《本記事のポイント》

  • 専門家は2027年までに台湾侵攻で一致
  • 米軍本格介入の状況下では難しい台湾侵攻
  • 米軍の介入を避ける形の武力侵攻作戦とは?

元航空自衛官

河田 成治

河田 成治
プロフィール
(かわだ・せいじ)1967年、岐阜県生まれ。防衛大学校を卒業後、航空自衛隊にパイロットとして従事。現在は、ハッピー・サイエンス・ユニバーシティ(HSU)の未来創造学部で、安全保障や国際政治学を教えている。

前回は、台湾総統選についてお話ししてきました。今回も、中国の台湾への軍事侵攻の可能性について、引き続き述べて参ります。

この点を考える上で重要な変数は、中国経済の動向です。

中国全体の負債が1京円を超え、総額約8000兆円の社会融資の大部分が不良債権となっており、国内総生産(GDP)の30%を占めた不動産投資も、不動産価格の下落が続いています。

また若者の失業率は、公表されている21%でなく、実際は46%強もあることが指摘されており、極めて不安定な状況にあると思われます(*1)。

悪化した経済は、開戦への足枷となるという意見もあります。

台湾の蔡英文総統は米ニューヨーク・タイムズ紙主催のディールブック・サミットで、「中国指導部は現時点で国内の課題に圧倒されている」と指摘。「恐らく今は台湾への大規模な侵攻を検討する時期ではないというのが私の見解だ」と述べました(*2)。

しかし楽観視するのは危険でしょう。国内の求心力を高めたり、海外投資の損失を軍事力で回収したりする目的で、かえって軍事侵攻の引き金をひく場合もあると思われるからです。

専制国家では、トップの一存で外交や政策が動きます。習近平氏の意志一つで台湾侵攻が決まると考えるべきで、気を緩めてはなりません。

(*1)「宮崎正弘の国際情勢解題」(2023.12.30) 通巻第8074号
(*2)Bloomberg(2023.11.30)

専門家は2027年までに台湾侵攻で一致

日米の安全保障の専門家の間では「台湾有事が起きるか否かではなく、いつ起きるか」に焦点が移っています。

「それがいつになるのか」について、アメリカの政府高官やシンクタンクの研究者のほぼ全員が2027年までに中国軍が行動を起こす可能性が高いという見解で一致しているようです(*3)。

その根拠はいくつかあります。1つ目は、習氏の任期にかかわります。

習氏の任期には制限がありません。しかし景気が厳しくなっている中、3期目が終わる2027年までに毛沢東を超える実績を出さなければ、続投に正当性を持たせるのは困難になる可能性が高いです。

毛沢東も成し得なかった台湾攻略に成功すれば、終身皇帝への道が開けると考えても何ら不思議はありません。

2つ目は中国軍の準備です。CIAのバーンズ長官は、習氏が中国軍に「台湾侵攻能力を2027年までに獲得するよう指示したという情報をつかんでいる」と発言しています(*4)。

このように台湾侵攻は2027年までに起こる可能性があり、最長で3年の猶予しかないという前提で、備えをしておく必要があるのです。

ただ、ウクライナと中東の情勢によって、台湾侵攻の時期はより早まった可能性があります。

中国が台湾の武力統一を決意している場合、台湾侵攻を決定する要素は、中国軍の侵攻準備と、米軍の介入能力と意志、およびそれを取り巻く国際環境の変化であり、この関数の変化によってはじき出されるからです。対ロシア、対イラン、対中国の三正面作戦を強いられるなら、かなり厳しい未来が予想されます。

ちなみに、元海上自衛隊提督の見積もりでは、台湾防衛のために必要な米軍の規模は、5個空母打撃群の合計50隻、攻撃型原子力潜水艦20隻、空軍の戦闘機が1000機、爆撃機40機、輸送機・空中給油機は計1200機が必要になるとされています(*5)。

米海軍の空母は全部で11隻ありますが、メンテナンスや補給が必要になるために、実戦時に一度に投入可能な空母の総数は、最大6隻程度と見積もられています。

したがってアメリカが真正面から台湾を守るためには、ヨーロッパと中東方面に足枷がなく、全力で戦力を投入出来ることが前提になるのです。

(*3)劉明福『中国「軍事強国への夢」』峯村健司監訳(文藝文春 2023年) p.294
(*4)KYODO(2023.2.3)
(*5)日経ビジネス(2023.2.6)

トランプ氏勝利なら2024年は台湾島嶼部への侵攻も

以上述べてきたように台湾有事は差し迫った大きな危機です。

今年に限って予測すれば、ウクライナ情勢や中東情勢の推移、台湾の総統選とアメリカ大統領選の結果が影響する可能性が高いです。


HSU未来創造学部では、仏法真理と神の正義を柱としつつ、今回の世界情勢などの生きた専門知識を授業で学び、「国際政治のあるべき姿」への視点を養っています。詳しくはこちらをご覧ください(未来創造学部ホームページ)。