4月下旬、米ワシントンで、安倍晋三首相とトランプ米大統領による「日米首脳会談」が行われ、同じ時期に、中国・北京では、巨大経済圏構想「一帯一路」の国際フォーラムが行われた。

150あまりの国が参加した同フォーラムは、まるで中国が各国を従えて国連総会でも開いているような印象を受ける大規模なものだった。日本からは自民党の二階俊博幹事長が出席したものの、アメリカは政府高官の派遣を見送った。

中国は、アメリカが仕掛ける貿易・金融戦争を「保護主義」と批判し、中国こそが自由貿易やグローバリズムを守っていると主張する。

今後、日本はどんな道を歩むべきか。日本経済を復活させるために必要なものは何か。専門家に聞いた。

(※2017年4月号本誌記事を再掲。内容や肩書きなどは当時のもの)

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日本式の経営で日本経済は復活できる

Interview

国際政治学者

藤井 厳喜

国際政治学者

藤井 厳喜

(ふじい・げんき)

1952年、東京都生まれ。ケンブリッジ・フォーキャスト・グループ代表。早稲田大学政経学部政治学科卒。クレアモント大学大学院政治学部(修士)を経て、ハーバード大学政治学部大学院助手、同大学国際問題研究所研究員。著書に『最強兵器としての地政学』(ハート出版)、『日米対等 トランプで変わる日本の国防・外交・経済』(祥伝社)など多数。

──グローバリズムの問題点とは何なのでしょうか。

藤井氏(以下、藤): グローバリズムにはさまざまな定義がありますが、 問題なのは、「経済のボーダーレス化」です。これが結局、国家の破壊を生むのです。

商売をするのに国家の壁がなくなれば、残るのは金儲け至上主義のマーケットだけです。「多国籍企業」は「無国籍企業」になってタックスヘイブン(*1)に逃げ、税金を払わなくなってしまいました。こうして過去40年、各国の国民生活の大部分が劣化していったのではないでしょうか。

グローバリズムで先進国も発展途上国も豊かになるという約束は、「幻想」だったことがはっきりしたのです。結局、人々の雇用を守り、自由や人権を保障できるのは「民主国家」という仕組みしかありません。

(*1)租税回避地。

自由貿易の本来の意味

──トランプ氏は自由貿易の破壊者だと批判されています。

藤: 確かに戦後日本の経済発展を支えたのは自由貿易でしたが、それは「モノの貿易」のことです。 人材や工場、お金まで外国に出ていくというのは、19世紀に自由貿易が提唱された時にも想定されていませんでした。

トランプ氏も自由貿易協定を破棄したわけではなく、「見直す」と言っているだけです。

いくら自由と言っても、兵器や違法薬物の密輸、安全性に問題がある商品の輸入に国家の規制がかかるのは当然のこと。これ以上の自由化で互いの国が傷つくなら、大事なところは守った方がいい、ということです。

──日本が長期の不況から立ち直れないのはなぜでしょうか。

藤: バブル崩壊後の90年代後半、国際決済銀行のBIS規制の導入を求められたのは、日本の銀行が世界を制覇しそうになっていたためです。日本の銀行は利幅が薄くてもどんどん貸し込みました。多額のお金が回転しているので、自己資本が小さくても良い条件で貸せたのです。

これではアメリカやヨーロッパの銀行はやられてしまうと思い、日本の銀行の自己資本比率を規制して、貸し出し額を押さえようとしました。

各国の自信を取り戻せ

藤: 日本式の経営も強かったのです。日本の会社はまずマーケットシェアを取り、ブランドを構築して、長期的に儲けようとした。例えば利益率が1~2%程度でもどんどん売りました。しかし欧米の企業は株主に高い配当を出さなければならず、10%ほど利益が必要だったりして、日本との薄利多売の競争では勝ち目がありませんでした。

また、日本の企業はトップダウンではなく、現場の社員のアイデアで製品の改良を進めるボトムアップ式で発展しました。

欧米は、バブル崩壊で自信を失った日本人に、過去の成功体験を忘れさせようとしたのです。

一方アメリカは、フォードやエジソンなど、トップダウン式でリーダーが工業を発展させた。強烈な個人主義がアメリカをつくってきたところがあります。

どの国も浮き沈みがあります。調子が良ければその国民性の良いところが、悪ければ悪いところが目立つというだけなのです。

──日本経済を復活させるために何が必要でしょうか。

藤: 日本人は先行きが不安だと、お金があっても使いたがらないので需要が生まれにくい。すると企業もお金を借りて事業を発展させる見込みが持てません。

私は、政府が鉄道や道路などのインフラに大規模に投資すべきだと考えます。社会的な需要を作り、国内でお金が循環して内需が拡大する仕組みをつくるべきです。トランプ氏が言っているのもそういうことです。

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