Truba7113 / Shutterstock.com

インドのナレンドラ・モディ首相が、このほど思い切った策に出た。予告なしに、高額紙幣である500ルピー札と1000ルピー札の廃止を敢行したのだ。8日夜に突然、テレビで「今日の深夜から2紙幣は使えなくなる」と宣言。インド全土を驚かせた。

無効化された2紙幣は、10日から12月末までに、銀行窓口で新紙幣と交換するか、預金するかすれば価値が維持される。インド各地の銀行前には、自身の資産を確保すべく、早朝から人々が列をなした。

1000ルピーは、日本円で言えば1600円程度だが、現地の価値感覚としては5万円以上。日本に5万円札があるとして、ある日突然「今日の夜から5万円札は使えなくなります」と言われるようなものだ。

多額の資産を紙幣で持っている富裕層には大打撃となり、経済発展にブレーキがかかる可能性も高い。

なぜモディ首相はこのような手段にでたのか。その理由として、テロ組織の資金源となっている偽札、脱税や汚職による「ブラックマネー」対策が挙げられる。

インドにはびこるブラックマネー

今回の高額紙幣無効化の措置によって、多額の資産を現金で持っている人たちは、銀行に預金するか新紙幣と交換することになる。これにより、金銭の流れや資産を国が監視することもできる。大きな政府による一元管理は国民の自由を奪うことにもなりかねない。

だが、インドの経済の現状をよく見る必要がある。というのも、インドでは地下経済がGDPの50%にのぼると言われており、政治家などの汚職も横行している。モディ首相はこのような汚職撲滅のために、法改正などの施策を打ってきた。

しかし、それだけでは改善できないほどに、インドでは汚職がはびこっている。選挙の監視を行うインド・ニューデリーの市民団体「民主改革協会(ADR)」の調べによると、インドの下院議員、並びに州議会の4人に1人以上が刑事犯罪の疑いをかけられている。むしろ犯罪歴がある立候補者の方が、資金力が高く、票を買収できるため、当選確率が犯罪歴の無い立候補者よりも2倍高いという。

また、同団体の調査によると、2004年5月から2011年12月における、国政政党の収入の75%が資金源が不明であるという。いかにブラックマネーが横行しているかが分かる。

このような状況を打開するために、モディ首相は荒療治に出たというわけだ。フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領が、麻薬と汚職撲滅のために、過激な手段で取り締まっているのと同じようなものだと言える。

経済発展の基礎には道徳観が必要

紙幣の無効化を宣言した5日後の13日、モディ首相はゴア州にて、国民に対するメッセージを発した。モディ首相は、国民が困難に直面していることを認識していると述べた上で、ブラックマネーがいかに国を腐敗させているかを力説。改革には痛みを伴うものだが、50日間だけ共に耐えてほしいと国民に訴えかけた。

スピーチ中には、「国のために、家も家族も全てをなげうってきた」と涙ながらに語り、「たとえ火あぶりにされても私は(ブラックマネーの一掃を)やり続ける」と宣言した。

インドにおいて、数少ない「清廉な」政治家であるモディ首相。インド国民からも高い支持を受け、尊敬されている。

インド政治の現状を見れば「荒療治」も必要かもしれない。今回の強硬手段も、インドの政治体制を立て直し、清浄化するために行ったことだろう。インドが貧困問題を乗り越え、経済的発展を目指すためには、まずは正常な道徳観が浸透することが大切だ。インドの今後の動向に注目したい。(片)

【関連記事】

2016年10月30日付本欄 ドゥテルテ比大統領が国内で圧倒的な人気のワケ 実は「親日家」の素顔も

http://the-liberty.com/article.php?item_id=12144