痛烈な皮肉としか思えない授賞式が、物議をかもしている。このほど、北朝鮮と友好国であるマレーシアのヘルプ大学が、北朝鮮の金正恩・第1書記に「経済学名誉博士号」を贈っていたことが分かった。同大学が外国の元首に名誉博士号を贈るのは初めて。授賞式は今月3日に同国の北朝鮮大使館で行われ、金正恩総書記の代理として北朝鮮大使が証書を受け取ったという。

同大学のポール・チャン総長は、各国への教育支援活動家。授賞の際の声明では、「北朝鮮の国民との間の懸け橋になる」と言及。また、アメリカの元国務長官ヘンリーキッシンジャーが70年代に中国を訪問した後、中国が国際経済や国際政治の一員となったことを紹介。北朝鮮も6年以内に国際社会の一員になると予想し、今後は教育支援を通して北朝鮮国民の生活の改善を支援したいと述べた(10月22日付フォーリン・ポリシー電子版)。

しかし、ヘルプ大学の卒業生は、Facebook上で「飢えに苦しむ北朝鮮国民の現状は変わらない」「OBとして恥ずかしい」「いい売名行為」などの声を寄せている。北朝鮮の金政権は、一部の特権階級以外の国民は日々の食べ物にも窮しており、「奴隷」のように働かされ、“政治・思想犯"などを集めた収容所では、きわめて凄惨な人権弾圧を行っていることは世界の常識だ。

今年3月には日本などの提起で、国連人権理事会が、北朝鮮の人権侵害に関する調査委員会を設置。ソウルや東京などで脱北者約200人の情報収集を行い、10月23日の公聴会では、男女4人の脱北者たちから聞き取り調査を実施。脱北に失敗した人たちが尋問所や刑務所に連行されて手足を縛られて裸にされ、拷問や性的暴行などを受けているといった実態が明らかにされた。調査報告は来年3月にまとめられる予定という。

今回の「博士号」の授与は、独裁的な金政権を容認することにつながり、国際社会にも誤ったメッセージを送ることになる。北朝鮮の国民を救うためには、人権侵害の実態を詳らかにし、各国が正義に基づいて行動しなければならない。拉致問題の被害国でもある日本は、その中心となって声を上げる必要がある。(晴)

【参考書籍】

幸福の科学出版『北朝鮮の未来透視に挑戦する』大川隆法著

https://www.irhpress.co.jp/products/detail.php?product_id=914

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