自民党の国防部会はこのほど、防衛装備に応用可能な研究をする大学などに対し、基礎研究に助成する「安全保障技術研究推進制度」の予算を、増額するよう求める提言案をまとめた。提言には、当初予算の30倍以上となる「100億円程度」と盛り込まれている。18日付東京新聞が報じた。

防衛省は昨年度より、防衛技術が多くの中小企業に頼っている現状を変えるため、研究開発に国費を投じる「安全保障技術研究推進制度」を始めた。提言は、この流れを強化するものだ。

今回の提言について、東京新聞は社説で、「軍事目的に有用となれば、研究成果はまず公開されない。研究成果は誰のものか。科学技術立国と矛盾しないのか」と主張。軍事と宇宙開発が一体となることは、宇宙の平和利用に反するとしている。

"反戦・平和"をお題目のように唱える同紙にとって、防衛省と民間が協力することは、警戒すべき事柄なのだろう。だが、軍事技術が民生品に転用される「スピンオフ」の例は多く、知らず知らずのうちに"元軍事技術"を利用している事実を忘れてはならない。

ミサイル技術がスーパーで使われている

滋賀県に本社を置くオプテックスは、1980年に、人の重量を感知してドアが開閉する「足踏みマット式」が主流だった自動ドア業界に、革新的な商品を投入した。それは、ドアの上に設置されている「遠赤外線センサを使った自動ドアセンサ」。

当時、赤外線センサは、ミサイルを誘導するために使われている高価な軍事技術であった。創業者の小林徹氏は、これに目をつけた。赤外線センサで人間を感知する自動ドアを開発。足踏みマット式よりも、誤作動や故障が少ない新商品により、創業わずか3年目にして、世界トップシェアに上り詰めた。

赤外線センサの自動ドアは、今やスーパーやオフィスなど至る所に設置され、「業界の常識」となった。

デジカメの元は、スパイ衛星技術

日系企業で世界シェアトップを占める「デジタルカメラ」。デジカメは、キャノンや、ニコン、ソニー、パナソニックなどが生産・販売している主力商品だが、デジカメもまた、軍事目的から生まれたものだ。

宇宙開発で米ソが競争していた冷戦時代。アメリカは、人工衛星から磁気や放射線に影響されずに撮影できる技術を必要としていた。この研究に挑んだのが、後にノーベル物理学賞を受賞するウィラード・ボイル氏。

ボイル氏は、宇宙で撮影した映像を電子化して、地上に送信する「CCDカメラ」の開発に成功。これにより、フィルムを必要としなくなったCCDカメラは、スパイ衛星に搭載され、アメリカの情報収集能力を飛躍的に向上させた。

実は、このCCDカメラの商用化に道筋をつけたのは、ソニーの技術者・岩間和夫氏だ。岩間氏は、「CCDカメラを使って5年以内に、5万円のビデオカメラをつくる」と意気込み、78年に試作品を開発。CCDカメラの量産化に成功する。

その後、富士フィルムが、CCDカメラを使った世界初のデジカメを発売して以降、デジカメは日本の強みとなっている。写真はある意味で、スパイ技術の一種なのだ。

「軍事研究=絶対悪」ではない

赤外線センサやデジカメ以外にも、インターネットやパソコン、携帯電話、電子レンジ、テレビゲーム、原子力発電所は、いずれも軍事技術をベースにしている。これらの技術の恩恵を受けていない日本人など、一人もいないだろう(むしろ、これがなければ、本欄も読めないのだが)。

日本が経済大国にまで発展できたのは、もちろん、優秀な技術者が多くいたためだ。だが、成長の大きな要因には、他国が発明した軍事技術を商用化してきた事実がある。その大本である軍事技術を否定するのは、あまりにも的外れな意見と言える。

「軍事研究=絶対悪」という単純な図式で捉えるべきではない。軍事研究は、有事においては、国民を守る要となり、平時においては、国民を豊かにする技術にもなり得るのだ。

(山本慧)

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