4月8日、総選挙に向けてマニフェストを発表するマレーシアのナジブ首相。Hafiz Johari / Shutterstock.com

《本記事のポイント》

  • マレーシア総選挙が5月9日実施予定 60年ぶりの政権交代なるか
  • ナジブ首相率いる与党連合と、マハティール元首相率いる野党連合の熾烈な争い
  • 中国にすり寄るナジブ氏と、中国を警戒するマハティール氏

マレーシアの選挙委員会は10日、総選挙を5月9日に実施すると発表した。同国では、ナジブ首相が率いる与党連合「国民戦線」が約60年にわたって政権を独占。選挙戦では、マハティール氏率いる野党連合「希望連盟」が、ナジブ氏らの「国民戦線」を追い上げる構図となっている。

ナジブ氏は、政府系ファンド「ワン・マレーシア・デベロップメント(1MDB)」の資金を不正流用し、自身の銀行口座に資金を一部移した疑いが報じられている。ナジブ氏の強権政冶への批判も根強く、マハティール氏は、「打倒ナジブ」を掲げた政党を結成し、野党連合を組織して出馬する。

ナジブ首相のなりふり構わぬ"保身政策"

自身の立場が危うくなったナジブ氏はここにきて、なりふり構わない保身術を次々と繰り出している。

まず、マハティール氏率いる「マレーシア統一プリブミ党」に対し、提出書類の不備を理由に、活動停止を命令した。これを受けてマハティール氏は、記者会見で「無所属でも立候補する」と発表した。

ナジブ政権はさらに「反フェイクニュース法」を制定し、現政権に批判的なメディアの報道を事実上、封じ込めた。こうしたナジブ氏の行動に対し、国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウオッチ」は声明で、「政府に都合の悪い報道は全て抑制しようという露骨な企てだ」と非難している。

ナジブ氏は公務員や年金受給者への現金支給や最低賃金の上乗せなど、選挙票を獲得するための露骨なバラマキ政策を打ち出し、人気の回復を図った。しかし、3月末に行われた世論調査では、「次期首相には誰がふさわしいか?」という質問に対し、過半数を超える61%がマハティール氏と回答。一方、ナジブ氏への期待は39%という結果になった。

中国にすり寄るナジブ首相

マハティール氏は現在92歳で、当選すれば世界最高齢の元首になる。22年という歴代最長の首相在任を経て、政界を勇退し、悠々自適な余生を送っていた同氏が、老体に鞭打ってナジブ氏に挑むのはなぜなのか。

マハティール氏が最大の問題意識を抱いているのは、「ナジブと中国の蜜月関係」とみられる。ナジブ政権は、習近平国家主席が主導するシルクロード経済圏構想「一帯一路」に相乗りし、マレーシアの対中関係を緊密化させている。中国から経済援助を受け、政府系ファンドの1MDBが抱える巨額債務を返済したい考えだ。

現在、マレーシアでは、「一帯一路」関連プロジェクトが鉄道、電力、工業団地、不動産、港湾などのインフラ整備投資を中心に40件ほど進んでおり、IT分野をはじめ、製造業、教育、農林水産、観光など幅広い事業に及んでいる。

中国は、自国の輸入原油の8割が通過するマラッカ海峡の安全保障を、アメリカが管理するという「マラッカ・ジレンマ」を抱えている。南シナ海のシーレーンが脅かされた場合のバックアップとして、マレーシアとの協力関係を築き、マラッカ海峡のルートを確保したい考えとみられる。

中国を警戒するマハティール元首相

マハティール氏は「一帯一路」に飛びつくナジブ氏について、「中国マネーを獲得するためには、それと引き換えに中国の影響力を受け入れる必要があり、そうなれば国内企業は衰退する」と指摘。自身のブログでも「マレーシアの最も価値のある土地の大半が外国人に占有されている。事実上、それらは外国の土地になるだろう」と警鐘を鳴らしている。

マハティール氏自身も、現役時代にクリーンな政治家だったとは言い難いが、中国に対する認識は正しいといえる。同氏が率いる野党の政権交代が実現すれば、マレーシアにおける中国の「一帯一路」が見直される可能性が高いだろう。

マハティール氏はかつて、「ルック・イースト」政策を強く唱えた。「イースト」とは東の国・日本を指す。戦後の荒廃より不死鳥のように蘇った日本の勤勉さに学ぼう、という運動だ。

日本は今でも東南アジアへの最大の援助国であり、投資国でもある。中国を牽制する意味でも、日本が今、外交力を発揮することが期待されている。

(小林真由美)

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