2019年1月にモスクワで行われた日露首脳会談。写真:代表撮影/AP/アフロ。

2019年7月号記事

ニュースのミカタ 特別編

インタビュー

アメリカは、中国よりロシアを選ぶ

失速する日露平和条約の締結交渉。6月下旬に大阪で行われるG20に合わせて開催される首脳会談で打開策は見つかるのか。ロシア問題に詳しい専門家に話を聞いた。

(聞き手 長華子)

政治学者

上野 俊彦

プロフィール

(うえの・としひこ) 1953年、東京都生まれ。83年に慶應義塾大学大学院法学研究科政治学専攻博士課程修了。防衛庁防衛研究所教官、日本国際問題研究所ロシア研究センター主任研究員、上智大学外国語学部教授。2019年に退官。共著に『ロシア近代化の政治経済学』(文理閣)など多数。

──日露平和条約の交渉が失速しています。

上野氏(以下、上): 原因はいくつかあります。まずアメリカの国務省・国防総省からの懸念です。アメリカは「日露平和条約など締結できないだろう」とタカをくくっていました。しかし、安倍首相は昨年11月、「日ソ共同宣言」に基づいて交渉を進めると決断。二島返還に舵を切ったことで条約締結の可能性が高まりました。そこで、 クリミア併合をきっかけとした対露経済制裁が続く中、「条約の締結はいかがなものか」とけん制し始めたのです。

また ロシア側には、「北方領土に軍事基地が造られるのではないか」という懸念があります。 日米安保条約と日米地位協定によって、日本政府の同意の下、アメリカは日本に基地を置けます。北方領土に米軍基地を造らせないと約束しても、 「日本政府は約束を守るのか」と疑心暗鬼になります。ロシアは、日本をアメリカの従属国と見ているからです。

さらにロシアの国内事情も影響しています。昨年9月の統一地方選挙で、与党の「統一ロシア」が改選の行われた14地方の知事のポストを3つ失い、議会選でも16地方のうち14地方で比例区得票率を大幅に下げました。財政の逼迫から年金の受給年齢を引き上げましたが、それに対する国民の反発が理由でした。高い経済成長を見込めない中で、 プーチン露大統領は、平和条約締結に手を付けると強い批判を招きかねないと考えています。