《本記事のポイント》

マイナンバーの「3K」

  • 金かかる――システム利用料が年間100億円
  • 個人情報が漏れる――相次ぐ漏えい事故
  • 管理が面倒――中小企業には負担ばかり

「健康保険組合」や「協会けんぽ」などが、マイナンバーを使って所得を確認するシステムの利用料として、年間100億円かかることが分かった。厚生労働省が各健保組合に対して、システム運営費をまかなうために、利用料として加入者とその家族について一人当たり月額10円弱の負担を求める通知を出しており、合計は年間100億円。大きな反発を受けている。

これは、2015年に可決した改正マイナンバー法によって、マイナンバーの利用範囲を拡大するために進んでいる事業だ。2018年からは、マイナンバーカードを健康保険証として利用することが可能となる。

また、マイナンバーカードのICチップの民間利用も推進されている。ポイントの計算や入退社の処理は各社が行うが、カードアプリの搭載システムをクラウドで管理することにより、企業が利用する場合は保守費用として、年間100万円、開発費として一枚当たり10円を請求される。

利用範囲拡大によって、病院で提示する保険証も、スーパーのポイントカードも、DVDレンタルカードも、すべて一枚のマイナンバーカードで済み、便利になると宣伝されている。しかし、その背景には莫大なコストがかかっていることが分かってきた。

相次ぐ地方公共団体の誤送付

セキュリティにも問題がある。地方公共団体の情報漏えいも相次いで報道されている。特にマイナンバー通知カードの誤送付が多く、マイナンバーを変更した例も数多く出てきている。2016年4月から9月の約半年間でマイナンバー漏えい事故は66件。その後も、マイナンバーを記載した書類を別人の住所へ送付してしまったり、マインナンバーの記載された書類が盗難にあったりするなど、漏えい事故が絶えない。

こうした情報漏えいを問題視して、仙台市では、事業所用の住民税特別徴収額の決定・変更通知書に記載する従業員のマイナンバーを、通知書本体とマイナンバーのみを印字したものとに分割して郵送することを決めている。行政の手間やコストも倍増してしまっている。

企業側は管理の負担が増えるばかり

また、中小企業にも、従業員のマイナンバー管理が押し付けられている。便利になるどころか、負担ばかりというのが実情だ。

ある弁理士事務所の経営者は、「13,4人の従業員のマイナンバーのコピーを集めてロッカーにカギをかけて保管している」という。「源泉徴収の書類などは会計事務所も見ます。信頼はしていても、知らない人の目にさらされるのは事実なので、抵抗はあります」

中小企業も、マイナンバーを漏洩させると罰則を受ける可能性がある。しかし、細やかな管理ができていないところもある。「マイナンバーをコピーした紙はファイルに入れて通常の書類と同じように管理している。手間ばかり増えて仕事に負担がかかるため、会社側としては管理していられない」(従業員10数人の中小企業経営者)

パソコン上で従業員のマイナンバーを管理していても、「セキュリティソフトまで投資できていない」という会社もあるようだ。いずれにせよ、企業にコストや法的責任を押し付け、手足を縛る結果となっている。

マイナンバーって必要?

そんな状態だが、政府はマイナンバーカードの普及に"必死"だ。全国の市区町村別で交付割合を表にして公表しており、今年3月時点で、トップは38.0%から最下位は2%程度とばらつきが多いが、全国平均では8.4%にとどまる。

政府は、マイナンバー単独では、個人情報を引き出すことはできないと説明するが、近年では、複数の公的機関が同時にサイバー攻撃を受ける例も少なくなく、重要な情報が漏れないとは言い切れない。

運用開始から1年が過ぎるマイナンバー。「便利になる」という触れ込みとは裏腹に、「3K(金がかかる・個人情報が漏れる・管理が面倒)」とも言える実態が、官も民も泣かせている。

メリットよりも、デメリットのほうが大きいマイナンバーの利用範囲を拡大する前に、制度自体の見直しが必要ではないだろうか。

(HS政経塾 坂本麻貴)

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