パネルディスカッションで発言するバノン氏。

《本記事のポイント》

  • 新国家安保戦略でトランプ氏が中国を「戦略的な競争相手」と位置づけた
  • 「トゥキディデスの罠」は、日米の繁栄によって中国に応戦すれば乗り越えられる
  • メインストリームメディアが報じない、トランプ氏による「奇跡」とも言える功績

トランプ米大統領の側近で、8月まで首席戦略官 兼 上級顧問を務め、現在、ブライトバート・ニュースの会長を務めるスティーブン・バノン氏が来日。16日から17日にかけて東京都内で行われた、アメリカの保守系政治イベント、CPAC(シーパック)の日本版「J-CPAC」で、他のゲストとともに講演やパネルディスカッションを行った。

日本ではあまり報道されない、「神」の観点からの政治や、トランプ政権に対する肯定的な分析が披露された。

J-CPACには、バノン氏のほかにも、マット・シュラップACU(アメリカ保守連合)議長やFOXニュースのコメンテーターを務めるゴードン・チャン氏らが登壇。講演の冒頭でシュラップ氏は、「保守とは何か」についてこう述べた。

「保守とはとてもシンプルな意味を持っています。つまり、個人は神からいただいた権利を持っています。その個人は他の人たちと共同して政府を創ることができます。つまり主権は個人に属し、政府には属していません。つまり、私たちが自分の国の未来のマスターであり、政府は小さな役割を担わなければならないということが保守思想の核心にあるものです」

続けて、バノン氏が講演。彼は、中国の脅威について訴え続けてきた欧米でも数少ないアジア通の国際政治の専門家。ベテランホワイトハウス記者であるキース・コフラー氏とのインタビューが掲載された本(『Bannon:Always the Rebel』(邦訳なし))の中でも、「今後、私の仕事の半分は中国問題になるだろう」と述べている。

アメリカの新国家安全保障戦略

J-CPACの直後の18日、トランプ政権は、外交・安全保障政策の指針となる「国家安全保障戦略」を政権発足後初めて発表した。「力による平和」を明記し、ロシアや、南シナ海の岩礁埋め立てで軍拠点化を行う中国を「現状変更勢力」と指摘。また、中国とロシア、イランや北朝鮮などのならず者国家、国境を超えたテロなど5つの問題を脅威とした。

この発表に先立ち、J-CPACでバノン氏は、数日後に発表される安保戦略では、中国を「戦略的競争相手」と呼ぶことにしたという点に触れ、トランプ政権が通商法301条等を適用しながら中国への圧力を強めていく用意があるとした。なお、弊誌が個別にインタビューを行ったゴードン・チャン氏は、アメリカが中国を「戦略的パートナーではなく、競争相手であると認定したことは大きな前進」と語っていた。

さらに、バノン氏は、習近平・国家主席が行った中国共産党第19回全国代表大会のスピーチは、トランプ大統領の就任式の演説より、はるかに大きな意味を持ったものであるとして、こう述べた。「中国の、ぞっとするような大胆で全世界規模の野望に立ち向かうには、アメリカと東アジアの同盟国が結束を強化しなければならない」

そして、「第二次大戦の始まる前の1930年代も、自由の守り手である西側のリーダーたちは、現実を直視せず融和的な政策で問題を先延ばしにしてきた。我々には、もう簡単な解決策が残されてはいない。厳しい選択肢が残されているだけだ」と述べ、アメリカと同盟国が中国の脅威に真剣に取り組むよう訴えた。

J-CPACの会場の様子。

アメリカは中国の従属国家であることをやめる

またアメリカは、年500億ドルから485億ドルの貿易赤字をかかえ、高付加価値の製品を中国が製造し、それをアメリカが輸入するという事実上の「従属国家」に転落していると指摘。そのような状態は、「独立戦争前のイギリスの最初の植民地であった、ジェームズタウンと同じ状態だ」と指摘。トランプ氏は、中国の従属国家であることをやめるだろうという見通しを示した。

18日に発表された安保戦略でも、通商政策が要の一つとなっている。中国は、外国資本が中国の市場に参入するにあたり、非公式に技術移転を迫ってきた。これまでアメリカはこの問題に対処するために通商法301条による調査を行ってきたが、これが適用されれば、3.5兆ドルもの技術移転という「貢物」に歯止めがかかることになるだろう。

「トゥキディデスの罠」を避けよ

さらに、バノン氏は、これまで欧米の知識人は、中国が豊かになれば民主化すると考えてきたが、全く逆のことが起きた。つまり、「25年間戦略的な休暇(strategic holiday)状態にあったのです」と述べて、さらなる戦略ミスを犯さないよう、国際政治学者の間で話題になっている「トゥキディデスの罠」についても言及した。

この議論の発端にあるのは、ハーバード大学のグレアム・アリソン教授が今年発刊した本である、『Destined to War: Can America and China Escape Thucydides Trap?』(邦訳『米中戦争前夜』)という本で、タイトルにもあるように、「どうすれば米中戦争を回避できるか」が著者の問題意識の中心にある。

