《本記事のポイント》

  • 「加計学園」獣医学部が認可
  • 「政府が学部新設をコントロールするのは当然」なのか?
  • 「医師過剰を予測して、医師不足を招いた」役所に、獣医数をコントロールする資格はない

そもそも、なぜ役所が民間の事業を"潰す"ことが、当たり前であるかのような議論がされてきたのだろうか――。

文科省はこのほど、学校法人「加計学園」による獣医学部新設を認可したと発表した。

同省はこれまで、「獣医師の数は足りている」として、獣医学部生の定員を増やさない方針を貫いていた。そんな中、政府は、戦略特区の中で、一つだけ学部開設を認める方針を決定。その中に、加計学園が選ばれた。

それに対して、文科省元事務次官の前川喜平氏は、報道機関に書面を送付。「加計学園の獣医学部を認可してはならなかった。総理のお友だちにだけ特権を与える行政行為であり、我が国の大学行政に大きな汚点を残した」と批判した。

政府が学部新設をコントロールするのは当然なのか?

認可の過程において、首相の個人的な交友関係が影響していたという疑惑がある。もしそれが本当なら、公平とは言えない。

しかし、今回の認可を批判するトーンを見ると、あたかも、「そう簡単に認可しないことこそ、行政の責務だ」と言わんばかりだ。

そもそも、なぜ「役所が、民間企業の事業の可否を下す」ことが、当然の仕事であるかのように議論されているのだろうか。獣医という仕事がいくら特殊といえども、普通の業界ならあり得ない。

今まで文科省が獣医学部の新設を制限してきた理由は「獣医は将来にわたって、不足しない」という判断からだ。今回の、「加計学園」の獣医学部認可・不認可にあたっても、焦点となったのは、「本当に将来、獣医にニーズがあるのか」ということだった。

事業のニーズを判断するのは、普通は経営者の仕事だ。そこに、「数十年後の獣医のニーズを予想した結果……」と口を挟んでくる役所は、よほど未来予測に優れているのだろうか。

「医師過剰を予測して、医師不足を招いた」役所

実は、役所や政治家には、「医師が増えすぎると予測して、医学部の定員を絞った結果、深刻な医師不足を招いた」という"前科"がある。

役所と政治家は「医師過剰」を訴え、1982年と1997年に閣議決定で医学部の定員を削減することを決めた。1979年の琉球大学以来、一つも医学部新設は行われなかった。

しかし近年、救急患者の「たらい回し」や、地方で病院が診療科を閉鎖する「医師不足」が深刻になっている。

日本の医師数(人口1000人当たり)は、OECD平均の3分の2程度と、国際的にもかなり少ない。

政府は2008年、とうとう医学部定員抑制方針を撤回した。

それでも医者を育てるには10年かかる。さらに、医学部を増やせば、その教員として、さらに医者が現場から抜かれてしまう。一時的には、医師不足はさらに深刻になりかねない。

医学部新設を門前払いせずに、少しずつでも増やしていれば、このようなことにはならなかった。

役所に、獣医数をコントロールする資格なし

高齢化が進む中、医師需要が高まっていることは、容易に想像できたはずだった。しかし役所・政治家は、「不足する」「過剰になる」という二択で、予測を間違えたのである。

こうした"前科"を見ると、政府が獣医の「需要の見通しを考慮して」などと言い、当たり前のように学部新設をコントロールする状況には、疑問を感じざるを得ない。少なくとも、憲法にある「職業選択の自由」を制限するような"強権"を発動する資格はないのではないか。

(馬場光太郎)

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