【名画座リバティ (23)】昭和の生き方(1) 心の弱さに耐える──『姿三四郎』
2026.04.19
東宝『姿三四郎』より。
映画ファンの皆様、「二週間のご無沙汰でした」。
と、いきなり若い世代には通じない昭和のネタ(玉置宏)で始めてしまいました(笑)。今回から折に触れ、昭和の名作邦画を取り上げたいと思います。大川隆法・幸福の科学総裁は『自分を鍛える道』で、向かうべき方向がわからなくなっている現代人の生き方に関し、次のように説いています。
「今の令和の時代だったら、"昭和の生き方"をもう一回ちょっと考え直してみることで、ちょうどピントは合っているかもしれません。そして、もう一回、世の中の常識や道徳や、あるいは人々が目指すべきものは何なのかということを考えなければいけないのです」
昭和の生き方をふりかえる最も手頃な手段が名作映画です。たとえば日本映画の黄金期とされる昭和20年頃から30年代の名作には、戦中の耐え忍びや戦後の復興の息吹と、戦前の古き良き気風や人情が共存しています。昭和ゼロ年代の邦画はサイレントが多く、現代の私たちの鑑賞には適さない面がありますので、昭和10年代以降の作品から"昭和の生き方"を探ってみたいと思います。一見、古びた名作も、人としての生き方を考え直すために観直す時、新たな相貌を現すはずです。
一本目は太平洋戦争中、昭和18(1943)年の『姿三四郎』。黒澤明の監督デビュー作です。大衆小説を映画化した大ヒット作なので、当時の日本人が好んだ要素が詰まっており、大川総裁も、ある文章で本作の名場面にふれています(後述)。
【あらすじ】
明治15年、会津から柔術家を目指して上京した青年・姿三四郎(藤田進)は、矢野正五郎(大河内傳次郎)門下となり力をつけていく。ある日、神社で一心に祈る美しい娘・小夜(轟夕起子)に出会いほのかに惹かれ合う。小夜が来たる警視庁武術大会で自分と戦う村井半助(志村喬)の娘であり、老いた父の勝利を祈願していると知った三四郎は心に迷いを生ずるが、和尚の一括で無心を取り戻し村井を倒す。残るは、村井の門下で蛇のような殺気を秘めた檜垣源之助(月形龍之介)との対決。二人は烈風吹きすさび暗雲が怪しく空を駆ける右京が原で雌雄を決する。
痛快な柔道アクション映画にして純情な恋物語ですが、三四郎の人間的成長も描かれています。有名なのが池の場面(写真)です。これは、町で喧嘩をした三四郎が夜、師から「お前は人間の道を知らん」と叱責され、反発して「先生のためなら死ねます」と叫ぶや庭の深い池に飛び込み棒杭につかまっているところです。意地を張り深更まで冷たい池に漬かり続ける三四郎は、和尚から慢心を指摘され、空の月と、明け方に池の泥から花を開かせた清らかな蓮を目にして、一つの悟りを得るのです。
月と蓮という仏教的モチーフを用いたこのシーンに、大川総裁はある詩編(*1)で言及しています。カンフー映画で悪人の日本人が中国人に倒されるように、すべてを外国人のせいにする全体主義国家のやり方を批判したのち、次の言葉が続きます。
「自らの弱さを省(かえり)みないものは、/自らの悪をも認めない。/黒澤明映画の姿三四郎は、/外国人を投げとばすだけでなく、/蓮池の中の棒杭につかまって、/自分の心の弱さに耐えていた。/強さと弱さの両方を知って、道は開けるのだ。」
自らの弱さを反省しない姿勢は、所詮は天狗的な慢心であり、それ以上の進歩はありません。己の心の弱さを見つめ、それに耐える謙虚さこそ、真に強くなる者の条件であり、本来の武士道精神に基づく古き良き日本人の心ではないでしょうか。
また、「祈り」についての場面もあります。三四郎が師の矢野と共に、神社で祈る小夜を目にした時、矢野は言います。「祈るということの中に自分の我を捨てて神と一つになっている。あの美しさ以上に強いものはないのだ」。これは祈りに関する幸福の科学の教えにかなっています。
映像面の見どころとしては、18歳で描いた絵が二科展に入選した黒澤らしい構図の美しさが、すでに本作から光っています。たとえば三四郎が神社の石段で小夜の鼻緒をすげる場面の「縦の構図」(複数の人物を画面の左右方向でなく前後に奥行きをもって配置する構図)の絵画性。映画監督の増村保造は本作を論じつつ、黒澤映画の特質についてこう述べています。
「それぞれの画面が実に丹念に作られている。(…)黒澤さんの映画を思い浮かべる感覚の鋭さ、そして、その映画を強引に画面化してしまう腕力のたくましさは、群を抜いていて(…)映画の隅々まで、独特の映画美にあふれていないと気がすまないのである」(*2)
その映像美と、心の弱さに耐えて慢心に克つ精神修養や、祈りの心の普遍性により、本作は80数年後の今も鑑賞に値する秀作です。私たちも"池の水の冷たさ"に耐え、道を開いてまいりましょう。
(*1)『心の指針 第十五集 ヒーローの姿』(幸福の科学刊)
(*2) 『キネマ旬報セレクション 黒澤明』(キネマ旬報社)
(田中 司)
『姿三四郎』
- 【スタッフ】
- 監督・脚本:黒澤明 原作:富田常雄
- 【キャスト】
- 出演:藤田進 大河内傳次郎 月形龍之介 轟夕起子 志村喬ほか
- 【その他】
- 1943年制作 | 日本 | 79分
【関連書籍】
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