トゥキディデスとは、古代ギリシアで、ペロポネソス戦争を描いた『戦史』(『ペロポネソス戦争史』)を遺した有名な歴史家であり、覇権国家スパルタに挑戦した新興国のアテネの脅威がスパルタをペロポネソス戦争に踏み切らせたことから、「トゥキディデスの罠」とは、最終的に覇権を争う者の間には戦争を免れることができない、という歴史的な宿命を意味する言葉になった。

この著書の中でアリソン教授は、多少乱暴にまとめれば、現在の覇権国家と次なる覇権国家を目指す国家との間には戦争が起きやすいので、「国際秩序のためには、中国は東をアメリカは西を統治しよう」というディール(取引)を結んでしまうことだ、と言っている。

これは、中国がこれまで主張してきた「新型の大国関係」の容認であり、かつ、元国務長官でトランプ政権の外交アドバイザーでもある、国際政治学者のキッシンジャー氏の「G2」議論と同類のものだ。注意しなければならないのは、アリソン教授が単なる学者ではなく、数十年にわたって国防総省のアドバイザーなどを努めた回転ドアタイプの実務家でもあることだ。

だがバノン氏は、覇権国家が次なる覇権を目指す国家に挑戦されるから戦争が起きるという議論は、既定路線でもなければ物理法則でもないと、アリソン教授やキッシンジャー氏の主張を一蹴。そして、日本の進むべき道について、こう指南した。

「日本人は国家の命運の手綱をしっかり握って国家のアイデンティティを再確立し、アメリカと本当の意味でのパートナーシップを築いていくことができると思います。そして、今までのエリートたちが日本に許してきたことをひっくり返すのです」

要するに覇権国家アメリカとそのパートナーである日本が衰退することなく世界の牽引役となることができれば、この歴史的宿命に陥ることなく、罠を乗り越えられるのだと論じ、日本にも経済的発展繁栄を目指すよう呼びかけた。その主役は、日本でも既得権益社会にノーを突き付けることができる大衆だと見抜いた。

メディアが報じないトランプ大統領の功績

また、バノン氏は、メインストリームメディアが報じない、トランプ氏の「愛国主義」の功績についてこう語った。

「NY連邦準備理事会は先週の金曜日、アメリカの第4四半期の経済成長率は、4%になる見込みだと発表しました。ヒスパニックや黒人の失業率、そして国全体の失業率もこの18年で最も低い水準になっています。農業や建設業における労働者の賃金も上昇しています。株価も33%上昇しています。就任以来220万人の雇用も生まれました。

まだ減税法案が成立していないのに、この成長率を達成したのです。しかし、それに対する報道はありません。もし前オバマ大統領がトランプ大統領と同様の成果を上げたら、ノーベル経済学賞を受賞したでしょう」

そして、トランプ氏の経済面における成果は「奇跡的だ」と讃えた。

また、もう一つの奇跡は、安全保障面にあるとして、こう述べた。「トランプ氏は、文明国が連携してイスラム過激派を一掃すると宣言しました。イスラム国の下で2014年に800万人の人が奴隷となっていましたが、トランプ氏が就任して10カ月でイスラム国の拠点が完全に殲滅されたのです」

しかもトランプ氏の5月の中東訪問によって、サウジアラビアなどのイスラム教スンニ派諸国が、国内の過激派を一掃し、イスラム教の穏健化に向けて改革を行うという約束を取り付けたとして、10カ月で中東情勢を一変させた成果はどの大統領も成し遂げられなかったことを強調した。

中国の挑戦に応戦するアメリカと日本の担うべき役割

また、筆者はJ-CPACの席上で、「バノン氏が大切にされているユダヤ・キリスト教的価値観をはじめとする西洋的価値観は、中国と戦うためにますます必要になってくるのではないか」と質問。

すると、バノン氏はこう答えた。「西洋的価値観の中には、民主主義、法の支配というものがあり、その価値観が戦後日本とアメリカをつないできました。いま中国では、夜中に突然警察がやってきて刑務所に人を放り込んだり、財産を没収したりしていますね。このようなことは、西洋が3000年間かけて創ってきた法の支配といった価値観に反するのだということを訴えていかないといけません」

筆者の質問に応じるバノン氏。

発表されたばかりの安保戦略と合わせてバノン氏のスピーチを聞けば、アメリカが「文明の応戦」によって、中国の脅威に打ち勝つための戦略を立てたことが分かる。

日本もアメリカと同じく、繁栄の道を歩み、文明の応戦によって危機を乗り越えなければならない。この面で日本に期待される役割は大きい。その主役となるのは、エスタブリッシュメント(既得権益層)に抑圧されてきた大衆であろう。

(長華子)

【関連書籍】

幸福の科学出版 『国家繁栄の条件』 大川隆法著

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幸福の科学出版 『信仰の法』 大川隆法著

https://www.irhpress.co.jp/products/detail.php?product_id=1952

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2017年11月19日付本欄 トランプの“最側近"だったバノン氏、来日し、中国覇権を本気で警告(前編)

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2017年11月20日付本欄 トランプの"最側近"だったバノン氏、来日し、中国覇権を本気で警告(後編)

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