2012年11月号記事
ワシントン発
バランス・オブ・パワーで読み解く
伊藤貫のワールド・ウォッチ
(いとう・かん)
国際政治アナリスト。1953年生まれ。東京大学経済学部卒。米コーネル大学でアメリカ政治史・国際関係論を学び、ビジネス・コンサルティング会社で国際政治・金融アナリストとして勤務。著書は『中国の核戦力に日本は屈服する』(小学館)、『自滅するアメリカ帝国』(文春新書)など。
国際政治はバランス・オブ・パワー(勢力均衡)から逃れることはできない。アメリカの退潮、中国の台頭、北朝鮮の核武装──。日本の置かれた立場は確実に不利に傾いている。日本が主体的にパワー・バランスをつくり出すために、国際情勢をどう読み解けばいいのか。
第7回
領土紛争の多発はノーマルな国際政治の姿である
──日本と中韓露三国との領土紛争が激化しています。
21世紀の国際構造は着々と多極化しています。 実は多極構造の世界で、領土紛争が多発するのは自然なことなのです。 16世紀から1945年まで続いた多極構造の世界では、常に5~6の大国が勢力圏拡大競争と領土紛争を繰り返していました。1947~89年の米ソ二極構造時代、国際政治はとても安定していましたが、あのような固定化された国際構造こそ「例外的な環境」だったのです。少し苛酷な言い方かもしれませんが、 最近の日本が周辺諸国との領土紛争に悩まされるようになったのは、「多極構造下のノーマルな国際政治に戻った」と言えます。 中韓露三国との領土紛争で、私が特に怖れるのは中国との紛争です。