22回目の「香港返還記念日」を迎えた7月11日の夜、過激なデモ隊が立法会へ突入し、施設の一部を破壊した。まもなく、彼らは香港警察によって強制排除された。この破壊活動は、一部の香港人からひんしゅくを買った。

デモ隊には「親中派」が紛れ、意図的にデモ隊を扇動した可能性もある。香港に駐屯する約6000人の人民解放軍が、「反送中」運動を弾圧する絶好の口実をつくろうとしたのかもしれない。

一方で、香港の「反送中」運動が収束しない限り、習近平氏の面子は立たず、中国の国内政治にも大きな影響を与える。そのため習政権は、「第2次天安門事件」を起こす公算が小さくないのではないか。

だが、「第2次天安門事件」が起きたら、中国は再び世界から経済制裁を受けるだろう。周知のごとく、「米中貿易戦争」の解決はほど遠く、中国の景気は悪化の一途をたどっている。共産党にとっては、八方塞がりだ。

拓殖大学海外事情研究所

澁谷 司

(しぶや・つかさ)1953年、東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学などで非常勤講師を歴任。2004年夏~2005年夏にかけて台湾の明道管理学院(現、明道大学)で教鞭をとる。2011年4月~2014年3月まで拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。現在、拓殖大学海外事情研究所教授。著書に『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界新書)、『2017年から始まる! 「砂上の中華帝国」大崩壊』(電波社)など。

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